53話 作戦説明
「つまんねえなぁ」
「まあ、こっちの方が台本を破らずに済むだろ」
「台本が変わったら面倒くさいしな」
卯月の作戦室でベセトア軍の兵隊は愚痴っている。よほど生きのいい獲物が良かったらしい。ちなみに、ミラス旅団長やヒンベル、ジュストン中佐もいる。
ヒンベルは夏服。黒いスーツを脱いで灰色のベストが特徴。
「考えたな、琴音。軍事演習とは」
「何を偉そうなことを。ホントはあんたが思いつかなきゃ、昇格のネタにはならないんだぞ」
「……わかってるよ」
私たちは戦争をやらない。かわりに、武力顕示を目的とした軍事演習を行うことにした。だが、かなりの火遊びにはなる。
軍事演習のため、特別作戦日当は出ない。つまり、かなりの予算削減に成功。食糧や日用品等に予算を回せた。そして、デェシュメックにも武器提供が可能となった。
ベンシルリッキを見回ってから約二ヶ月、ついにこの日がやってきた。
今回デェシュメック軍とベセトア軍の合同訓練は、ベンシルリッキ帝国の演習場付近のデェシュメック領内の平野及び山地。
ミスれば一触即発。だが、完璧にこなせれば、牽制と成りうる。
そして、ベンシルリッキに期間限定駐屯兵としてジュストン中佐の部下を異種族の自治区に置く。無償で引き受けてくれるのだから助かる。
私たちが作戦資料の最終確認を行っていると、この艦の長が姿を現す。
ベセトア宇宙海軍上官、大佐の肩章をもつまだ若々しい固い灰色の髪をした男がやってきた。
「君たちか。私は卯月艦長、オルガ大佐だ。異国の船の艦長をもう二千年は務めている」
卯月、災厄を生き延び、ファータロスと共にアズマルガに向かった艦艇。名前からして並行世界の日本の船。
「俺は安城祥太、特別作戦司令官だ。よろしく頼む」
安城はどことなく浮かない顔で挨拶。
「私は補佐の豊川琴音です。よろしくお願いします」
「ヒンベル閣下から聞いている。今回の軍事演習、頼んだぞ」
安城は緊張を噛み殺して頷いた。
それもそうだ。たった半日、夜の短いこのデヴィースの季節でも約十時間。
このわずかな時間でベンシルリッキの皇帝または宰相から和平の申し出を承諾すること。降伏ではないが類義語と捉えていい。厳密には違うが。
会議は午後五時半に始まった。日が沈む一時間前。
「今回の軍事演習は、当初と打って変わってベンシルリッキの牽制を目的として行う。そしてこの夜、和平の申し出を受け入れてもらう。和平の提案は既に提出済だ」
安城はカンペを読み上げる。声が少し震えている気がする。
実はあの後ヒンベルに聞き、和平でもいいよと連絡があった。ただ、力の誇示はできないけどと。軍事演習なら指揮能力と情報処理を活かせる機会だ。
「最初にデェシュメック軍の銃火器と大砲の演習。ベンシルリッキとの国境付近に演習場を置き、デェシュメック領内へ射撃を行う。そこはベンシルリッキの演習場目と鼻の先」
この演習はデェシュメック軍が地球製の銃器を扱えると示す為に重要な工程。
「その後、両軍は二手に別れ、それぞれミラス旅団長と俺の指揮に従い、実戦演習を行う。ミラス旅団長は大使館のコントロールルーム、俺はこの卯月」
多分、ここが安城の一番の見せ所。ここでずさんな体たらくを見せようものなら、元帥昇格は夢のまた夢。
「最後は訓練弾での卯月の演習」
そう、一番厄介なところ。ここが何よりの火遊び。ガソリンスタンドでキャンプファイヤーするくらい火遊び。
「地上への機銃照射、魚雷発射。……でもその実、魚雷の実弾をベンシルリッキの帝都へ発射。帝都目前の空中で起爆し、演習の事故と見せかける」
ここが何言われるかわからない部分。十中八九よくは思われない。この軍事演習こそ、半ば脅しで和平を結ぶのがシナリオ。
「そして、ハルム宰相などのデェシュメックに蔓延る汚職役人は……なんでも近衛兵がやってくれるとか―ヒンベル総統?」
最後のハルム宰相などのクズどもをどうするか思いあぐねていた。
ヒンベルに聞いたら「そんなん近衛兵に任せとけばなんとかなる」って言っていた。普通、近衛兵は要所を守る軍人。言ってしまえばお門違い。
「ああ、始末対象を伝えとけば、勝手に処理してくれる」
ヒンベルは淡々と安城の疑問に答えた。
「なら、任せる」
ちなみに、近衛兵を雇うのにかなり予算がかかった。というか、依頼料に近かった。まあ数が数だし、妥当なのだろうか。
「作戦は以上。各個持ち場に」
安城の顔つきは依然とぎこちなかった。
「とりあえずの危機は去ったね」
私は個人チャットで話しかける。もちろん顔色は変えずに。
安城は肩を下ろした。無理はない。あの場には上官、いや組織のトップがいたのだ。
ヒンベルは仕事モードの時だけは、ちゃんと真面目。仕事モードはちょっと近寄りがたい。表情もどことなく凛々しかった。
「でも、これからだよ」
「わかってる」
「ていうかさ、一つ言っておきたいことがあるんだけど」
「……何?」
「作戦もうちょっと自分で考えろよ。九割方私の原案じゃん」
そう、安城はまるで「自分で考えました」って言わんばかりに饒舌に語っていたが、作戦の原案は私。
「別にいいだろ、琴音の原案が完璧だと思っわたんだからさ」
安城はそっぽを向いた。なんか耳が赤い。
「よくないだろ、あんたが組み込んだ案言え」
「ええ……っと……」
安城はしばらく沈黙。身体が縮こまる。
「魚雷爆破高度を一kmから二kmに……」
「もう一度死ね。次は自分で考えろ」
「……わかってるって」




