29話 序盤に戦うラスボスは序盤の主人公でも戦える性能(1)
「ヒンベル総統、司法決闘だ! 罪状はもちろん、冒険者個人の保護を大義名分に冒険者を貶めていることをここに告発する」
「ほう……」
冒険者ギルドには緊張が走った。冒険者に限らず、陛下やマドレーヌ夫人も目を丸くしている。安城の顔から巨悪を前にしたような敵意を顕にした感情が読み取れる。
司法決闘、本当におとぎ話でくらいしか聞いたことない。
「勇者ショウタが天の使い、ヒンベルに決闘だと……!?」
「流石勇者だ! やっちまえ!」
「天に反旗を翻すとは恐れ入った……!」
周りの冒険者は安城の決闘に乗り気だ。到底収められるものではない。
「安城! 流石にやめなよ、相手になんない」
「ショウタ様……」
私は無謀のあまり失笑よりも心配が勝った。
「いや俺は引き下がらない……! 一晩考えてシールドの脆弱性もわかった」
シールドの脆弱性……? 検討もつかない。私が知るにシールドは地球の核ミサイルさえも霞む唯一無二の盾だと思っている。たった個人がシールドを破るなんざ戯言だ。
「いいのかい……? 君の敗北は冒険者の敗北と同義だ。まだ引ける」
ヒンベルの口調、言葉使いが変わった。いつもと違う、これは総統の貫禄がある。ヒンベルの冷徹な目線が安城を串刺しにするが、全くビクともしない。
「ショウタ様、どうかお考え直しを……!」
陛下もショウタの決闘に反対している。これは未だ子供気分の安城に対して、大人として正しい判断。
「二度も言わすな! 俺はお前に勝つ!!」
安城の戯言にヒンベルは、クツクツと笑い、地面にあるグローブを拾い上げた。
「いいだろう……、久々の戦いだよ……」
ヒンベルは不敵な笑みを浮かべた。
フィゼナの街の外れ、開けた空き地に冒険者と陛下、夫人一行は場所を移した。冒険者たちは自前の武器で線を引き、闘技場を作る。
そして御前試合と言わんばかりに陛下と夫人が無理やり審判と行司をやらされる。そして両者は東西で分かれ、支援者と共に待機している。
ヒンベルは私と軍人二名。安城はパーティの子たちと親密な人たち。残りは闘技場を囲うように散らばっている。
「ヒンベル、本気でやるの……?」
私はヒンベルに耳打ちした。
「本気でやって何が悪い?」
機嫌が悪いのかいつもの感じじゃない。
「何使うつもり?」
「もちろん腹にサブマぶち込む」
サブマシンガンをインベントリから取り出した。銃ってそこそこ重いが、片手持ち。思ったより脳筋かつすぐにぶち殺すっていう気概を感じる。
「さすがにやめなよ、勇者殺したらベセトアの名が傷つくよ……?」
「それもそうか……まあいい、刀で滅する」
ヒンベル刀使えるんだ……。刀ってロマンあるけど、実戦で使うのはかなり難しいイメージ。刀身がまっすぐ斬り込まないと綺麗に斬れない。そうでなければ刀身が曲がったり、折れたりしてしまう。
「シールド付けるの?」
「当たり前だよ」
当然かのように食い気味で言ってくる。
「ハンデつけなよ、大人気ない」
「相手はもう成人してるぞ」
「あんたの行為が幼稚なの、事実バレたら後ろ指さされるよ?」
事実というのは相手は生身で戦っているのに、自分はシールドを付け、一方的に試合を行うこと。無敵のシールドを食い破る術は、いくら脆弱性を付ける安城でもないと思う。
「……わかったよ」
ヒンベルは渋々ハンデを付けることを認めた。顔はだいぶ嫌そう。
「……両者、入場!!」
マドレーヌ夫人の声が響いた。夫人はすごく困惑した様子。
ヒンベルと安城は一緒に入場、闘技場の中央まで歩みを進める。
「……実に二十三年ぶりの抜刀になるか……」
ヒンベルは自信に溢れ、余裕を持った表情で安城を睨む。
「……絶対に勝つ」
安城も緊迫感を持った表情で詰め寄る。
「ひがしぃー、総統ヒンベル!!」
ヒンベルたちは中央の線で止まり、互いに見つめ合う。
「にしぃー、勇者ショウタ!!」
安城も負けじとヒンベルを睨む。
「ルールは気絶及び十秒以上床に身体をつけた場合、場外に出た場合失格とする。ギブアップも認められます」
夫人はルール説明を終えると闘技場の端へと下がる……その前にヒンベルが手を挙げた。
「……なんでしょう?」
「安城、お前が私のシールドを0.01%……いや、0.0001%削ったら、私はその場でギブアップする」
「……は? いいのか……?」
「やれるならやってみろ」
ヒンベルは余裕を醸し出している。数値的にはシールドの残量に対して極微量。しかし、そのそのわずかな割合でも桁外れな耐久値を有している。
両者腰の刀、剣に手を構える。
「それでは……始めぇ!!」
夫人は手を挙げ、幕があがった。同時に安城が先制。
安城はすぐに飛びつき、ヒンベルに強烈な一撃が刺さった。




