44話 アメリカの魔法は銃である
「あー、ヤバかった……」
「同感」
さっきのはどう考えてもヤバかった。あいつ脊椎で会話してるよ。なんならニューロン単細胞だけで言葉返してる。安城のバカ真面目正義細胞がだ。
なんであそこで敵対を示す言葉を言うのかなぁ?ヒンベルがカバーして、なんとか穏便に済ませてるけど、明らかハルム宰相に安城が敵対してること気づかれてる。
私たちが官邸付近の街を歩いていると向いから声がした。
「いた! おい! ヒンベル総統!」
あーあ、また湧いたよ。
「なんでワープさせたんだよ! 会談は!?」
「終わったよ。君が粗相するから」
「ふざけんな! まだ話すことあっただろ!」
「あのねぇ……」
安城たちは大通りのど真ん中で口論している。
「あいつを野放しにする気か!?」
場所を変えて路地に来た安城は、ヒンベルを壁に追いやり、壁ドンする形で問い詰める。
「君社会性ないね」
ヒンベルは刺すような冷徹な目で安城を見る。
「総統に言われたくねぇよ!」
「私はね、メディアに出れるほどの社会性はないけど、世の中を渡り歩く分の社会性はあるんだよ。君には世を渡る社会性さえない。豊川然り」
「おうもう一回言ってみろ」
急な飛び火が私を襲う。
「何度でも言ってやるよ。君たちは社不」
「私のどこが社会性ないんだよ!」
「暴言、暴力、協調性」
「……」
返す言葉もない。
「君はTPOをわきまえてない。私たちはあくまでハルム閣下と、今のこの国はどうか聞きに行ったんだよ。だが、やったのは中傷して殴りかかったようなもんだよ」
「見殺しにしろって言うのか! 貧困に喘いでるっていうのに」
「機を待て。ここで閣下を襲撃したって国政が治るとは限らんよ、根源である確証はない」
「じゃあどうするんだよ」
「それは――」
ヒンベルは突如拳銃をインベントリから出した。
「!?」
安城はすかさずヒンベルの右腕を絡め、射線を逸らした。
「何する!?」
ヒンベルは安城を睨んだ。
「総統が言ったんだろ、射線逸らせって!」
あのベレウゼ陸軍の伝統だろう。
「昔あったけどベセトアはもうやってねぇよ!」
「じゃあなんで……?」
「後ろ!」
安城や私が振り向くと、立ちふさぐように衛兵のような人間がいた。機動性のある皮鎧と金属の胸当てや肩パッドを装備している。
「すみませ〜ん、お取り込み中ちょっといいですか〜?」
「なーんですか〜?」
ヒンベルは衛兵を真似して文末を伸ばした。
「なんか〜、ハルム宰相に楯突く人がいるって聞いたんですけど〜、あなたたちであってます〜? 俺たち帝国と仲良くってくれてるんですよ〜」
帝国、つまりハルム宰相が言ってたベンシルリッキの軍隊。共同で防衛に当たってるとは言っていたが、衛兵にも置いていたのか。
確かにベンシルリッキの国旗のワッペンがついている。
「ちょっとこいつみたいになりたくなかったらお話いいですか〜?」
衛兵は路地の奥を指差した。その先にはもう一人の衛兵と、前に路地で話したごろつきがいた。ごろつきは衛兵に引きずられる形で登場。顔を見るとボコボコに殴られ、鼻血を出している。
「お姉さん、話いい?」
「……ッ!?」
ニヤけた顔で私の手を強引に掴んできた。
「はい! そこの衛兵! あなただけに質問!!」
ヒンベルは今までにないハイテンションで、目の前の衛兵を手のひらで指した。
「えっ、俺……?」
衛兵は自身に指を指す。
「塹壕で活躍するものってなーんだ!?」
「ざっ、ざ、塹壕……!? ってなんだ……?」
「さーん! にーい! いーち!」
ヒンベルはカウントダウンして衛兵を焦らす。
「えっあ、シャベル!」
衛兵はヒンベルに向かって指差して答えた。
「正解はー?」
そう言いながらヒンベルは、スムーズにインベントリからスナイパーライフル並の大きさのフォアグリップをもつライフルを取り出した。
取り出すと無駄なくストックを肩にかけ、指をトリガーに据えた。グリップを左手で持ちスコープを覗きこむ。
構えた途端に発砲し、轟音をあげて目の前の衛兵どころか後ろの衛兵も巻き込んで、上半身を吹き飛ばした。
「ショットガンでした〜」
そう言いってストックを肩から外し、排莢を行う。赤い排莢は煤煙を上げながら地面に落ちた。
「……それショットガンなの……?」
ショットガンにしてはあまりに取り回しが悪い。その取り回しの悪さはスナイパー並みだろう。
「スナイパー並の射程をもつショットガンだよ」
「頭悪くない?」
なんか、それだけ聞くに『ぼくのかんがえたさいきょうのぶき』みたいな感じ。
そんなん隠密狙撃を投げ捨てて連射すれば全部解決じゃん。
「てか、よく考えたら総統って文民だよね? 文民が武器持っちゃダメじゃない?」
「そんな、私はただの文民だ……!」
そう訴えるヒンベルの手には、例のショットガンスナイパーが存在を主張している。
「ただの文民は銃なんて持たないぞ」
「これは……あれだよ。『規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有し、また携帯する権利は、これを侵してはならない』、憲法にある」
「おいこら、アメリカ憲法カンニングしながら言うな」
ヒンベル視点ではアメリカ憲法を検索して画面に表示している。
「私は文民だ。何と言おうと文民だ。文民だから守られるべき対象なんだ」
ヒンベルは自分に言い聞かせるように言う。
「おい、立てるか?」
安城はごろつきに触れて尋ねた。
衛兵たちは何も言わず、ただの屍。血が路地に溢れている。
「……あ…ああ……大丈夫だ……」
ごろつきは意識を取り戻した。よろけながら立つ。
「わりぃな、助けてもらって」
「いいや、当然のことだ。お礼は総統に言ってくれ」
するとどこからともなく馬の足音が聞こえ始めた。次第に大きく聞こえてくる。こちらに来てるようだ。
「ヒンベル、ここはずらかった方が……!」
「ねぇちゃん、いいよ。あいつらだ」
「あいつら?」




