33話 所要時間に見合った期限を設けよう
「そうか……厨二病が重症化して言語障害が……」
ヒンベルは安城を哀れむように顔をしかめた。
「ふざけてないでなんか言え」
こいつ煽り耐性強いな。
「……君の妄言はもう聞き飽きたよ」
そうヒンベルが愚痴をこぼすのも無理はない。組織のトップを打ち負かして、自分の要求を飲ませる。それならまだわかる。だが、安城の要求は自分を組織の部下に置くよう命令。
「中枢議会に出れば、冒険者解体も撤回できるんだな?」
「理論上」
「じゃあ士官にしてくれ。士官なら出れるんだろ?」
「理論上」
理論上、ヒンベルはこの次も『理論上』を言う。
「士官にしなければ、ガレオたちは退かないぞ」
ガレオとはヒンベルに乗っかってる人の一人の名前だろう。
「職権濫用したくないんだけどなぁ……」
ヒンベルは嫌そうに目を逸らす。しばらく考えた後、口を開いた。
「特別に試験課すからそれ合格したら陸軍士官にしてやるよ」
「本当か……!?」
「後で詳細出すから、遅れず来てね」
☆
後日、安城は大使館に呼び出された。あと一週間以内に大使館に来いと。が、実はとんでもない無理を彼に言っていたことになる。
フィゼナから大使館最寄りの街まで、街道を使って三週間は掛かる道のり。これは東京から広島までの距離に相当する。
あくまで一般人は三週間掛かるが、急ぎでも二週間に収まれば、かなり早い。
試験は既に始まっていた。遅れれば、士官採用の話は無しだ。当然、六日目に至るまで来ることはできなかった。
七日目、私はいつも通り書類配送や通訳の仕事が、定時通りに終わった。
そして、私服に着替えて、自由時間を過ごしていた。ふと、窓から外を見ると、誰かが門の前で倒れていた。空は既に日が沈み、街灯が淡く付いている。
私は門の側まで駆け寄り、しゃがんだ。目を凝らすと、安城が倒れているのがわかった。
「来たんだ。ギリギリだよ?」
門越しに語りかける。安城はうつ伏せで倒れている。汚えぞ。
「……」
返事がない。ただの屍のようだ。このまま土に帰る運命なのだろう。だが、そこは大使館の前なので、できるんだったらちょっと脇で土に帰ってほしい。
「あ……あ……」
有名アニメ監督映画に出てくる化け物みたいなセリフをこぼしている。
「……士官の……話……は……?」
時間を確認してみる。まだ午後八時前。だが、このコントーレでは午後八時と言う訳だ。
「上がっていいけど、多分ヒンベル、寝てんじゃない?」
というのも、今は日本時間で午前四時。まだ目を覚ますには早い。というか、日本時間で士官採用の話をしていたのなら、完全にアウトだ。
「誰こいつ」
私が無理やり客室に引きずった安城に、ラーゼさんは指さして尋ねた。
「あ〜、ここの勇者」
「そっかぁ〜、もう勇者が出てくる時代なんだね」
そんな「そろそろ虫が湧いてくる時期なんだね」みたいに言わなくても。
「安城、馬使わなかったの? そっちの方が早くない?」
純粋な疑問。多分、安城は昼夜ぶっ通しで走ってきた。馬を使えばもう少し疲労やらを減らせただろうに。
「……馬は持続力ないからすぐに使えなくなる」
言われてみれば、そんな話を聞いたことがある。馬は瞬発的に走れるが、何日も長時間走れるものではない。
「今、本部閉まってるから待ってて」
「え……? そんなのアリ……?」
「あっち午前四時だから――四時間後かな」
本部の人たちはどうやら日本時間で活動しているらしい。これは個人としては、なんとなく誇らしい。だが、コントーレの外交官としては、時差があるためめんどくさい。
「にしても、勇者が何しに来たの? 早く魔王倒さないの?」
「魔王はもう討伐したよ……」
安城は呆れながら答えた。これはラーゼさんの天然なのか、本当に既に魔王が倒されたのを知らないのかはわからない。
「あー、勇者って冒険者だよね? じゃあ、そろそろ冒険者解散の時期?」
「なんでどいつもこいつも冒険者解体になるんだ!」
安城はラーゼさんの不用心な言葉に、血相を変えて反応した。
「だって、私の現実だと、魔王が倒されたと同時に冒険者は無くなったんだよ。魔力も無くなって、世界のほとんどが足を踏まれて、冒険者の需要が無くなったとか。高校の歴史総合で習うよ?」
厳密に言えば、ラーゼさんの方のコントーレの高校の歴史で習うらしい。
「それがベセトアの人が冒険者を解体する理由なんですか?」
「そうだよ。『魔王討伐されたんだったら、そろそろ冒険者解散だよねー。あれ、解散促進しないと、開拓政策と噛み合い悪くない?』ってな感じで解体してるっぽい。歴史変えると何かと不都合だし」
ラーゼは身振り手振り、声色を変えてベセトア上層部の演技を見せた。腕を組み、頷くかと思うと、首を傾げて手を顎に当てた。
「つまり、台本通りに動かしてかつ、その中で自分たちの都合のいいようにしてるってこと……?」
台本(別現実の歴史書)という話は置いておく。
「まあ……、言ってしまえばそうだね。私もここから一万年先に生まれるんだし、歴史変えられたら、生まれなくなるもん」
「一万年先!?」
安城はラーゼさんの言葉に耳を疑った。気持ちはわかる。
「ベセトアは開港させる現実の古参勢全員の出生を確約してるし、ある程度辻褄合わせないといけないからね」
「……」
流石の安城も、この事実を否定することはできなかった。




