24話 裏切り者にはレクイエムを、転生者には不法入国罪を
この一瞬でフラッシュバックした。高校の時、高二の時だ。当たり前のように授業を受けている。
数学の時間、先生が誰かを当てようとしている。
「――このcosθ二乗分の1の積分を――安城、答えてくれ」
一応答えはtanθ、基本だから誰でもわかる。でも回答は違った。
安城くんはハッとした。寝起きの顔。
「えと、コスタリカ……!」
「……んーと、tanθだ。ちゃんと聞いとけ」
先生は少し迷惑そうな感じで応える。
安城くんはみんなからくすくすと失笑された。私なら死ねる。
エピソードはこれだけじゃない。放課後、図書室で友達と本を探していた時だった。
「「おーい、三年一組の――さーん」」
名前は忘れてしまったからよく思い出せない。そもそも学年が違うから知らない。私たちはグラウンド側の窓を見て見ると、デカデカと文字が書いてある。
「――さーん、好きだー!!」
その文字は線を引くラインパウダーで「好き」と書かれている。
他の人たちも興味があるのか見始め、あらゆるところから視線を安城くんに浴びせ、少し苦笑している。そういう私も苦笑い。
少しするとその人と思わしき人の声が校舎から聞こえてきた。
「「付き合ってる人がいまーす!!」」
学校中が笑いに包まれた。私も友達も笑っている。安城くんを遠くで見ている安城くんの友達も腹を抱えている。
彼らは一軍系。安城くんはよくクラスの陰キャ系とつるんでいた気がする。
そう、安城くんは痛い奴。それでもなお本人はケロッとしていて鋼の心臓を持っている。ある意味ムードメイカー。
でもそんなムードメイカーを失う日がやってきた。
高二の夏、部活が終わって帰る途中、交通事故に遭って病院に運ばれたけど死亡。
私はあまり親しくなかったから葬式には行かなかったけど、安城くんの友人は行った模様。
そんな景色が過った。
「……安城……くん……?」
私は奇妙なものを見て、知らずのうちに目が震えていた。
安城祥太、私の中学と高校が同じだった男の子。でも、彼は高二の時交通事故で……。
ホームルームの時安城くんの訃報を知り、彼の机に花瓶が置かれていた風景が頭によぎった。
「……高校の時の……豊川さん……?」
彼が私の名前を言うまで別人の可能性も捨てきれなかったが、どうやら本人のようだ。
「……安城くん、死んだはずじゃ……?」
不意に出た第一声はそれだった。
「……その台詞、殺したはずの敵以外に使うんだ……」
外野のヒンベルがうるさい。
てか、突っ込んでる暇ない。私の目の前に沢山の冒険者たちの先頭に立っている人物こそ、あの時死んだ人間。
そして冒険者のような服装をしてるものの、高校の時、死んだはずのクラスメイト、ややあの時よりも大人びた顔をした私を知っている安城祥太。身長は変わらず百七十三cmほど。
「どうして、こんな所に……?」
「いや……俺に言われても……」
安城くんもあまりわかってなさそうに答えた。
「た、確かあんたは六年前トラックにはねられたはずじゃ……!?」
「豊川、そこは『あの時、この手で確かに殺したはずじゃ……!?』だよ、台本にある」
「あんたは黙っとれい」
「……俺は転生してここに来たっぽいんだ」
転生。あくまで創作や都市伝説上で語られ、主に前世の記憶を持って前世とは別の身体で生まれてくることを指す。安城くんは年を取ってる以外寸分違わず同じ顔、同じ身長だった。
私が知ってる限り、創作ではそういう身体と心、完全転生する人物はあんまり見たことがない気がする。
「それで、豊川とそこの男は何しにここに来たんだ?」
私は言っていいかヒンベルを見たがヒンベルは頷いた。
「コホン、私はベセトアのリバタール担当の外交官豊川琴音。こっちはベセトアの総統ヒンベル、組織のトップ」
私はいつの間にか正座に体勢を変えていたヒンベルに手を指した。
一気に安城くんの後ろにいる冒険者たちの顔は豹変し怪訝な顔を浮かべた。やっぱりやめたほうがよかったかも。
「あの、豊川、立場的に私を紹介するのが先だよ」
ヒンベルは特に気にしてないような顔。小さく手招きのようなことをして、一応社会人(?)として常識を教えてくれた。
「……続けると私たちはこの世界の勇者とお話がしたいため、勇者と大使館に来てもらうことにしました。勇者に触れようとしたのはこの手で触れれば、触れた対象を指定場合にワープさせることができるためです」
冒険者たちは互いの顔を見て何か言っている。だがイヤーピースは声を拾えてないっぽい。
一段落すると安城くんが口を開いた。
「えっと、俺が勇者なんだけど……?」
「……」
私はヒンベルを見ると、そっぽを向いた。だって陛下が言ってのは、絶対に目の前の安城くんのこと。
「まぁ、人は見かけによらないってことだ」
「どの口が言ってんだ」
「……俺に何か用か?」
「ああ、安城と言ったか。君、公序良俗違反、公然わいせつ罪及び不法入国罪の容疑で大使館に来てもらうよ」
ヒンベルは立ち上がって前に出ながら言った。
「は!? 公序良俗はまだしも不法入国罪ってなんだよ!」
公序良俗は認めるんだ。
「君、日本在住でベセトアの検問通らずに、このコントーレにいるでしょ。だからだよ」
「……嫌だぞ。女性に対するわいせつ行為は思い当たるけど、一応個人間で解決してる。そもそも不法入国なんて知らないし、俺はここの世界が気に入ってる…俺を地球に連れ戻す気なのか……?」
ヒンベルの雰囲気が少し変わった。いつもの感じじゃない。少し緊迫感を持った気配。
「嫌とかそういう問題じゃない。個人間の問題が解決してようが、お前がわいせつ行為が私らのような日本人に泥を塗っている。それにお前にはここにいる説明責任がある」
ヒンベルは冷やかな目で安城くんを見つめる。
「それこそ外交問題にしたっていい。お前が何考えてるか知らんが、勇者になったからチャラなんてことはならんぞ?」
言い切る前にヒンベルは安城くんに触れようとした。
しかし触れられることもなく、安城くんは咄嗟に横に回避。ヒンベルは冒険者たち目の前に出た。
「そんなに嫌か……」
「……おい総統さんよぉ……なんで俺たちの勇者様に何かしようとしてるんだ……?」
ヒンベルの目の前にいたヒンベルよりガタイが良く背の高い男が言った。続けて冒険者たちの中から若い男性が身を乗り出す。
「……そうだそもそもお前たちベセトアは俺たち冒険者を目の敵にしてないか? 冒険者解体といい、勇者拉致といい!」
更に雪崩のように他の冒険者たちめヒンベルに言い始めた。
「その通りだ! なんなんだ!? 勝手に来ていきなり冒険者解体を議会に持ち込むしよぉ!」
「そうだ! そうだ! 何様だ!? 自分たちが神だとでも思ってるのか!?」
「そもそも冒険者をなくして何がしたいんだ!」
「そのせいで俺たちの仲間はどんどん盗賊になってんだ! バカヤロー!」
「俺たちの仕事を奪うな!」
どさくさに紛れて受付の人もヒンベルに抗議の罵声を浴びせた。
冒険者解体……そういえば話で聞いたことがあった。名目上は、この惑星はほとんど探索されたため供給過多の冒険者を是正するとか。
安城くんは意外だったのかきょとんとしたような顔で口を開けている。一方、ヒンベルは冒険者たちから言われる罵詈雑言を黙って聞いていると手を挙げ途端に静かになった。
「……冒険者解体は決定事項だ、変更しない。そして君んところの王様も承認したものであり、ベセトア中枢議会が決めたこと」
そう一言残すと振り返って耳打ち。
「流石にこれ以上ここにいるのは分が悪い。私は帰る。だが豊川、あいつを監視してろ」
ヒンベルは安城くんを一瞥。
「あいつは気になるし色々聞いとけ」
「え、あ……わかった」
このヒンベルの雰囲気はいつ以来だろうか、確か初めて会った時も大体こんな感じだった。機嫌と関係してんのかなぁ……。
まあ確かに二人で話したいこともあるし色々聞けそう。
そう言うと冒険者たちの横を通り過ぎギルドの入り口前まで行った。すると冒険者たちに向かって私を指差しながら言う。
「あいつに手出したら手が無くなるからな……? 気を付けなさい」
切り詰めたような空気が辺りに広がった。言い方は悪いけど、彼らに釘を打ってくれたのだろう。
ギルドを出ると、ワープで右手から青い毛糸の玉のような球体が膨張、ヒンベルを呑み込んで消えた。




