シーズン1 3話 虚飾の訪問
二度目の大学停学食らって研究も何もできないし、この間に就活を進めようと思う。でも、メテオショックのせいで周りが噂する通りどこも駄目らしい。
隕石が完全に衝突コースに入った。これだけでも経済はかなり変わる。金融は不信があると一気に崩れる。もちろん景気ってのは金融だけが左右するわけではない。
当然こんなんを平民が対応できるはずがない。今あるものでやりくりするしかない。金持ちはどうするか知らんが、とにかく金を使って生き延びようとするらしい。
隕石が衝突すると地表が寒くなるって言うけど、衝突する前から寒くしないでほしい。もし、地球の裏側で隕石が落着すれば、表側は熱波や津波はなんとか避けれるらしい。確証はない。
色々エントリーシートとか送ってるけど九割は撃沈。通ってもすぐに落とされる。今日は面接終わって、おばあちゃんのいる老人ホームに寄り道する。
駅から離れた最寄りの老人におばあちゃんがいる。おばあちゃんは重篤な認知症。辛うじて家族やルーティンは覚えてるけど、物覚えはてんで駄目。治療も、今の医療じゃ刃が立たない。
施設のスタッフとおばあちゃんの個室にノックしてから入る。
おばあちゃんはベッドで横になっている。
「二葉さん、孫が来てくれたよ」
ゆっくりハキハキとスタッフは、おばあちゃんに語りかける。おばあちゃんは耳が遠くなってるからこうでもしないとわからない。
「……?」
「おばあちゃん。私、琴音」
「……ああ、琴音。おかえり」
おばあちゃんは何とか言葉を返した。
そう言って身体を起こす。
「ただいま」
スタッフは「何か用があれば読んでください」と言って業務に戻った。
おばあちゃんは認知症以外にまだ不可逆的な病気は発症していない。それでも、ドミノ倒し的に身体がどんどん悪くなっている。正直言ってあまり長くはない。
「……寿は? ……哲也くんは来てないの?」
寿と哲也は私の両親。
「……うん。ごめんね。来てない」
来てない、と言うより来れない。両親はもうこの世にいない。メテオショックによる大恐慌早々に大規模テロが東京やその他外国の主要都市で起きた。東京では爆破テロ、その他都市では銃撃テロ。東京では私の両親もその被害者。
あの時、私は大学に行ってて、両親は仕事帰りに巻き込まれた。
そして、遺族として大規模テロの被害者を合同で追悼する式に出席した。
おばあちゃんには酷なことだったが、一度死んだと言った。でも、次会うときには覚えていなかった。正直、こういう時に認知症は都合がいいなって思った。だから、両親は生きてることにした。何度も悲しませたくなかった。
「……琴音、大学はどう?」
今一番聞いてほしくない話題を振られた。
「……楽しいよ。けど、今はちょっと就活頑張らないと」
一応、学部を卒業するまでのお金はある。でも、その先は不透明。隕石が来ようと来なかろうと食い扶持は確保したい。実際、隕石が衝突しても全人類が死に絶えるわけではない。隕石が衝突した世界でも、それに少なからず生きる術は持っておきたい。
「……そう。元気そうで…良かった」
おばあちゃんは少し微笑んだ。シワが穏やかに伸びる。
「最近、外が騒がしいの。目先の事に躍らされて…迷惑かける人がいるみたい」
一理ある。大規模テロなり金融ショックなりは目先の事に躍らされた結果と言っていい。
「……琴音、目先の事に躍らされちゃ…駄目だよ?」
「わかってる」
「……あなたはお父さん似だから…躍らされやすいのよ?」
「……わかってるって」
おばあちゃんは、よく自身のお父さん、つまり曽祖父に私は似てると言う。実際に会ったことないし、曽祖父の写真とか見たことないけど、話でよく聞く。
「……でも…宇宙人なら…信じていいかもね」
「宇宙人? 尚更信じちゃ駄目でしょ」
突拍子のないことを言う。
「嘘を付かない…約束は果たす…宇宙人はいるかもしれないじゃない。……その人たちなら…任せてもいいかもね」
私のおばあちゃんはたまに冗談を言う。それでもこれは冗談と言うより気休め。実際にそもそも宇宙人すらいるか怪しい。
「宇宙人……いるといいね」
ここはおばあちゃんに話を合わせる。真実だろうが、嘘だろうが。
「ええ、いるとも。ほら、あそこにいるじゃない」
「……?」
おばあちゃんは窓に指を差した。
窓を覗くと空に青い巨大な割れ目が広がっていた。ガラスが割れる寸前のように破片が地上にこぼれ落ちている。
割れ目は広がり続け、中心が隆起。すると、巨大なロケット……? というか宇宙戦艦のようなものが飛び出し、割れ目は収縮し始めた。




