23話 記憶にございません(2)
一時間弱かけて森を抜け道なりを歩み、遂にフィゼナを取り囲む集落や農耕地帯に着いた。フィゼナはこの中心の城壁内にあるらしい。
この集落内外問わずなんでも、魔王討伐後周辺に跋扈する魔物が弱体化、減少した。それほど脅威ではなくなったのを境に家や耕作地が建設され、今でも周囲を見渡すと木造建築物は新しい。新築を建てようとしている人や田畑を耕している人もいる。
「なんか、忙しそうだね」
「そりゃね、だってこれ、コントーレ開拓政策の指示だからね」
こんな辺境でもプロジェクトは及んでいたようだ。
このプロジェクトは農地拡大、住宅の増設、都市部への人を集め労働力の集約、まるで、いや当に産業革命真っ只中だ。
ここも例に漏れず郊外で少数の農家が食料を作り、大多数の労働者を食わし工場などで働かせる、そのようなことが行われていた。
「産業革命ってこんな感じだったのかな」
「知らないけど産業革命を習ってやってるからね、自ずとそうなるよ」
「ふーん」
更に進むと城門に続く大通りからいくつも道が分岐する。建物も多くなり、比較的近代的なコンクリートできた建物もある。
そんなこんなで城門に着いた。
城門と言ってもかつて街への魔物の侵入を防ぐ壁でしかない。中央には申し訳程度の籠城するための石材で作られた古い砦みたいなのがある。
まあ日本で言う戦国時代とかの城だからたぶん、今は武器庫や備蓄庫とかそういうのだろう。
城壁も高さは五mほど、厚さは二mほどで城門以外のところは何度も襲撃に遭ってたせいか粗末な造り。ほぼ木造で土台だけ石造りだが、修繕しやすいよう大半は木造の壁が砦を囲っている。
なんか城壁の張り巡らせ形が縄文時代の集落。石材や木材で構成され、薄っぺらい。
なんなら内外にある建物の方が高くなってる気もする。
城門に近づくや否や、ヒンベルは城門の検問所みたいなところにいる軽装備な衛兵に話を聞く。
「すみません、この近くに冒険者が集うところってありますか?」
「ありますよ、あの古い砦の元に冒険者ギルドがあります。昔から冒険者にこの街は守られてきたのでね」
「ありがとうございます、では」
ヒンベルは衛兵に礼を言い、軽く手を振ると私を街へ誘う。
「行くよ」
「あ、うん」
城壁をくぐると道はタイルで舗装されており二、三階建の昔ながらのレンガ造りの建物が連ねている。辺境と言いながらも絵に描いたような欧州のような街並みをしている。
古い砦みたいなのに行くのには、何度も角を曲がりながら中央に向かう。敵が入ってくることを想定した作りなのかなと思う。
案外ヒンベルは迷うことなく、ほぼ最短と言っていいほどで冒険者が集うところ、冒険者ギルドに着いた。
「さて、着いたけどどうするか」
「てか勇者に会ってどうするの? 叱責するだけじゃなんか物足りないでしょ」
「ああ、大使館に連行するけど?」
「……いきなり連行していいの? 令状も何もないけど……」
「いや、法務部から令状発行してもらったから大丈夫」
そう言ってヒンベルはモバイルスクリーン、通称モバスクを広げ、映し出された勇者の令状を見せる。
モバスクとはゲームのカセットサイズの端末、四隅を広げて大きさを変幻自在に変更、画像を表示できる。
「こういうのって簡単に同行してもらえるものなのかな?」
「まあ今から光学迷彩で近寄って、スマグロで触れてワープさせるから問題ない」
ヒンベルは右手を開いたり閉じたりした。
ワープには種類があって、主に使うのが自身や周囲と一緒にワープする吸引ワープ。触れたものだけをワープさせる接触ワープ。
今回やるのは接触ワープ。
というか思ったよりパワープレイ。最初から同情の余地もないようだ。
「私が勇者にスマグロで触るから君は私が失敗した場合、勇者に触りなさい」
「わ、わかった」
失敗するリスクを下げるためにあらかじめ策を講じる。合理的な考え方だ。
「ところでさ、」
「何?」
「名前なんだっけ?」
「勇者の?」
「君の」
何回やるの、このやり取り。
私たちはギルドのやや重そうな木戸を少しだけ開け中を覗く。いくつもテーブルがあり部屋の奥のテーブルに人が集まっている。
その人たちの服装はいかにも探検家というか、戦闘や探索、どんとこいというようなワイルドな服装。肩パッドや鎧などを身に着けている。
その中でも一際目立つ装備をしている男がいた。全身手入れが行き渡った白銀の鎧に、至るところに金色の装飾が施され、模様がついている。
「たぶんあいつか?」
「あいつじゃない?」
私たちが目を向けている人は同じ全身鎧男。
「よし、じゃあ作戦開始」
そう言って私たちは光学迷彩を起動し服はもちろん、露出部分まで透過。コンタクト越しでヒンベルを視認できる。
物音を立てないよう静かに扉を開け入り込む。光学迷彩をしていても足音はするものだから、忍び足で鎧男に近づく。
近づくにつれ、人々の会話がわかる。
「どうすっかなぁ……」
「どんどん離反者が出てるぞ……」
「……あいつらお縄になんなきゃいいんだが」
ヒンベルは鎧男との距離が一mほどになって、右手を構え接触ワープを準備する。
右手のスマグロが淡い青色に光るのがスマレン越しに見える。私も接触ワープを準備してワープを大使館の指定場所に設定する。
【いくぞ】
と、ヒンベルから合図が出る。
ヒンベルが手を振りかざし鎧男に届く十cmのところで手が鎧男から反れた。何者かに体勢を崩されたからだ。
すかさず私はヒンベルがはけたところを縫うように鎧男に手を伸ばす。
しかし、私も同じ人に体勢を崩され、誰もいない壁の方へ柔道の技のように投げ出された。ヒンベルと共に。
ただ者じゃない。一瞬で二人の体勢を崩し投げて、そもそも見えていないというのに私たちを捉えた。
私たちは壁にぶつかると光学迷彩が解除され、実体を見せた。
「なにしてんだ! お前ら!」
若い男の声。声が聞こえた方へ視点を向けると、私と変わらないくらいの年の青年がいた。多分この人が私たちを投げ飛ばしたのだろう。
ヒンベルはすぐさま体勢を立て直し起き上がる。
「……バレたか」
私も起き上がり、青年の顔をしっかり見ると、どこかで見たことある顔をしていた。
私と同じ東アジア系で少し色褪せた黒髪、やや茶色い目、どっちかって言うと黒目。あまりぱっとしないがそれなりにしっかりした顔。




