48話 ベンシルリッキ帝国弾丸ツアー
ジュストン中佐の弾丸ツアーはまだ始まったばかり。次はエルフの自治区。
このデヴィースのエルフは、いわゆる森を縄張りとする狩猟民族。秀でた弓術で獲物を狩り、自然の恵みを享受している。
自治区は一面が青々しく、苔と木々で埋め尽くされている。気をつけないと、足を滑らして転ける。
本来、エルフの村に行くための道があるが、私たちは獣道にワープしてしまった様子。
目と鼻の先に巨木を住処とするエルフの村があるというのに、まるで進んでいない。いくらシールドがあるとはいえ、身体能力は厳しいものがある。
だが、彼らは違う。道なき道を行っている。忍者のように木を伝い、向かっていた。もはや立体機動。
「早すぎだろ……あいつら……」
パルパークのように進み続ける。私は木の根に足を阻まれている。こんな奇襲を受けようものなら、驚く。
そして、私の憂いは的中した。彼らはそれぞれ二本の矢を食らった。だが、シールドのお陰で無傷。それどころか、足を止めることもできない。
「何者だ!」
エルフの村から怒号が森に響いた。
流石の彼らも、まずいと思ったのか、すぐに地面に着地した。その時には、エルフの村に着いていた。
「我々は森と共に共生するもの。森から命を頂き、そして土に還す。だがこの頃、帝国の輩、森の巨木を求めるだけで、まるで森に還すつもりはない」
エルフの族長は人間まとめて毛嫌いしており、これ以上踏み入るなと言っている。それがエルフの民意と言わんばかりに、他のエルフたちも私たちを睨んでいる。
エルフはあのアリスと同じく耳が尖って色白。そして若々しい。
「見給え、あちらを。あれが人間の業だ」
族長が指差したところには、何十もの切り株があった。直径十〜二十mもある巨木。そこだけ傾き始めた日の光が、一面に差している。
「あれがなくなっただけで、生き物の住処がなくなり、野草も取れなくなる。あの輩、森を燃やすことをちらつかせて併合した。それは敵わん」
「つまり、ベンシルリッキがいなくなれば、悠々自適に暮らせると……善処しよう、な?」
ジュストン中佐は安城に、「言わなくてもわかるよな?」と言わんばかりに一瞥。
「ドワーフの奴らも輩にやられてるらしい」
「では、そちらにも行ってみよう」
もはや弾丸ツアーの恒例とも言えるハードスケジュール。エルフの村をたった三十分で過ぎ去り、今度はドワーフのいる大陸山脈麓にやってきた。
ここまで来ると、ジュストン中佐がいかにベンシルリッキが腐っているかを見せつけるプレゼンテーションとなっている。
ドワーフはホビットと似て人間より小柄。だが、若い者からシワの深い年老いた者までいる。エルフよりは短命だが、長命と聞く。
「儂らは朝から晩まで、銃を作らされてるんだ。しかも、あいつら抜かりない。ここで銃弾を作るのを厳しく禁じ、遠方の同族のところで作ってるとか」
長老のドワーフが近くの坑道で話をしてくれた。ここは入り口であるため、粉じんで肺がやられることはない。そもそもシールドがあるため、粉じんは入ってこない。
坑道にはレールやトロッコ、採掘用のツルハシ、ハンマーとノミがある。
他のドワーフがちょうど製造された銃を持ってきてくれた。いわゆるマスケット銃。外に打鉄を仕込み、点火するタイプ。
「あいつらにとって、儂らはただの長命の機械でしかないんだ。こんな人殺しのモン作るより、アクセサリー作ってた方がよほど良い」
「そうか……。では、この不条理を焼き払いたいと」
少々話が飛躍しているが、捉え方は間違いない。ベンシルリッキ帝国に併合された各部族は、自由を求めている。だが、そんな力や志はないため、声を上げられていない。
これには安城も聞くに絶えず、歯を食いしばっている。顔に出やすい。
すると、慌ただしく若いドワーフがやってきた。
「長老! ブルサ将軍が!」
「またか……」
長老は重い腰を上げる。そして、坑道を出る。私たちも彼らについて行く。
「また来たか、せっかちな野郎だ。三日前に納品したはずだぞ」
「ああ、そのつもりだったんだが、物使いが荒いやつが多くってな、もっと欲しいんだ。増産を頼む」
ブルサ将軍というのは、長老の二倍くらいある長身の中年男性。依然と屈強な肉体で百八十cmはありそうなジュストン中佐でさえ、小さく見える。
ブルサ将軍の上から目線の圧は、誰もを恐れさせる。ただでさえ、身長差十cmのヒンベルが恐ろしく見えたのに、ブルサ将軍は三十cm以上。
「もう手も足りなければ、資源もねぇ。無理だ」
「おっと、そうは言わせねえ。まだ女子供がいるだろ。そいつを使わせればいいじゃねえか」
「バカめ、坑道とたたら場に入れろってか? 冗談じゃねぇ」
長老は断固とした態度でブルサ将軍を牽制。だが、そのつけは即座に払うこととなった。
ブルサ将軍が手下を顎で使うと、脇にいる有象無象はドワーフ一行を解らせ始めた。
生命線である手や足を攻撃せずに、胴や頭に殴り付ける。
「やめろ! 鎮まれ!」
安城は即座に割ってはいる。
「あ? なんだこのガキ」
身長差三十cmのブルサ将軍にとって、安城はガキ同然らしい。じゃあ、私はどうなるんだろうか。赤子? 無理があろうと思われます。
「ベセトア陸軍少尉安城将太だ。よく覚えとけ、元帥になる男だ」
安城はカッコつけた。ちょっとそれは痛いと思うぞ。
「そうか、俺は大将軍デミル ブルサ。末端の分隊長よ、退き給え」
的を得ている。少尉は一個小隊を率いるくらい。大将軍の前では蟻同然。
ブルサ将軍は安城の肩を叩き、投げつける体制を取った。どうする。私が安城が飛ばされるコースに入れば、外交官を攻撃したことにより、自衛攻撃が可能となる。
「すまない大将軍様、若造が出しゃばって。僕はジュストン、ベセトア陸軍最高顧問。ここは僕の顔を立ててもらおう」
「……そうか。天のベセトアの軍師か」
「……」
「わかった、ここは退こう。だが、忘れるな。また取り立てにくる」
大将軍様は隊を引き連れて、そのままドワーフの村を去った。




