41話 「調和の大地」デヴィース
現実デヴィースに出発当日、私たちはリバタールの大使館前で待ち合わせた。
安城も私と同じくスマグロ装備一式を身に着けている。新品の陸軍制服が特徴。まだ慣れないようでインベントリから荷物を取り出すのにもたついていた。
午前六時前にヒンベルは大使館の玄関から来た。
「早いね」
「別に普通でしょ」
「まあ揃ったし、行こうか」
「で、どうやって行くの?」
「大使館中入って入り口に波乗り」
「すげぇ、ミスったら帰れなくなりそう」
ヒンベルについていき、階段を下って地下四階にあるハブポータルという部屋についた。そこは空港のように出国審査場があり、そのレーンの先に五つのワープポータルがある。ポータルは起動されておらず、金属の円形フレームだけがある状態。
「ベセトアの職員なら手をかざして行き先を決めれば通れる」
ヒンベルはお手本のように出国審査場の受付けパネルに手をかざす。そしてスマレンを出して操作を行う。
しばらくするとその先のワープポータルが起動。青い光の糸が渦を描いて加速。
すると渦の先には鏡のようにハブの光景が映る。その渦の中には私たちの姿はない。恐らくその先がデヴィース。
ヒンベルの前の改札が開き、そのままは通った。
安城も恐る恐る受付けパネルに触れて改札を通り、私も難なく通った。
ヒンベルは先陣を切って先にポータルの奥へ入った。ポータルの奥から手を振ってる。
「……琴音、先に行ってくれない?」
「え、なんで?」
「いや……その……ちょっと怖い」
そう言う安城はこういうワープは初めてだった。私は無理矢理ワープさせられたからこういうのは慣れっこ。
「柄にもないこと言って。とっとと行け」
「えぇ……」
安城はつま先からポータルに触れ、恐る恐る身体をポータルに入れた。
「!?」
安城の胴体や身体がポータルフレームを通った時、突如口を押さえた。
「どうしたの?」
「ちょっと……吐き気が……」
「あー、ワープ酔いね、珍しい。しばらくすれば、収まるから大丈夫」
ヒンベルはポータルの向こう側から言葉をかけた。
ワープ酔いなるものがあるのは初めて知った。なんなら今までそういうことはなかった。
安城がポータルを渡りきったら私もスムーズにポータルを通る。ワープ酔いもなく、難なく通過。もはや、現実を越えたという実感もない。
ポータルの先に広がっていたのはリバタールにあるハブポータルと全く変わらない部屋だった。違う点を言えばここが入国ゲートへ繋がってることだ。
またパネルに手をかざしてデヴィースに入国する。
そしてヒンベルについて行ってエレベーターに乗って地上一階のエントランスに出た。
「ねえ、この大使館、リバタールのやつと変わんなくない?」
デヴィースの大使館の第一印象はそれだった。全く変わんない。なんなら使い回し、コピペの可能性もある。
「ああ、そもそも大使館の建物ってプレハブみたいなもんだから使い回しだよ」
「やっぱか……」
せめて個々に特徴が欲しいってのは私の勝手だろうか、取って代わられる没個性が大使館ってのはどことなく虚しかった。
「まあ景色は違うから。見てみ」
エントランスから出て建物のフロント部分にある演説台のようなところから景色を見下ろした。
「えっ!?」
そこには、リバタールと違って水湖のど真ん中に大使館はあった。一応四方八方に山の尾根があるのが見える。つまり絶望的な孤島に大使館が建っている。立地悪すぎ。
「これどうやって陸地行くんだ?」
「ボートねーじゃん」
透明な水面が揺らいでいる。ボートを停めるようなところもあるが、ボートは一隻もない。一応ワープできるから陸地にワープポータルあれば、そこから行けるはず。
「どうやって行くってそりゃ……千m自由形だよ」
「千mクロールはキツいぞ」
というかここから陸地まで千mあるんか……。
「誰が泳ぐっつった? 水面走るんだよ」
「出来たら苦労しねえよ」
自由形だからなんでもいいだろうけど水面走って行くのはどう考えても無理がある。
「いやできるよ。設定から体重自由に変えれる」
「なにそれ神じゃん」
自由に体重変えれるってどれだけ太っても全く体重計に示される数字は変わらない。一人の女子としてそれは喉から手が出るほどの代物だ。
「でも本当の体重は身体に出るから意味ないよ」
「……」
それもそうか。ヒンベルだって病気なんじゃないかってくらい痩せてるし色白だし。数値上は健常値を示してたとしても身体が本当のことを言う。
「体重激軽にすれば歩けるよ。風に飛ばされるかもしんないけど」
設定を開いて見ると質量コントロールって欄がある。それを開くと今の重力加速度、自分自身の質量、つまり体重とか重力傾斜が示されてる。
体重は見なかったことにして、下にスクロールすると慣性制御による質量変更という欄があった。
そこから見たくない本来の体重から百グラムにする。
つま先から水面につけるとすごい浮力を感じた。くるぶしくらいまでつけるとかなり押し上げられる。
当然だ。今の私は人間の体積に対して百グラムという密度スッカスカの物体なのだから。
そしてもう一方の片足を水面に入れようとすると顔面からダイブしてしまった。今、身体は海浮いてるペットボトルみたいになってる。足を水面に入れたらすぐに走るべきだっただろうか。
「何してんの」
ヒンベルは既に水面の上に浮いている。
「ちょっと待って……!」
すぐに体勢を立て直して起き上がる。
水しぶきを上げながら立とうとしたが、すぐに顔面からダイブ。どうやって立つんだよ。
「豊川そんまま行こうとしてない? 忍者の水蜘蛛みたいなやつ履かないとバランス取れないよ」
「早く言えよ」
なんとか陸地に来た。あいつらは水しぶきを上げながらバチャバチャと走っていった。
私たちは最寄りの湖畔にある集落にやってきた。オレンジ色の瓦に壁面がコンクリートで出来た木造建築が立ち並んでいる。
「ねえ、なんでワープしなかったの?」
「こいつの見学も兼ねてね。陸続きでこの付近にはポータルないし」
「……あんたのどこでもワープで来たらよかったじゃん」
ヒンベルの顔が固まって間が空く。何か言おうとしたのか、口が少し空いている。
「ああ〜、そんなものもあったね」
「死ね」
まじでなんだったんだよあの時間。




