45話 ヒーローは遅れてやってくる
馬は路地の前でいな鳴きを挙げて止まった。その馬の後ろにも何匹かいる。
一人の女性が、馬から降りてこちらに向かってきた。眼帯にサイドテールをした女騎士。
「爆発音が聞こえた! ここで何が―ってどう言うことだ!?」
女性が目にしたのは、ベンシルリッキの衛兵二人が上半身を失くして倒れている光景。上半身は消失に近く、蒸発、ないしは肉をミンチみたく血のように飛散している。
「ミラス旅団長、ここに血痕と銃痕……?のようなものが!」
路地の外にいる女性の連れは、さっきのショットガンの銃痕を指差してミラスって人に伝える。
「フェリハ、よかったな、天から仲間が来たぞ」
ごろつきは女性に言った。
「事情はわかった」
私たちはデェシュメックの一駐屯地を尋ねた。そこでフェリハ ミラスってデェシュメックの第四旅団を指揮する旅団長に、駐屯地の中央にある団長室で事情を説明した。
「察しの通り、この国はあの悪徳宰相によって大衆は貧困に喘いでる。私としては抵抗したい。仲間も必要だ。だが、来るもの拒まずってわけじゃない」
一言で言うならクール美人のミラス旅団長は、ヒンベルを睨んだ。
「お気持ちは有難いが、件の騒ぎは看過できたものじゃない。ベンシルリッキの兵を殺したもんで、上からお咎めが来ている。罪を擦り付けるようにな」
ミラス旅団長はたとえ異世界から来た組織のトップといえども、臆さずものを言った。
「それに関してはご心配なく。次元間憲章に基づき、当機関の外交官に手を出したベンシルリッキの兵は、私たちで処理するよ。君に非はない」
ヒンベルは動揺することなく、まっすぐとした目で答えた。
「そんなことが……?」
ミラス旅団長は半信半疑な様子。
「ええ、外交官は憲章で厚く守られている。手を出そうものなら外交問題にしたっていい」
そう言って私を見た。こいつあれだ。私の外交官特権使って、相手方を一方的に悪いことにしたんだ。あくまで被害者の立場として問題起こし上がった。
私はヒンベルを睨んだ。覚えてろよ。
「……なら当方に任せよう。さて、本題にしよう。今デェシュメックを蝕む国についてだな、安城殿?」
「ああ、多くの人が苦しんでるってのに放ってはおけない。これは俺の信念だ」
ミラス旅団長は安城の意思をくみ取ったのか、口をわった。
「……察しの通り、隣国の巨大国家、ベンシルリッキにこの国は蝕まれてる。あそこは前にも多くの国を政財界から籠絡させては、併合してそこの民から搾取している。常套手段がここにも来たってわけだ」
どこも政財界から腐敗するのは変わらないらしい。
「とんでもない侵略国家ってことか……」
「ちなみに、ベレウゼも昔は超侵略国家だったよ」
「超侵略国家ってなんだよ」
読んで字のごとく超が付くほどの侵略国家だったのだろうけど、今はそんな話をしている場合じゃない。
「昔は……? 今はどうなんだ?」
ミラス旅団長はヒンベルの話に興味がある様子。
「崩壊したよ。私たちは災厄に直面して、残されたベレウゼの火種が今のベセトアだよ」
「……そうか、悪かったな……」
ミラス旅団長は地雷を踏み抜いたような、少々バツが悪そうな顔をした。
「まあ、そういう侵略国家って敗北を知ってから案外丸くなるよ」
「やはり戦うしか……」
ミラス旅団長は「やっぱりか」と言わんばかりに考え込む。
「なんかこう……話し合いで解決ってできないのか? ハルム宰相とかベンシルリッキの皇帝とかに話をつけてやめてもらうとか……? 戦争以外にさ」
安城はヒンベルに問う。それもそうだ、戦うって選択を取れば人を殺すことになる、勇者安城が今までやったことのない人との戦争だ。人を殺すのはどうも安城のポリシーに反するらしい。
「会談を設置することはできるよ? ただ、何を話すの? 君交渉の手札は持ってないでしょ?」
「……ッ! でも……戦争とか革命以外にないのか!?」
安城が戦争や反逆以外の何かを打診するが、ミラス旅団長の顔は険しいまま。この安城の姿には見苦しい以外の感情が湧かない。
「あんたさ、まさかだけど誰一人殺さずこの国とか冒険者救おうって思ってないよね?」
「誰一人殺さずできるんだったら絶対そっちを選ぶだろ? 何が悪い?」
安城は図星なのか不機嫌な様子。
「甘い。考えが甘い! 私たちがここに来た時点で人を殺す覚悟を決めたんじゃないの? 戦争が最終手段だとしても、綺麗事で解決しないよ? あんたリバタールで何やってたか知らんけど世の中舐めすぎ」
「はぁ!? そりゃお前は戦わないからいいだろうけど殺すのはこっちなんだよ! 俺は人なんか殺したくねぇ! 総統、戦わずにベンシルリッキの手をひかすことはできないのか?」
「何度も言うけど、仲介はできても解消のための手札は持ってないでしょ? 内閣や議会だってこんな現実になんかしらの権利渡せるほどの余裕ないし、有象無象としか捉えてないよ」
「……ッ」
「私たちが提供できるのは無尽蔵の兵器とそれを扱う兵士。まあ、予算内での話だがね」
議会からも協力は得られなさそう。
「ヒンベル総統、貴殿の軍はベンシルリッキに渡り合える程なのか?」
「もちろん。勝利は確定するかな。どれほどの時間をかけるかは別として」




