51話 死人の遺言
「そうでもしないと一方試合だし、簡単すぎるかな〜って」
「なんでよりによって夜なんだよ」
「『一夜にして壊滅した国』とか『滅ぼした組織』ってかっこいいじゃん?」
小学生マインド。
ヒンベルが去った後、私たちは数字とにらめっこしている。シールドはベセトア、デェシュメック問わず全員に配給される。兵は最低限やられない。
だが、そう簡単には行かない。圧倒的な時間、予算、人員不足。ベセトアの経理部の思惑が透けて見える。こんなゴミみたいな弱小文明相手に手こずるな、こんなんでも嬲り殺せると。
「デェシュメック軍も二万が限界か……」
恐らく、この戦争の主戦力はデェシュメック軍。どれだけベセトア軍を動員したって理論上、一万人が限界。
「デェシュメックには自前のやつ使ってもらったら? どれだけ撃たれても突進してくる槍部隊は案外強いよ?」
「……」
相変わらず、人を殺すことには否定的だ。顔がそう言っている。後ろめたいような、自分のポリシーを歪められたような悔しさが滲み出ている。
「魚雷四発、砲弾四十八発、雇用兵二百五十人にマガジン八つ。これだけで予算切れ」
「魚雷は無しにしよう、砲弾も。何とか捕虜として捕まえて、降伏を促す」
「そんな簡単にいくもんかねぇ?」
甚だ疑問。戦争の火ぶたが落とされたら、祖国を守ろうと躍起になる。その威勢を半ば脅しのような行為で削げるのかどうか。
「二人とも頑張っているじゃないか」
「ジュストン中佐、どうして?」
「お前たちが開戦に踏み切ったと聞いて苦心を見に来ただけだ」
「性格わっる」
思わず口に出た。
ジュストン中佐は私の言葉を真に受けず、笑って受け流す。
「まあまあ、聞いてくれ、君たちに朗報だ。私の部下を無償で遣わす。武器も弾薬も自前。そして、私的に出資する」
「えぇ!? いいのか?」
「待って、安城。あんた安心ソフト闇金ってあったら、絶対契約するタイプでしょ」
この話の類は何かしら裏がある。出資と言っただけで、無償とは言っていない。とんでもない利子付きで返金する必要もあるかもしれない。
「もちろん返済しなくていい。昔からのよしみで陸軍の精鋭を五百人、そして一億ポトルは出せる」
「そんな金どこから……?」
「新天地アズマルガでは、金使えるほどの資本体制が二千年はなくてな。その時に貰ったら給料が残っているんだ」
「いいんですか?」
「なあに、どうせ使わないんだ。やるよ」
すごい気前がいい。こんな至れり尽くせりでいいのだろうか。
「……すごい、これでデェシュメック軍にも武器提供ができる」
再度、予算を立て直すと、更にゆとりが生まれた。
「お役に立てて何より」
ジュストン中佐は微笑んだままこの場を去った。安城も手を振って見送る。コントロールルームの扉を閉めると、途端に安城の顔は萎れるように暗くなった。
「どうしたの?」
「いや……、やっぱり戦争は……」
「この期に及んでまだ言うか」
もはや聞き飽きた。めんどくさい。
「じゃあ逆に聞くぞ琴音、お前は死んだことあるか? 仮死状態になったことあるか?」
「……あるわけないじゃん」
至極当然のこと。私がとっくに死んでたらここにいない。一命を取り留めても、仮死状態にもなれば後遺症は残る。今までの生活は送れないのは間違いない。
「俺はある。なんなら一度死んだ」
すごい、説得力がまるで違う。実体験に基づくしく○り先生くらい説得力がある。
「知らないだろ、死ぬってのがどういうことなのか」
「知ってるよ。母さんたちもとっくに死んでる」
「母さんから身体のどこがどのくらい痛いかなんて聞いたことないだろ? 生死を彷徨う人間に対して」
「……」
「身体が熱かった。何が起こったかわからなかった。周りが声かけてくれるけど、答えられない。気づいたらストレッチャーにいて全身が痛い。切離されるように意志が遠退く」
安城は淡々と実体験を語る。
「これが死ぬってことなんだよ」
少し肝が冷えた。
『死ぬ感覚はどういう感覚か』というネット情報はごまんとある。死の間際にドーパミンが〜とか、痛みが〜とか。
だが、あくまでそれは医学的研究結果、奇跡的蘇生者の体験に基づいて記されている。どれ一つとして、死者が書いたものはない。まさしく死人に口無し。
今、目の前に一度死んだ人間がいる。
それはどんなネット情報よりも確かな実体験。これを両親が体験したと思うと、ゾッとする。
「俺は死んだ人間として、死が何たるかを誰よりも理解している。だから、誰も死なせたくない」
「……」
説得力の塊だ。何一つ言い返せない。
ふと、悔しいと思った。ずっと戯れ言だと思ってた。
「……わかった」
「……?」
「殺したくないんでしょ。だったら、私が教えてあげる。殺さずに全部手に入れる方法」
「……!? 早く言えよ、それ……!」
一筋の希望が見えたように私にすがってくる。私の手を勝手に取る。すぐに振り払った。
「安城、あんたはジュストン中佐に作戦行動の策略と構想、その結果を示せば元帥になれるんでしょ?」
「ああ、それで半日以内に降伏させればな」
安城は半信半疑。怪訝な表情で私を見る。
「だったら人も殺さず、軍隊を使った作戦行動もできることが、一つだけある」
「なんなんだ?」
至極当然なこと。実際、今の地球もそうして平穏を保っている。




