5話 第二次就職氷河期
天の川銀河バルジにある中性子星軌道上に、ローニ級航宙戦艦のフライコフとかえで、加賀が空間アンカーを下ろしていた。
その中性子星は今にも崩壊しそうだった。それは人の手によるもの。
中性子星は巨大なシールドにより覆われ、制御されている。内部で崩壊が始まっているが、有害な電磁波は漏れていない。
加賀が率先してシールドを制御し、フライコフとかえでから遠くのところで停泊。
フライコフの艦首砲は光が次第に消失し、艦底部の冷却機構が熱交換をしていた。
熱を帯びた艦首砲はゆっくりと赤から元の黒に戻る。
「中性子星、崩壊を開始しました」
「加賀、シールド制御良好」
「"搬出班、準備完了"」
「かえでより採掘班準備完了、万全です」
フライコフの艦橋で真剣な声が行き交う。中性子星を破壊及び採取することはそれほど危険なことだ。
中性子星にはベセトアが欲する絶原性金属が含まれていた。
フライコフの後続にいたかえでが、エンジンを吹かし、中性子星へと向かう。
「艦主砲の出力が弱なってるねえ……」
ヒンベルはかえでを横目に、艦橋の艦長席の隣で中性子星が崩壊する光景を見ていた。
「この時間軸に来てからフライコフどころか全艦艇の窯が冷め始めてる」
そう言うは、長いブラウン色の髪をしていて、眼鏡に白衣をした女性。
「ちょうどクリスマスイブ……冷えるのは気温だけにしてほしいよ」
ヒンベルはこの現状を憂い、腕を組む。
「かえでとかもう一隻がエネルギー供給しないとまともに撃てないんじゃ、この先厳しいね」
「低出力のまま撃つんじゃ何が起こるかわからない。採掘は三隻体制でやらないとなぁ……」
従来なら採掘だけに三隻動員するのは少し大掛かりだった。本来なら、たった一隻でシールド制御、崩壊の誘発、採掘及び搬出が一般的だからだ。
ヒンベルがそう一度に三隻も動員するのを渋るのはそのためだった。
そう話していると艦橋に入ってくる人がいた。地球と交渉として出ていた尖兵。
「総統、地球の意志が決まりました。我々の勝ちです」
ヒンベルは安堵した様子で、予定どうりに事が進むのを快く思った。
「なら良かった」
そう言いながらかえでの採掘班が、中性子星のシールドに接舷している光景を見た。
「やはり読み通り、あの隕石はいいコマーシャルになったよ。そういえば、エマさん。面倒見てほしい子がいるんだけど……」
そう言ってヒンベルは白衣の女性に資料を送った。
「ああ、この子が例の……」
白衣の女性は資料に目を通す。
「『リブート計画』には支障はないの?」
「現状」
「大法官がどう思うかな……」
☆
ベセトアと地球がベセトア次元間憲章が締結されたのは年末、クリスマスイブだった。ニュースではクリスマス協定とも言われている。
調印式はクリスマス。
私は一人、卒論をノーパソで書きながら、テレビのライブ中継でその歴史的瞬間を見ていた。節電のために部屋は真っ暗。
調印の式典では荘厳な大きな広間で、老いて渋い顔何人もの黒いスーツを着た白人、黒人など有色人種の人たちが拍手をしていた。中央ではヒンベルと地球の代表らしき人が、固い握手を交わしている。
「"たった今、次元間憲章が締結され、地球は新たな一歩を踏み出そうとしています!"」
その場面を切り取るようにカメラのフラッシュがヒンベルたちを激写。もはやヒンベルの姿が映っていない。
辛うじてヒンベルたちは、カメラ目線で握手しているのはわかる。だが、最初のシーン以外全く映らなかった。
あの人たちは地球各国の政府関係者であるのは当然。そこにはおそらく外交官もいる。私もいつかああいう場面に立ち会うのだろうか。
本当に外交官になるって実感が湧かない。だって、私の興味があるものとは全く無縁のものだ。
外交官自体私にとって縁のない職種で、外国に行くこともなければ、大使館でお世話になったこともない。
一体何をやるのだろうか。杉原千畝くらいでしか聞いたことがない。紛争地域に行くのは御免だけど。
「ふ~ん、外交官出身の政治家……」
調べたら、吉田茂や加藤高明、木村寿太郎も外交官出身らしい。
外交官内定貰ってから、少しは他の会社の内定も貰おうと思った。でも、結局どこも受かんなかった。
メテオショックによる暴動なりデフレの傷は、隕石の脅威が去ってからも続いた。企業は新人さえ多くは採用できない状況にあったらしい。
これで私たちの世代は第二次就職氷河期になった。
まあもう内定どうこうは言ってられず、卒論書くなり研究室行くなりして遂に大学を卒業した。
他の人は内定が貰えてないせいで、新卒カードを温存するために計画留年する人や大学院進学、諦めてフリーターのまま働く人と分かれた。ちなみに、あいつらは普通に留年した。
私の場合、これ以上にないくらいの就職先見つけたし、金銭的に大学院進学は厳しいから卒業。
そうして入社当日となった。




