34話 現在、深夜零時。寝かせてください
深夜、日本時間で午前八時、ヒンベル宛てにメッセージを送った。「安城がリバタール大使館に来た」と。
ベセトアの始業時間は、配属先にもよるが、基本は午前九時。ちなみに、午後零時半から一時間の休息、そして午後五時に定時。
一時間後、大使館の客室にヒンベルは来た。ちょうど日本時間で始業時間。
ヒンベルは扉を開け、私たちと目を合わせて、
「……誰だっけ?」
と、手をドアノブにかけたまま首を傾げた。邂逅の第一声はそれだった。
「何回やるつもり?」
呆れた。かれこれ、三回くらいはこのやり取りをやっている。もはや、数えるのもバカバカしい。
「あ〜、うん。じゃあ、試験始めるよ」
何度目かわからない自己紹介と現状確認をした後、ヒンベルは口を開いた。それまで、「うん」とか「ああ」とか、相槌を打っていた。ちゃんと覚えているのかは不明。一応、間に合った判定に渋々してくれた。
「え〜と? 試験だけど……何やるんだっけ……」
寝起きなのか、ヒンベルの頭はあまり働いていない。頭を抱えている。こっちも夜遅く、頭が回っていない。
「もっと段取りよくやれよ」
「ああ、そうだ。この近くに遺跡があってね。入り口からそこの最深部に行ってもらうよ」
「それだけか?」
「って思うじゃん? 来てみればわかる」
ヒンベルは何か含みのある言葉を残した。
☆
大使館から一kmもしない地点に、遺跡、言わばダンジョンなるものがあった。周りは何の変哲もない大地なのに、崖肌に遺跡の入り口があった。風化した石造りの入り口。
ここに来るなり、既に誰かが入り口前で仁王立ちしている。ヴィーインさんだ。
「安城にはヴィーインより先に最深部に行ってもらうよ。だが、ヴィーインは遺跡にあるもの全て棚ごと回収しながら向かう」
知らない内に眼鏡をかけているヒンベルが、試験の解説をした。割と単純。
「君が勇者か……ついてこれるかな?」
ヴィーインさんは恍惚とした表情で、安城を一瞥。
「なら、余裕じゃないか。逆ならまだしも」
「でも、こいつは十倍速で走ってもらうから。頑張ってね」
「先に言え」
ちゃんと大事な部分は先に言えよ。そこ聞いてなかったら、安城はわけのわからないまま負けてたぞ。
とりあえず、色々と試験のセッティングを行い、準備は整った。
「えー、位置について。よーい、どん」
ヒンベルの緩い掛け声によって試験は始まった。遺跡の側にある出っ張った岩に腰を下ろして掛け声を発した。頬杖を付いている。
私はヴィーインさんの方を見る……ことはできなかった。ヒンベルの掛け声を聞いた瞬間、消え失せた。
「はっや!?」
これには安城も反応せざるおえなかった。流石、十倍速。超が付くほどのせっかちでも、こんなことはやらんぞ。あと、自身が十倍速を制御できるかは不明。
「負けるか……!」
安城も人間とは思えない速度で、遺跡の中に足を踏み入れ、闇に消えた。あらためてヴィーインさんの十倍速が異常なことがわかる。安城でさえ、まだ目で追えた。
「で、私たちはどうすんの? もう寝ていい?」
とっくに零時は過ぎている。かなり眠いってわけではないが、そろそろ寝床につきたい。あと、お風呂に入り直したい。お風呂入った後に、外出るのは好きじゃない。
「ああ、まだちょっと付き合って」
「何すんの?」
「最深部探す」
「段取りわっる」
こういうのは普通、最深部をあらかじめ見つけといて、そこで待ち構えるのが定石。何から何まで詰めが甘い。まあ、急だったから準備ができていなかったとも考えられるが。
私たちもこの遺跡に入った。中は外と変わらないくらい真っ暗。だが、スマレンの暗視で普通に見える。スマレン様々。全面石材で構成されており、等間隔に本来、ろうそくか何か、照明を置く台が天井付近の壁にある。
「出遅れたら、どっちが先かわかんなくない?」
「いや、ワープで探す」
「そんなことできるの?」
「今、ウォールハックで壁透過してるから」
「マジか……」
ウォールハックなんて単語はFPSゲームでしか聞いたことがない。裏を返せば、それ以外の分野で実現しない。あるいは、必要とされていない。そんなものまで、ベセトアは開発している。
ヒンベルは集中しているのか、真剣な眼差し。その目でいつもやってくれれば、そこそこ貫禄は出る気がする。
「てか、なんでこんな遺跡調査してるの?」
「ここ大使館近くて変なやつに使われてほしくないし、現在進行系で変なやつ湧いてんだよ」
ヒンベルは目も合わせず、奇妙な手の動かし方をしながら答えた。
「変なやつ? そういえば、ローレさんが――」
――なんか下からスライムみたいな液状の変なやつ湧いてくるんだよ〜。気持ち悪かった……。
って言ってた気がする。
「で、なんか遺跡に詳しい学者に聞いたら、人が長時間ダンジョンに滞在すると、ガーディアンってやつが現れるらしい。なんでも最深部にある装置を止めればいなくなるとか」
つまりは、変なスライムがガーディアンだと踏んでいると言うことだ。
「お、あった」
「わかるの?」
「なんか最下層に空間がある。ワープしてみる」
そう言って私の前からワープで消えた。
ご視聴頂きありがとうございます
タイトル変更についてなんですが、pvは微増したくらいで大して変わりはなかったです
流入口を大きくするという面で、不本意ではありますが、しばらくこのままでいきます
ですが旧タイトル、旧あらすじで釣られた方々に言わせてください
ありがとう、親しみを込めてありがとう
私が本当に求めてた客層って言うのは、あれに釣られた人たちです
もちろん、新タイトルに興味をもって読んだ方々もありがとうございます
温かい目で見守ってくださるとうれしいです
この先、読んでも読まなくてもいい余談です
先週火曜辺りに100話までの区間が開通し、シーズン6区間と概ね繋がりました
既にシーズン6の大半はできているので話数を振ったり加筆したりする感じです
というのも、実はこの小説ってリニア新幹線の線路みたいに作ってるんですよ
リニアって東京から大阪まで順に作るのではなく、点々と区間を分けてそれぞれ作ってるらしいです
それと同じで当初、バラバラなシーンを作って繋げてるんです
多分、このペースだと150話前後で終わると思います
まあ、没になったシーンが4割くらいあるんですけどね☆
面白そう、続きが気になる、と思って頂ければ
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