43話 既得権益者ってなんでこんなにゴミなんだろうか
ヒンベルの指折りでデェシュメックの官邸に入ることができた。服装は着替えていつもの通りの服装だ。
私たちが招待された客室は一段と豪華で、大使館にあるものとは比べものにならない。
使用人がドアを開け、客室にハルム宰相がボディーガードをつけてやってきた。
ハルム宰相は中年男性で体型は以外にもスラっとしていてふくよかではない。顔つきもいわゆるイケおじ。だが、少々うさん臭さが見て取れる。
「ハルム閣下、突然お邪魔して申し訳ありません。私の部下がお話を聞きたいようでして付き合って頂けないでしょうか?」
ヒンベルは普段とは想像つかないほど礼儀正しく振る舞い、ハルム宰相に少し頭を下げた。
「いえいえ、ヒンベル総統の頼みです。なんなりと仰ってください」
ハルム宰相は笑顔で挨拶した。
「ベセトア陸軍少尉の安城将太だ――」
安城が自己紹介を言い終わる寸前にヒンベルは安城を小突いた。敬語で言えと。
「……です」
「ベセトア外交官三等書記官の豊川琴音です」
私は安城の同じ轍を踏まない。
「どのようなご要件で?」
「デェシュメックの多くの民がく――」
安城は単刀直入に聞こうとした途端、ヒンベルが安城目がけて拳銃を撃った。
「何すんだ!?」
「何してんのヒンベル!」
【バカタレ正面突破してどうする】
ヒンベルはグループメッセージで安城を叱責した。
シールドのお陰で安城は無傷だが、ヒンベルの行為に安城は激怒。
「すみません閣下。これはベレウゼ陸軍幹部の伝統的な訓練方法で、いつ襲撃されても対応できるようするものなのです」
物騒な仕来りだな。
ヒンベルは白煙が昇る銃を持ったままハルム宰相と話す。
「ハッハハハ!! ずいぶんとスパルタなのですねえ!」
ハルム宰相はその光景に驚いたが、愉快そうに笑った。
「ほら安城、私が拳銃出したら腕掴んで射線逸らさないと」
「え、あ……ああ……、まだまだ訓練不足なのを実感しましたよ」
安城もなんとか話を合わせる。
「閣下もぜひ軍に取り入れてみては?」
「いやぁ~! 下手したら兵が死んでしまいますよ。まっ、いっか! 私が死ぬわけじゃないし、検討してみますよ」
えぇ……。ハルム宰相の本性が露呈したような気もしたが、もう少し話を聞く。
【こういうのはさりげなく会話の中で聞く】
「閣下は、最近の治世はどうなんですか? どうも首都は活気に溢れてるとか」
安城はヒンベルの言った通り遠回しに探ることにしたようだ。
「ええ、幼い国王に代わってこの国を治めていますが、首都を中心として経済の促進を促してますとも。議員、貴族や資本家を中心に税金を使い、消費と生産の増大を狙っています。この考えは、なんでもベンシルリッキの方で神の啓示を受けた人が普及させたとか。なんにせよそれでベンシルリッキは上手くいっているようです」
「……それはすごいですね。俺の現実にある国でもそういう考えがあります」
安城の表情は少し曇った。
この話はいわゆる資本主義の考え。確かにそれで産業革命や自由競争の概念が発生した。
「労働者階級にもそういう枠組みに入れないのですか?」
私はハルム宰相に話の流れを掴んでかつ、彼の今後の考えを聞くことにした。これでノープランだったら黒。
「労働者? ハッハハハ、考えてもいませんでした。彼らはものを作ってさえいればいいのですから」
思った通り。既得権益者としてこいつは絵に描いたようなゴミだ。
「ベセトア以外に外交はどうなんですか?」
安城は膝で拳を握り、少し強く言った。
「今はベンシルリッキとの外交に力を入れてますね。彼らは経済、軍事力、資源などあらゆる分野で無類の強さを誇りますから。今もエゴの軍をわが国に招き、共同で防衛にあたり、見返りとして穀物などを送っています」
「……その穀物はどこから来てるんですか」
更に安城は睨むように言う。
恐らく安城が言いたいのは、年に取れる税金の取り分、つまりその朝貢する穀物どこから捻出されたのか。
「そりゃ畑から取れるに決まってるでしょう」
ハルム宰相は当たり前のことを言うように平然とした顔で答えた。
「その穀物は本来民衆に行くもんじゃなかったのか!!?」
安城はバンッと机を叩いて立ち上がった。
ハルム宰相が私たちを見る目が変わった。
「何か……ご不満でも……?」
ハルム宰相は見下すような目で私たちに尋ねる。
「あーあー、申し訳ございません! この人はちょっと激情家で、税金の使い道を早とちりしたんですよ。ちゃんと民を食べさせる程の備蓄はあるのですよね?」
私は咄嗟に安城をかき消すように話を遮り、突っ込んできた。
するとハルム宰相は直ぐに柔らかくなった。
「はい。もちろんです」
「ですよね!」
「それが聞けてよかった。この国の治世はうまくいってるようで。これからもお願いします」
ヒンベルもこの会談を締めようとした。気持ちは同じだ。安城がことを仕出かす前に畳む。賢明な判断だ。
「おい! 琴音! ヒンベル総統!」
「まあまあ落ち着けって。ここは閣下の言葉を信じよう」
ヒンベルはいたって平常心。ポーカーフェイスで手を仰ぎ、安城を落ち着かせる。
「しんじ――」
ヒンベルは右手で安城を無理矢理ワープさせた。
「お時間をいただきありがとうございます。豊川、行くよ」
「あ……うん……! そ、そうだね!」
そうして客室から退出した。




