2話 ジ・エンド
少し前のこと、
停学中、今日は面接終わって、老人ホームに寄り道する。
駅から離れた最寄りの老人ホームにおばあちゃんがいる。おばあちゃんは重篤な認知症。辛うじて家族やルーティンは覚えてるけど、物覚えはてんで駄目。治療も、今の医療じゃ刃が立たない。
ふと、空を見上げる。なんか、不穏な空模様だ。雲一つない快晴だが、空が歪んでいるというか、心なしか亀裂が入っているというか。
まるで今の私の状況を表している。先の見通せない、歪な未来。
何も持たない、何も現実を変えられない人間そのもの。
――でも、所々光が点滅している。人工衛星だろうか。普段夜でも見えないのだが、今になって見えるようになった。これで隕石だったら笑うしかない。
光というのも、すぐに濁った空にかき消される。
色々エントリーシートとか送ってるけど九割は撃沈。通ってもすぐに落とされる。
メテオショックのせいで周りが噂する通りどこも駄目らしい。
隕石が衝突すると地表は寒くなるらしいが、その前から寒くしないでほしい。
施設のスタッフとおばあちゃんの個室にノックしてから入る。
おばあちゃんはベッドで横になっている。
「二葉さん、孫が来てくれたよ」
ゆっくりハキハキとスタッフは、おばあちゃんに語りかける。耳が遠くなっているため、こうでもしないとわからない。
「……?」
「おばあちゃん。私、琴音」
「……ああ、琴音。おかえり」
おばあちゃんは何とか言葉を返した。
そう言って身体を起こす。
「ただいま」
スタッフは「何か用があれば読んでください」と言って業務に戻った。
おばあちゃんは認知症以外にまだ不可逆的な病気は発症していない。それでも、ドミノ倒し的に身体がどんどん悪くなっている。正直言ってあまり長くはない。
「……寿は? ……哲也くんは来てないの?」
「……うん。ごめんね。来てない」
来てない、と言うより来れない。ちょっと事情がある。
「……琴音、大学はどう?」
今一番聞いてほしくない話題を振られた。
校内の階段で懲りずにナンパしてきた同級生といざこざに。その結果ドミノのようにあいつらは転んでいった。
ちょうど女子に連れられた教職員に見られた。なにかとつけて私のルックスを妬む一軍系女子に。久々に仕掛けられて停学に。
どんなに妬んでも私の顔は手に入らんぞ。
まあ、あいつらの本意はそこじゃない、邪魔者をいかに排除するか。
「……楽しいよ。けど、今はちょっと就活頑張らないと」
一応、学部を卒業するまでのお金はある。でも、その先は不透明。食い扶持は確保したい。
「……そう。元気そうで……良かった」
おばあちゃんは少し微笑んだ。シワが穏やかに伸びる。
「最近、外が騒がしいの。迷惑かける人がいるみたいで」
一理ある。都市部の大規模テロやら金融ショックやら。
「……琴音は駄目だよ?」
「わかってる」
「……あなたはお父さん似だから心配……」
「……わかってるって」
おばあちゃんは、よく自身のお父さん、つまり曽祖父に私は似てると言う。実際に会ったことないし、曽祖父の写真とか見たことないけど、話でよく聞く。
「……あなたを宇宙人なら任せていいかもね」
「宇宙人?」
突拍子のないことを言う。
「正直で皮肉を言ってちょっと頼りない……でも、約束を果たす……宇宙人はいるかもしれないじゃない。……その人たちなら……安心」
私のおばあちゃんはたまに冗談を言う。それでもこれは冗談と言うより気休め。実際にそもそも宇宙人すらいるか怪しい。
「宇宙人……いるといいね」
ここはおばあちゃんに話を合わせる。真実だろうが、嘘だろうが。
「ええ、いるとも。ほら、あそこにいるじゃない」
「……?」
おばあちゃんは窓に指を差した。
窓を覗くと歪んだ空に、青い巨大な割れ目が広がっていた。ガラスが割れる寸前のように破片が地上にこぼれ落ちている。
割れ目は広がり続け、中心が隆起。すると、巨大で黒いロケット……? というか宇宙戦艦のようなものが飛び出し、割れ目は収縮し始めた。
「……は?」
咄嗟にスマホを手に取る。が、砂嵐のように画面は崩れ、圏外になっている。都心の真中だと言うのに。
「先生! ネットワークが繋がりません!」
「……なにこれ、スマホも駄目……!」
すると、施設内も慌ただしくなってきた。
世界各地から現れた宇宙戦艦は東京上空に集結。
艦隊は隕石に向かって舵をきり、自慢の砲門で巨大隕石を破砕。
その青白く輝く砲弾のような光線は、隕石の中心をぶち抜き、爆炎と共に隕石は粉砕。五つの欠片へと砕き、死刑を撤回。
英雄たちが厄災を討伐し、衛星軌道上に停泊二隻の一回り大きい船を取り囲むように十四の船がいた。
今、その黒船が日本に降り立った。




