36話 勇者、即身仏と化す
「終わった……?」
「一応な……」
ガーディアンはなんとか処理できた。電流による熱で焼き切ったという解釈でいいのだろうか。
だが、油断は禁物だった。入り口付近から石同士が打ち付け合う音がする。目を凝らすと、グレネードによって入り口周辺はボロボロだ。天井から小石が落ちてきている。まずい、崩落する。
「豊川、遺跡ん中行くよ」
「わかった」
本来なら遺跡から出るのが正しいだろう。だが、ワープを持っている私たちにとって、遺跡の外にいようが、中にいようが変わらない。
ピキピキと亀裂が入る音が次第に、岩石が割れる音に変わり、遂に崩落した。土煙と共に大小の小石と岩石が入り口を塞いだ。
「流石に巻き込まれたら身動き取れんからな」
「てか、安城どうすんの? あいつ、合流しないと出れなくない? しかも、こんな真っ暗の中」
安城は実は灯りもなく遺跡内へ入っていった。なんでも、灯りがない方がよく見えるとか。本人が問題ないなら別にいいが、崩落は別だ。
「あ〜、そうだね……」
ヒンベルはスマグロ使って安城と連絡を取り始めた。
「おーい、安城? ああ、うん。でさあ、五穀絶ってたりする?」
急に何を言い出すんだ? 開口一番に言う言葉ではないぞ。五穀を待つ必要があるのは即身仏だけだ。いや、そういうことか。
「そっかぁ……。じゃあ、ここが君の大墓石だよ。寺院じゃない」
ヒンベルの言葉に、安城は文句がある様子。外野の私まで微かに聞こえる大声だ。でも、何を言っているかはわからない。
「良かったじゃん。仁徳天皇も羨むよ」
つまり、この遺跡は大阪の府堺市にある仁徳天皇陵古墳より大きいってことだ。ヒンベル曰く、ここが安城の死に場所にふさわしいと。
「でも、合流できなかったら『ここがお前の死に場所だぁ!』だよ」
ミーム好きだなぁ……。
「えー、こっちも普通に仕事あるから早く帰りたいんだけど」
「あんたのやったことなんだから、ちゃんと回収しなさいよ」
多分、脈絡的に早く帰りたいから安城は回収できないとかなのだろう。
「ああ、わかった。検討に検討重ねるわ」
これはやらないやつだな。ヒンベルは安城との通話を終えた。安城生き埋め確定。
「で、何してたんだっけ?」
「大丈夫か」
まあ、立て続けに事件が起きたのだから仕方がない面もある。そろそろ感覚がバグってきた。ヒンベル相手には相手が何かを忘れている前提で話を進めるべき。
「最深部を探すの」
「ああ、それなら空洞が一つ……」
「それさっき落ちた帯水層じゃない?」
「ああ、そうか」
「てかさ、何をもって最深部としてるの? ピラミッドとかだったらさ、王の間だと思うけど、カッパドキアの地下都市みたいなやつだったらないと思うよ?」
私の意見に、ヒンベルはその発想はなかったと言うような驚きの表情を見せた。
「つまり、ゴールはないと?」
「そういうこと」
そもそも、前提がおかしいのだ。ダンジョンと聞いて、RPGゲームとか地球にあるピラミッドみたいな遺跡を想起すると思う。だが、それはあくまでご都合主義だったり、権力者の埋葬という目的により、自ずとできたものだったりする。
端的に言えば、宝物庫や大墓石だから重要な最深部があるのであって、それ以外の構造物はない場合がある。地下都市に重要な最深部を作る必要は基本的にない。あるとするなら食糧貯蔵庫や貯水池。
「とりあえず、あいつらが今まで通った場所確認するか」
ヒンベルはメールでファイルを送ってきた。あんたも見てみろと。
ファイルを開いて見ると、安城は赤、ヴィーインさんは青で通った軌跡が表示された。
円柱形を描くように両者は、ぐるぐると回っていた。それを中心に放射状にある廊下を行ったり来たりしている。
「同期押してみ」
詳細マークから同期を押してみる。すると、赤と青がものすごい速さで遺跡内を駆け巡っている。目が回ってしまう。
「これはないね……」
現在進行系で恐らく両者は、地下五階建ての遺跡をコイルのように駆け巡っている。円柱形を描く線はちょうど五本。そしてそこから線が放射状に伸び、クモの巣を形成している。
だが、違和感がある。こんなにまんべんなく駆け巡っているのに、綺麗にコイルの中央には行けてない。
「中心には行けないのかな?」
「そこ大使館の真下だよ。プライマルがある」
プライマル、私が知っている限りでは、ベセトアの力の根源であり、このリバタールに来ることができた要因。
「もしかして、そこが最深部なんじゃない?」
「そういう考え方もあるよね」
「じゃあなんなんだよ」
私を否定するようなニュアンスが含まれている。
「てか、この遺跡、増築する時に邪魔だな……」
「埋めればいいんじゃない?」




