31話 序盤に戦うラスボスは序盤の主人公でも戦える性能(3)
「いや? 全然。大抵予選落ちだったし、本戦出れたことほとんどないんじゃない?」
これはかなり拍子抜け。総統、というより組織のトップが強いって言うのは昔からの定石とされていた。だが、このベセトアでは、「やつは四天王の中でも最弱……!」って次元でさえない。
まあ、それでも勇者と呼ばれている安城に耐えているあたり、一筋縄では行かない模様。
「あいつの戦いって言ったらあれだよね?」
ルルさんはヴィーインさんと顔を見合わす。
「ああ……あれかぁ……。到底剣技による戦いとは言えないよね……」
「そんなに酷いの……?」
今私の目に映る光景でさえ、酷いものだ。安城はバカ真面目に剣一本で戦っている一方、ヒンベルは刀や銃、ロケットランチャーなどやりたい放題。
「いや酷いって言うかねぇ……。いや、酷いな」
ヴィーインさんはヒンベルを擁護しようとしたが、やはり酷かったらしい。どう思い返しても擁護できないのだろう。
「見てみ、あいつは刀の振りや姿勢はいい。そしてその振りを素早く繰り出せてる」
ルルさんの言う通り、目を凝らしてヒンベルを見る。
確かに素人目線でもプロ顔負けの一振りや姿勢で対峙している。尚且つ、素早い剣裁きで安城の攻撃を受けた。
「でも、それだけなの。あまり力強く振ってないし、残心がない。力負けしてるのも証拠」
刀は力任せに振るものではない。切れやすいから刃が通れば一瞬で切れる。
だが、残心がないのは刀を持つ者として致命的。先人たちの知恵により編み出された生存方法を無視している。
今、スマレンの検索機能で剣道に関して調べているが、これは教えを無視どころでは済まされない。シールドのない実戦だったら死んでいる。
そして力負けは、武を振るう者として致命的以外に表す言葉はない。言ってしまえば、ヒンベルの剣技は「形だけ」。
さっきも、安城との鍔迫り合いで力負けした。ヒンベルは場外へと押し込まれかけている。
「でも『実戦』だったら、多分ここにいる全員斬り刻まれてる」
「それがあいつ、『完膚』の準臣下」
次第に呼吸が荒くなっているのが見える。戦いは久々とか言ってたか。なら、なおさらバテるのは早い。
「はぁ……はぁ……。勇者……全然削りきれてねぇぞ……」
ヒンベルの詳細表示からシールドの残量を見ると、やっと目標の十分の一に到達したくらいだ。あまりに舐めた目標を提示したが、十分無理ゲーの難易度だったようだ。
安城も体力に限りが見え始めた。ヒンベル程ではないが、呼吸が乱れている。額を拭って剣を構え直す。
「シールドに魔力が削られまくってる……もう賭けに出るしかないか……!」
安城はなにやら覚悟を決めた様子。どうも魔力を防壁、シールドに変換するのも一苦労らしい。それに根源たる魔力の残量も僅かと見た。
安城はヒンベルに向かって駆け出した。防御を全捨てした無防備な構え。
安城の繰り出した一振りは、余裕で受け止められる。本来なら、ここから鍔迫り合いや切り返しに持っていく。
その一振りは受け止められたが、衝突部から爆発が生じた。一際大きい火球が彼らを飲み込む。
爆煙から煙を纏ってヒンベルが転げ出てきた。すぐに体制を立て直す。
晴れてゆく爆煙からまたも、安城の一振りがヒンベルに襲いかかる。
またもいいようにヒンベルは二の足を踏む。どこへ転がされるのやら。
「やっぱりな……。ベセトアのシールドと魔力は相性が悪いんだ。言わば対消滅……か」
「……」
ヒンベルは安城の推理に眉をひそめる。
だが、安城の思惑はわかった。単純明快、場外だ。
爆発の衝撃で、ヒンベルを反則負けにするのだろう。シールドが叩けない以上、もうこれしかやれる方法はない。
冒険者たちも安城の考えを読み取れたのか、更に声援が大きくなる。
「いける! いけるぞショウタ!!」
「そのクズを場外に押し出せ!!」
「あの侵略者に正義の鉄槌を!!」
彼らの声援に紛れるヒンベルへの侮辱が届いたのか、顔が少し歪んだ。
ヒンベルは今までと打って変わって、安城の押し出しを掻い潜り、強引な攻撃を仕掛けた。
続けて、観客宛てにロケット弾を一発。だが、それでペースは完全に崩れた。
今まで以上に爆ぜ飛ばされる距離が長くなった。踏ん張れていない。
「ヴィーインさんたちは応援しないんですか?」
私は正直どっちが勝ってもどうでもいいのだが、ヒンベルの部下であるヴィーインさんたちは、彼を応援すべきだ。
「いやいいでしょ、別に。昔、『応援貰って意味があるの?』って言ってたし」
うわ〜、レアタイプ。名だたる有名漫画は、「友情、努力、勝利」を黄金比としたが、ヒンベルには通じないらしい。分からなくもないけどさ。
というか、ヒンベルは応援によって成功体験したことないのだろうか。実を言うと、私もそういったことはない。「あの時、応援がなければ負けてた……!」って経験なんてしたことない。私もいてもいなくても、結果は同じって考えを持っている。
でも、そのことを言葉にして出すことはないんだよなぁ。応援貰っても軽くあしらうだけで、「やめて」や「意味なくない?」とは言わない。
これは自分で蒔いた種だなぁ……。ヒンベルはペースを崩すと、途端にガードが甘くなった。疲労が露骨に表れ始めている。
肩を落として手を膝につき、過呼吸になっている。息苦しいのか、口は半開き。
戦局が安城有利になると、声援の方も一層大きくなる。裏を返すと、声援がヒンベルを追い詰めている。
そして遂に、後一撃で場外に追いやられるまで、ヒンベルは後退した。
「魔力もちょうど一発分……、決めてやる……!」
あと一撃でこの試合は決まる。安城は一撃分の魔力を使い果たせば、ノーガード。銃弾でやられる。ヒンベルも場外踏み越しの危機。それよりも体力がもうない。
「喰らえ……!」
安城は腹の底から声を出し、ヒンベルへと一撃を食らわせる。
「――――!!」




