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49話 当たり屋だろマジで

とりあえず、ジュストン中佐による弾丸ツアーは終わった。驚異の四時間でこのツアーは終了。本来、自身の足や車で行くのなら、恐らく三週間コースの道のりだった。それくらいベンシルリッキは広大で、見境なく国を併合していったらしい。


「いや〜酷い国だなあ、ベンシルリッキ帝国」


「ああ、その通りだ」


安城はジュストン中佐に同調。


「こんな悪の帝国に正義の鉄槌を下せるのはどこかにあるのだろうか……」


わざとらしい。要約すれば「お前早く侵攻しろ」と言われているようなもん。躊躇のある安城を踏ん切りつけさせるためにこのツアーを企画したのだろうか。真相は闇の中。


「……制裁、本当にそれしかないのか……?」


「安城少尉、お前には選択肢があるんだ。生殺与奪の権はお前が握っている。決めるべきは君なのだ」


ジュストン中佐は安城に詰め寄る。


「さすれば、元帥昇格も夢ではない」


「……」


☆


安城はデェシュメックの大使館のフロントで、ベンチに腰を下ろして俯いていた。何か考え込んでいる様子。それもそのはず、ヒンベルとミラス旅団長の二人の独断でベンシルリッキとの戦争が始まりそうだからだ。


ミラス旅団長はヒンベルの言葉を信じてかなり強硬的になった。まあやり方はどうであれ、祖国を守りたいって面では頷ける。


館内はリバタール同じくほとんど人がおらず、人は私と安城がぽつんと壁の隅にいるだけ。


「あんたどうすんの」


「どうするって……どうするんだよ」


「戦争は避けられないよ。でも、よかったじゃん、これで戦果を上げれば冒険者解体はなくなる」


「それが人を大勢殺して得たものなら俺は投げ捨てる!」


安城は拳を握りしめて強く言った。その言葉は私の身体を震わせた。


「別にあんたが直々に殺さなくたって、上が提供する戦力でやれば、手ぇ汚さなくて済むよ?」


「お前正気で言ってるのか!?」


安城は険しい顔でベンチから立ち上がった。私の胸ぐらを掴む。シールドのお陰で痛くもなければ、制服も伸びていない。


「人が死んでもどうでもいいのか? 両親死んでんのによく言えるな」


安城が更に力を入れて、私を持ち上げる。女性の中じゃ高身長の私でもつま先立ちになるほどだ。


「……まあ、母さんたちが死んで欲しいかそうじゃないかで言ったら、生きて欲しかった。でも、意味のある死だったとは思う。あの人たちの死で今の地球の人はテロを嫌って平和を願ってる。それに多少の犠牲は仕方がないと思う」


薄情だと思われるかもしれないが、悔み続けても仕方がないっていうのが正直なところ。そりゃ目の前にテロやったやつがいたら、職権使ってヒンベルらにボコボコしてもらいたい。


でも、民間人であれ軍人であれ、人の死は何かしら意味があるのだと思う。弔い合戦としての指揮向上、これ以上の犠牲を出さないための司令部への指標や終戦後に平和を尊ぶ意思を芽吹かせるものなど無数にある。


「誰一人死なない恒久平和の中、綺麗事で解決できるなんて考えてないよ。意味のある犠牲を語り継いで、長い平和を享受する。平和がまた失われれば、失った世代がまた後世に伝える。失った世代が丁度私の世代だっただけ。今のこの国の人も、失う世代にいる」


安城はゆっくりと力緩め、私の胸ぐらから手を離した。


「……結局、有象無象の死はどうでもいいんだ。流石総統のお気に、考えることが同じだ」


安城が私に向ける目は、失望したようでそれでも睨むような目だった。


知らないんだな、私が知恵を渡したのも。




ヒンベルから招集がかかって、大使館の地下にある作戦室に来た。ミラス旅団長とその部下たちもいる。


「ベンシルリッキの常套手段は、あらゆるところを私有地化する。国の要所をどんどん占領し、いざ兵を興そうとなれば、すぐに踏み潰す」


ミラス旅団長は、作戦室のテーブルにある地図の丸の地点を指差す。


「この丸は特に肝心な流通網。既に、八割は抑えられた。そして、流通網だけじゃない」


更に、山や内陸部の湖を指した。


「鉱山や水資源も抑え始めている。この神聖湖もいずれ進駐してくるだろう」


ミラス旅団長の言う神聖湖とは、デヴィースの大使館だ。


「今回、これを逆手に取る。しばらく、私らは近くの村を使っている風に見せる。準備ができ次第、手を引き、奴らをおびき寄せる」


ヒンベルの指はこの湖の辺りをなぞった。


「あそこ、もう人いないから大使館の私有地は村まである。つまり、不法侵入として武力行使を正当化、武力制裁としてベンシルリッキに侵攻する。これが台本だよ」


それを世間は当たり屋って言うんだよ。


「そこ、私有地だってあいつらは知らないの?」


純粋な疑問。デェシュメックの一領土をベセトアに貸したのなら、何かしら公表があるはずだ。


「大丈夫、ここの領主だけで密約を結んだ。宰相とか政府は知らんよ」


うわ〜、悪い大人。


つまり、「よーし、ここ取るぞ―って外国勢力いるじゃ~ん。あれ、どっか行ったぞ? よし、侵攻しよう! え!? ここ私有地で武力侵攻として報復!? 死んだ〜;;」って訳だ。


「そして、特別作戦司令官は安城、補佐を豊川が務める。これで開戦の流れは以上。変更、詳細は後日伝達。安城、君に資金を提供する。ついてきなさい、豊川も」


なんで私も巻き添えを食らわなきゃならんのか。

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