25話 就職?なにそれおいしいの?
私は安城くんの取り巻きにガンつけられながら安城くんと一緒に彼の家に行った。
フィゼナの城壁近くに他とは違う屋敷に入った。
「ただいまー」
「ここ貴族の屋敷だよ?」
屋敷の表札には「マドレーヌ家所有フィゼナ別荘宅」とあった。
表札にある通りあの婦人の別荘らしい。
「ああ、婦人が俺たちに貸してくれた邸宅だよ」
「……じゃああんたの家ってこと?」
「そうだよ」
安城くんはそのままリビングに行く。私もついていく。
安城くんがドアを開けると、私と同い年の女性と少し年下の女の子が二人いた。
同い年の子はテーブルの上で杖かなにか棒状のものをいじっている。年下の子はソファの上で背支持倒立みたいなことをしている。
「ショウタ! おかえり――って誰? その子!」
一人……? の犬の耳が生えた子は私に興味津々のようだ。耳をぴょこぴょことしてお尻から生えてるしっぽを振っている。
これが俗に言う獣人と言う種族なのだろうか。このリバタールにいるとは聞いていたが、初めて見た。
「ショウタ様。お帰りなさいませ。この方は一体……?」
礼儀正しい同い年の子は耳が尖っててシルクのような質感の足や腕以外にお腹、肩や胸が露わになっている。ちょっと際どい。
恐らくはエルフと言う種族なのだろう。ちなみに人間でも耳が尖ってる人もいるらしいから見た目ではわからない。
「始めまして。私はベセトア外交官の豊川琴音。総統の勅命で勇者である安城祥太を監視しに来ました」
一応かしこまって彼女らに挨拶した。
「トヨカワコトネ……!? 出たな……!」
おっと、急に風向きが悪くなった。
私の名前をカタコトで復唱し、突如彼女らは臨戦態勢になった。
二人は安城に身体を密着させて距離を取る。
私何かしたっけ、したと言うならフィゼナ近くの崖に追突したくらいだけど。あと盗賊爆殺。
「ショウタ様から聞いているぞ。『孤高の将軍コトネ』……!」
待って、まじで知らん二つ名が私についてる。私が「徘徊伝説」って二つ名が大学でついてたのは知ってるけど、「孤高の将軍」って二つ名が高校でついてたのは知らん。
「お前の悪名を知ってるぞ。数々の名だたるパーティを知恵と拳を使ってたった一人で壊滅させたシャカイフテキゴウシャ……!」
ここに来て社会不適合者って単語を聞くとは思いもしなかった。
多分彼女が言ってるのは、私が一軍女子グループから嫌がらせを受けてやり返したことだろう。
小学校の時は純粋な暴力で黙らせて、中高はあることないこと周囲にばら撒いて肉弾戦になったら暴力でねじ伏せた。
あの時は、私は特別力には恵まれたから数人の女子程度ならなんとかなった。
それでも安城くんが彼女たちに言ったことは十中八九脚色、誇張されてる。
「待って待って、アリス、ポール」
安城くんは彼女たちと私の間に割って入った。
「この人は一応外国の使節の人、傷つけちゃダメ」
「そうか……すまない」
「使節って何? ここに派遣された人?」
「そうだポール、大体合ってる」
安城くんは犬を躾けるようになだめる。ボディータッチ多め。
これあれだ。ハーレム。見損なったぞ安城くん。
別にこの邸宅に派遣された人ではないんだよなぁ。厳密に言うとこの安城くんの監視。
「案内するから来てくれ」
監視が目的だから自動的に泊まり込みとなった。一応前に誰かが使ってた部屋を貸してくれるらしい。最低限、ベットなり机なり家具が揃っている。
「で、なんであんたはここにいるの?」
「なあ、化粧品アリスたちから借りた方がいいか?」
「あ、じゃあ化粧水と乳液をお願い」
私はシンプルに入浴後化粧水と乳液をする派。あんまりベタベタつけない。
「わかった、じゃあ」
安城くんはそう言って私の部屋から退出しようとした。
「――って話逸らすな!」
「……バレたか」
「なんで、あんたは、この、リバタールに、いるの?」
私は安城くん、もう安城でいいや。安城の退路を塞いだ。
「……リバタールって何?」
「この現実の名前」
「現実って何?」
「だから、この異世界の名前、ベセトアがそう呼んでるの」
異世界はベセトア曰く、ごまんとあるためそれぞれに名前がついている。そういえばベセトアって他の世界を「異世界」と言わず「外現実」と呼ぶ。なんでなんだろう。
「……じゃあ逆に聞くぞ、なんで豊川がこの異世界にいるんだ?」
「私は就職してリバタールの外交官に配属されたの」
「……就職……?」
安城は就職についてポカンとした様子で聞き返す。
「私と同い年の現役ならもう新卒で働いてるよ」
「……」
ピンと来てない様子。
「……え!? もうそんな経ったのか!!?」
「……」
こいつ死んだせいで脳が機能してない。いや、脳を再起動した状態でこのスペックなら及第点。ともかく、こいつの頭には日本での生活ってのは抜け落ちてるらしい。
「ベセトアが異世界を渡り歩けるってことくらい知ってるよね? それで私もこっちに渡ってきたの」
安城がわかりやすいよう外現実を異世界に変えて話を合わせる。
「……俺をどうする気なんだ?」
「知らない、ヒンベルがどうかすんじゃないの?」
「帰らんぞ、ここは俺の楽園なんだ。あいつらに出ていくよう言ってくれないか?」
安城は必死に懇願してくる。
「多分無理、あいつら引かないつもりだよ。ここに一生根を張り巡らすみたいだし」
「なら力ずくで……!」
「勝算はあるの?」
勝算がないにもかかわらず、そんな妄言言ってるならもはや軽蔑する。
「もちろんだ、俺はこの世界で最強のステータスをそれぞれトレースする能力を持ってる」
「は?」
斜め上からの妄言が飛んできた。斜め上には対策してなかったから一撃で思考が止まった。
「これがあればあいつらとも渡り合えるはずだ! ここの奴らは神とか崇めるが、所詮人間なんだろ!?」
「……じゃあ、私に全力で剣ぶつけてみて」
「それってどういう……!?」
「いいから、一番強いので」




