42話 閑古鳥が巣食う集落
大使館最寄りの集落に来たはいいものの、人が全くいない。避けられてるとかそういうのじゃない。単に人がいない。建物も少々くたびれていて放置されている。所々にクモの巣が張ってある。
集落の広場で見渡すと、私たちが上陸した所より離れた所で湖の水を組んでる人々がいた。両手にそれぞれ一個づつバケツを持ってる。
十歳くらいの男の子二人と彼らより一回り小さい女の子一人。多分兄弟。服装もくたびれた麻の衣にツギハギ。決して裕福とは言えなさそうな人たちだった。
私たちは彼らに駆け寄って話を聞いた。ちなみにここで話されてる言語はダウンロード済み。
ヒンベルは安城と私を見守るような形で後ろにいる。
聞くに今日の分の飲料水を汲んできたらしい。彼らはこの集落から少し離れた農村に住んでるようだ。
この湖は特に澄んでいて飲料水としても飲め、滋養効果があるのか病気にも効くのだとか。この湖の下流や上流では効果がなく、この湖特有のものらしい。
続けてなぜこんなに集落が荒廃してるのか聞いた。
「……税金がおりなくなったんです。ここは扇状地で穀物はあまり実らなくて、代わりに宮廷用のワイン用のぶどうが育ちやすいんです。ぶどうと引き換えに税金の穀物を貰って生活してきたんだけど、その穀物の支給量が激減したんです。それで僕の村やこの町は放棄されました」
少年は拙い丁寧な言葉で私たちに窮状を伝えた。
「なんで来なくなったの?」
安城が膝をついて優しく問いかけた。
「……わからないけど、宰相のハムルが就任してから生活が一変しました」
少女が言った。
「ハムル宰相……」
安城は少女の言葉を復唱した。
察するにそのハムル宰相が、言わば悪代官と言うべきか、諸悪の根源と言うべきか。百聞は一見にしかずというのは承知の上。もっと情報を仕入れるべきだ。
「ヒンベル総統、首都に連れてってくれ」
☆
ワープを使ってこのデヴィースのベセトア大使館がある国、デェシュメックの首都ゼリザードに来た。
さっきの集落とは打って変わって賑やかな街並み。大通りに出れば、人を視界に入れないことはできない。このゼリザードは大使館のある気候と違って暖かく、湿っている港町だ。
そのためここは色んな異国のものが集まってくる。無論別現実のものも例外ではない。ベセトアの先遣卸売り部門がここの市場に上場したらしい。
ここからはデェシュメックで着られている服装に着替えて聞き込み。
「流石首都、さっきとは大違いだ」
「ヒンベル総統も来るのは初めてか?」
「ああ、調印式は別の都市でやったしね」
一応ベセトアの大ベレウゼ憲章調印式は、ヒンベルも立ち会うことになってるから絶対その現実の国に来る必要がある。
安城は率先して近くの貴婦人たちに聞い込みした。
「ええ、ハルム公爵が宰相になられて私たちの生活は良くなっていく一方です。本当にハルム宰相様様です」
「おやめなさい奥さん、私たちの旦那が議員だから甘い汁が吸えてるのですよ。下層部の人間は今ごろ……ホッホホホ!」
彼女たちは鳥の羽の装飾がついた扇子で口を隠しながら言った。
安城の顔は上辺は笑顔で取り繕っていたが、少し苦笑いだったというか、無理しているのが感じ取れた。
他も当たって酒場の店長に尋ねた。
「おいやめろって! いくら酒場だからだって不満は心にしまっとけ。壁に耳ありだ。……まあ、懐疑的になるのは頷けるよ」
店長は冗談はやめなさいと言わんばかりな口調で私たちの聞き込みを断ったが、実際にハルム宰相の執政に苦しんでる様子。
更に誰にも聞かれなさそうな路地にいるごろつきに聞いた。
「そんなん聞かなくたってここにいる時点で不満タラタラよ! あのハルム派の貴族議員は売国に勤しんでる。お陰で甘い汁の吸えない俺らはここで身を潜めてんだ」
案外見かけによらず素直に現状を言ってくれた。
他にも聞いてひとまず誰もいない路地で情報整理することにした。
「今生活に困ってない奴らは大体既得権益層の連中、それ以外は政治に不満あり……」
安城は今まで聞いた人たちの分析を行っていた。
「ねえヒンベル、宰相が運営してるって言うけど国王がやってるんじゃないの?」
純粋に考えて国王が国を治めてるってのが一般的。
「あー、国王は三年前に亡くなって後継者の皇太子も今八歳とかだから政治に参加できないんだよ」
つまりハルム宰相は、日本で言うところの摂政、関白になって政治を補佐という名目上政治を行ってると言うこと。
「……売国先の国はデェシュメックの北、ベンシルリッキという巨大多民族国家……ここが諸悪の根源か……?」
安城が共有ボード上の地図のベンシルリッキという国を差した。
「人間以外にエルフや獣人もいて、自治区があるんだ」
「……でもその自治区はつい最近併合したらしいよ」
ベンシルリッキの資料を見るとここ数年で種族問わず周辺国家を合併。表向きはそこの長が治めているらしい。
「ヒンベルもなんかないの?」
ヒンベルは今まであまり口出ししなかった。私たちに自分で考えさせたかったのかわからないが突っ込まない。だとしたら上司の鑑だ。部下を習うより慣れろの考えのもと教育させている。
「んー猫多くて触りたいな〜って」
期待して損した。
このデリザードには猫がよく人混みに溶け込んでいた。道端では人に餌を貰ってるのをよく見かける。
「話聞いてた?」
「まあ一応ハルム閣下にも会いに行く?」
「いけるのか? だったら頼む」
ヒンベルの提案に安城は二つ返事で承諾した。




