47話 野生のベセトア陸軍中佐だ! バトルして捕まえよう!
彼の服装は異様に他の人とは違った。というか、腕にベセトアのマークが付いている。おまけに肩章がある。マークは陸軍、肩章の階級は中佐。
そう、ベセトア陸軍の制服を着ていた。
しっかりとした体格に褐色系の肌。ここの人でもよく見られる色の肌。そして凛々しい顔、スタイリッシュなセンターパート。
この人が話に聞くジュストン中佐か。よく見たら、この人の上にネームタグが、スマレンに表示されている。ちゃんと「ジュストン」とある。
「ジュストン中佐……? どうしてここに?」
「外交官に少尉……君たちこそ、なぜここに?」
とりあえず、ジュストン中佐に事情を説明した。ジュストン中佐は安城の陸軍元帥昇格の話は聞いている。だが、今の私たちの方針は知らない。
私たちの方針としては、極力衝突を避け、ベンシルリッキとデェシュメックの調和を保つこと。だが、この方針では、安城は元帥になることはできない。力を示す事ができないからだ。
安城は今、ジレンマに挟まれている。接近回避の葛藤と言うべきか。
「そうか、なら共に見回ろうじゃないか。ちょうど『観光』したかったんだ。武力行使やなにやらは後にしよう」
私たちの話を聞くなり、ジュストン中佐は微笑み、融和的に接してきた。
「じゃあ、そうしよう」
「行きたいところがあるんだ。ついてきてくれ」
言われるがまま、私たちはベンシルリッキの市にやってきた。生魚みたいな生鮮食品は、既にない一方、日持ちする干し肉や野菜がまだ売ってある。
「おばさん、これを二つ」
ジュストン中佐は屋台の炭で炙られた無数の肉が、串刺しにされたものを指した。先に金銭を払う。
屋台のおばさんは手際よく串から肉を外し、それを薄いパン生地のようなものに乗せて提供した。
ジュストン中佐はおばさんから料理を貰い、私たちに渡した。
「いいんですか?」
「遠慮するな、金を使わなくたって腐るだけだ」
「あ、ありがとうございます」
こういう気前の良さを持つ人間は、なかなか見たことがない。
料理は香ばしい香辛料の匂いが漂う。コントーレの懇親会のようなふんだんに香辛料が使われたものでなく、それこそ、適量と言うべき食欲を引き立たせる匂い。肉はひき肉のようなもので、成形されている。
一口食べてみる。すごい、これはおいしい。世界問わず、屋台のものはどことなくおいしい。だが、それだけじゃない。なんと言っても外は香ばしく、中はしっとりと肉汁が溢れている。肉汁がパン生地に染み込むのも計算されている。
「おいしいな」
安城も言葉を漏らす。
「おばさん、これどこの肉なの?」
「これはねぇ、スケナルンダっていうホビットたちが住むところのお肉だよ。最近併合したところだったかなぁ」
あやふやなところもありそうだったが、ジュストン中佐の問いに答えてくれた。
「スケナルンダ、ね……」
「……?」
ジュストン中佐は不敵な笑みを浮かべた。
「僕たちにはワープがあるんだ。行ってみよう」
ホビット、姿は概ね人。だが、身長は人間の半分で言わば小人。性格は温厚な者が多く、争いを好まないとか。
私たちはホビットに会うため、森の奥へと踏み入れた。まあ、実際にはスケナルンダの手前の森にワープしただけ。
森を抜けると、視界一面を覆うほどの丘に集落があった。地面が隆起したところの小さな崖に窓や扉があったり、遠近法的に違和感がある大きさの家が立ち並んでたりする。そして、この地の大半は牧場となっており、牛や羊などが闊歩している。酪農が盛んな様子。だが、酪農地の面積にしては家畜はあまりに少ない。
相変わらず、ジュストン中佐が先導してこの集落に入る。
やはり、家が小さい。小人サイズ。家の高さは成人男性二人分。それでも、一階と西洋風の屋根が取り付けられた家の高さ。一階は人間がギリギリ入れる高さ。
だが、この集落に入るやいなや、ホビットたちは家に逃げるように隠れる。シャイなのだろうか。
丘の頂上付近に一段と大きい家がある。ジュストン中佐は迷いもなく、そちらへ歩みを進める。その大きい家から一人のホビットが出てきた。おどおどとした様子で、腹を括るかのような顔だ。
「お前がここの長で間違いないか?」
「ええ……。ですが、もう出荷できる家畜はもう……」
人間のように年老いたシワのあるホビットは手を摺る。なんとなく察した。
「私たちは取り立てに来たんじゃないので、安心してください」
「そうですか……」
村長は胸をなで下ろし、ため息をついた。
「このままじゃ、生きるための家畜もいなくなります……」
村長の家になんとか入り、中で事情聴取した。このスケナルンダはベンシルリッキに無血開城で併合されたらしい。
スケナルンダは絶えずベンシルリッキに家畜を出荷し、見返りとしてこの地の警護を行うとのこと。だが、そもそもホビットは温厚で中立。警護と言っても人為的ないざこざはほとんど起きない。故に、意味は警護してもらう利益はかなり薄い。言わば、不平等条約。
私たちは狭いホビットの家の中で、身体を体育座りのように縮めて話を聞く。私たち三人はかなり無理して入っている。小さな椅子に、低い天井。立とうものなら天井に頭をぶつける。
「反旗を翻すなんて、こんな身体じゃどうにも……、同胞も争いは好みませんし」
「なら、ベンシルリッキが居なくなったら、どうする?」
「そりゃ……平穏に暮らして末代まで安泰に生きてゆきたいものですよ。エルフもドワーフも……」
「そうか……。では、エルフの方にも行ってみよう」




