シーズン1 5話 宇宙人(?)の正体
巨大な宇宙戦艦の作戦室に招待された主要国の重鎮である代表と翻訳家たちは、横長のテーブルの席に座り、宇宙人の姿を心待ちにしている。心待ちにしているのはそこにいる人だけじゃない、全世界が心待ちにしている。
オーソドックスな頭でっかちなのか、タコのような軟体生物型なのか、自分たち人間と全く同じなのか、様々な意見がネットの投稿やライブのコメントに寄せられた。
「"お待たせしました。地球を代表した皆様がこの戦艦、フィーチカに搭乗いただいて、こうして会談の機会をいただいたこと、誠にありがとうございます"」
艦内放送から流れたのは流暢な男性の声の日本語。複合音声とかそういうものではない。
この放送に各国の代表はおろかコメントや会話が入り乱れた。
「日本語か……?」
「……日本語です」
「……なぜ宇宙人が日本語を話してる?」
【どうして日本語喋ってるの!?】
【日本人は宇宙人だった……?】
【宇宙人の公用語は日本語だったか】
作戦室前方のスライドドアが開き遂に姿を見せる。
スライドドアの奥から背丈は百七十五cm、シルエットは頭でっかちではなく人間と同じで男性、すらっとしていてやや痩せている。
服を着ており、着慣れていない新品の地球で着られている黒いスーツに、グレーのネクタイ。肌は東洋系有色人種だが、色白で顔は東アジア系。髪や目は黒く、二十代ほどで若々しい。
そう、現れたのは日本にいるような普通の男性。
「私はこの艦隊、この組織ベセトアを統率する総統、ヒンベル」
総統は若々しく、二十代前半の姿。少々声は低く、貫禄はあまり読み取れない声だった。
代表たちは自分たちの想像とあまりにかけ離れていたのか、度肝を抜かれた様子。椅子の背もたれから身体を起し、注視していた。
翻訳家たちも驚きをなんとか抑え、総統と名乗る人物が言った日本語を訳す。
「驚くのも無理はありません。諸事情により、日本語で話させてもらいます」
「……」
室内は困惑気味だった。
「順を追って説明しましょう。私はこの地球の出身ではありません。私らは外現実、俗に言うと異世界からやってきた」
【異世界人!?】
【宇宙人じゃないの?】
【異世界は本当にあったんだ】
「もっとも、私はここから三千年先の未来の時間軸から来た。この地球に来たのにはわけがある。それを説明させていただきたい」
代表たちが固唾を飲みヒンベルの話に耳を傾けた。
「私らベセトアはベレウゼという国家の一機関からここから三千年先で独立した組織。ベレウゼは惑星間、恒星間、現実間を隔てて存在した巨大国家。しかし、この現時間軸をもって災厄により崩壊した」
テーブルからホログラムで複数の映像が映し出された。あるものは巨大な棚のようなブロックが海岸に隣接し内部にはビル群が見え、あるものは上下から水晶結晶のように生えているビル群、衛星軌道から捉えられた巨大な衛星都市、無数の航宙艦で構成された隊列。
これらが絶対に地球には存在しない光景であるのは間違いない。
少し間を開けてアメリカの代表が言う。
「災厄とは……いったい何があったんだ?」
ヒンベルは少しいいにくそうにしながら応える。
「災厄とは現時間を超えてベレウゼ大文明圏と、それと交流がある文明に訪れたものです。災厄により住まう銀河全土が居住不可になってしまいました」
「……」
アメリカの代表は少し罪悪化に見舞われた。
「私らはその生き残り。他の銀河に移り住み、それから三千年も生活しました」
ヨーロッパの代表が
「では、あなたたちはその子孫ってことですか?」
と言う。
「……部分的にはそうです。ひとまず、そういうことにしておきましょう」
ヒンベルは何か含みのある言い方で答えた。
「では、なぜ地球へ来た?」
アメリカの代表は単刀直入にヒンベルに問う。
「私らは皆様に警告と提案をしに来た。ここより三千年内にこの地球は赤色矮星となった太陽にのみ込まれる。これはベセトアに訪れた災厄にも同じ現象が見られました。太陽が本来、赤色巨星になるには五十億年はかかる」
そう言うとスライドドアからボットがワゴンを運び色んな物が乗っている。
「これは三千年先で得た地球文明と思わしき残骸」
ワゴンには融解したネジやナット、曲がりに曲がった鉄骨の一部、地球の地殻から産出された岩石、穴が空いてボコボコになった金属板。
それに加え、ホログラムには宇宙空間に漂うエッフェル塔のような鉄塔、巨大な無数の小惑星、赤色巨星となり肥大化した太陽の映像が映し出される。
代表たちは息を呑み、背筋が凍った。
「こ、これは…本当に地球のものか……!?」
「本当なら人類は新たな絶滅の危機に直面することに……!」
「ベレウゼの災厄はここにも及ぶ可能性が……!」
「にわかには信じがたい、研究所に回していいか?」
「勿論」
しばらくして代表たちが落ち着きを取り戻してから日本の代表が口を開く。
「……それで提案というのは?」
「……単刀直入に言うと是非、私らと交流を結び、ベセトアの本拠地をここに置きたい。無論、皆様にも恩恵をもたらしましょう。さすればこの未来、災厄を回避できるかもしれません」
これは地球にとって僥倖だった。この絶望的な未来に提示されたのはこの他にないような救済。
星々はおろか次元さえも超える文明の技術を享受できれば、二度と隕石の脅威に晒されなければ今までにない経済成長が可能になる。
「怯える必要はありません。『リブート計画』に基づいて地球だけでなく既に、三つの文明で私らは交流を結んでいる」
またホログラムに映像が映し出され、そこには地球の一昔、と言っても五百年以上前の中世のような文明人の王とヒンベルが、豪華な広間で握手する様子。
耳や歯が人間ではない、所謂獣人やエルフのような人と肩を組むベセトアの人間、ベセトアの人間の手のひらに妖精のような小人が立つ絵に描いたような異世界の様子があった。
「……これが異世界……いや、外現実……?」
「ええ、強制はしません。是非とも地球の総意のもと返事を聞きたい」
作戦室は静寂に包まれた。ベセトアとの交流は二つ返事では承諾できない。ベセトアとの交流はパンドラの箱に等しく、良い方向に転ぶか悪い方向に転ぶか誰にもわからない。
コメントは入り乱れすぐに新しいコメントが投稿されるため読むことができない。
【こんな科学力をもっても災厄を止められないの?】
【太陽が赤色巨星になっても他の星に移住できればなんとかなるのかな?】
【正直信じられない】
地球の都市部、郊外場所を問わず人類はこの歴史的邂逅を画面越しに見て衝撃を受けた。




