52話 ベンシルリッキ三大将軍
ブルサ将軍一行は三週間かけて端のドワーフ自治区から帝都へ戻った。日の出ている間は馬を走らせ、日が沈めば野営。食糧が乏しくなれば、近場の村から補給。この繰り返しだった。
一行が帝都城門前にたどり着くと、衛兵が大英雄の帰還を刮目し、すぐに門を開けるよう下の衛兵に伝える。
重厚な鉄扉が下ろされ、騎兵は城門へと入った。
城門を抜け、広大な市街地が大英雄を歓迎。居合わせた民衆は、大名行列のようにひれ伏す。街の中央には皇帝を称える像が佇む。
大英雄は皇帝のお膝下まで歩みを進め、馬や荷車を収納。早速皇帝に報告をと意気込む。
宮殿の天井は三階分にも及び、装飾は息を呑む荘厳さ。それをビクともせず、皇帝の前へに参上。跪いて手を胸に当てる。
「陛下、ご報告に参りました」
「……」
皇帝は玉座に深く座っている。右手は頬杖、左手は膝にいる長毛種の猫をなでる。
「東の蛮族共には似つかわない秘宝、道中の大森林の精霊からアンブロシアの貢物を頂きました。ご収めください」
「ふむ……」
ブルサ将軍の後ろからワゴンが運ばれてくる。
白い布が取り払われると、木箱に詰められた金銀財宝、瓶に入った光るピンクの液体が姿を現す。
「ブルサ将軍〜、ドワーフの銃は?」
「ッ……!」
ブルサ将軍は痛いところを突かれたと機嫌を損ねる。
「邪魔が入ったようですな。そそくさと逃げてきたとか」
「チフテレル、ボズテペ、何が言いたい?」
「ベンシルリッキ三大将軍の格も落ちたな」
ボズテペと呼ばれる灰色髪の老賢人は、鼻で笑う。
「神の使いの軍師がいたのだ。仕方あるまい」
「それを理由にするのはダサくない? あたしは北部の異教徒から氷を巻き上げたし」
チフテレルと呼ばれる赤毛の女騎士は、クスクスと嘲笑。夏季のベンシルリッキでは氷は貴重。
ベンシルリッキ三大将軍の二角は、皇帝の脇から登壇し、この機会を待ってたと言わんばかりに言葉を投げかけた。
「……まあよい」
この小競り合いは皇帝の一言で静まる。嗄れて貫禄のある声。脇のチフテレル、ボズテペも跪き、手を胸に当てる。
「ベセトアと言ったか……。あの神の使いはデェシュメックに肩入れしている。ワシらの駄犬も奴らに締め上げられるのも時間の問題だろう」
皇帝の深い声は宮殿中に響き渡る。三大将軍だけでなく、使用人まで拝聴。
「よく聞け、奴らは神の使いでも、なんでもない……実体のある化け物だ。実体のある限り……打ち倒し、使役できる」
皇帝は口を除き、何一つ顔のパーツを動かさず喋る。
「……心してかかれ!!」
「「ハッ!!」」
皇帝のお言葉は三大将軍の肝に刻まれた。
「ボズテペ、お前の駄犬はもう使えないってな」
さっきの仕返しだと、ブルサはボズテペに投げかける。
「何を言うか、ハルム共はいい仕事をした。デェシュメックの茎は凋落した。あとは樹皮を剥ぐだけですぞ」
ボズテペは言葉の折々に知性を感じさせ、ブルサに言い返す。
文学的表現に疎いブルサに嫌悪感が襲った。デェシュメックはハリボテとなっている。
「それにチフテレル、あのベセトアの陸軍最高顧問と言ったか、あいつは妙な胸騒ぎがする」
「ふ〜ん、どういう人なの?」
「ちょうどこいつくらいの背丈に、二十代の男だった。だが、あいつの顔を見た時、俺の何か……心が武者震いした」
「ふふ、ビビってるだけじゃない」
またもクスクスと嘲笑う。
「いや、違うんだ。あれは年不相応の覇気だった。それに――」
「残念だけど、あたしはかわいい子以外いたぶる癖は持ってないから」
「どうかな……」
「……?」
「あいつを見た時、強い既視感に見舞われた。目が眩んだようだった」
「やっぱりビビってるんじゃないの」
チフテレルはケラケラと、笑いのスケールは大きくなっていくばかり。
「チフテレル、案外これは的を得てますぞ」
ボズテペはチフテレルを咎める。年の功と言える。
「何を言い出すかと思えば」
「お前たちが昔目ぇつけた奴が、大きくなった。そういう筋書きなんだろう」
ボズテペの荒唐無稽な発言に二人は笑い出す。
「ボズテペもジョークを言うようになったんだな! いつもの慣用句よりよほどいい」
「そうよ、あたしが逃した『かわいい子』なんていないから……いや、まだ手にかけてない子はいるけど」
三大将軍が宮殿の回廊で雑談していると、前に一人の役人が彼らを見るなりすぐに駆けつけた。紙切れを片手に跪く。
「申し上げます! ベセトアとデェシュメックが――」
「ふ~ん、何かと思えば、妙なことをするらしいじゃないか」
ブルサは役人の紙切れを巻き上げ、読み込む。
「ちょうどいい、俺は見物と行こうじゃないか」
紙切れをボズテペとチフテレルに見せつける。
「束になったところで多勢に無勢よ」
「こんなんでなにになるってわけ?」
「俺だけ十分だ。お前たちはここで突っ立ってろ」
ブルサはニヤリと笑みを浮かべ、面白いのが見れると心を躍らせた。




