22話 記憶にございません(1)
ヒンベルが私をマッハ五の戦闘機から落として爆撃したもんだから森奥の崖に激突する羽目になった。そのため森から抜けることになった。
「……くっそ、弁護士に訴えてやる……!」
「多分第一声は『何で生きてるんですか?』って言われるよ?」
「おかげで生きた心地しないよ」
「……さっきから生まれたての小鹿みたいになってるよ」
私はさっきからずっと足を震わせて千鳥足のようになってる。
「誰のせいだと……!」
ヒンベルはくすくすと笑った。
誰だってほぼ生身でマッハ五を体験して壁に激突しようものならこんなんになるわ。
「こんなんじゃ夜になるよー」
「じゃあ肩くらい貸してよ……!」
身体が震えすぎて声まで震えてる。
「えーやだな……」
「あのねぇ……」
ヒンベルは女性に触られることを嫌がる。それが何処となく感じられる。
「てか、バイクでもなんでもいいから出してよ」
「免許ないね」
なんで航空機とか航宙機の免許あるのに陸上機械の免許ないんだよ。
「……だったら自転車でも」
「怖いからやだ」
「子供みたいなこと言い上がって……!」
「二人乗りはだめだよ、習わなかった?」
「……っ!」
すごい殴りたい。ブチギレ三秒前。でもこれでも勤務先のトップだからなんとか気持ちを落ち着かせる。
「そうだ、腰に縄くくりつけて引きずることならできるよ」
「荷物じゃねぇんだぞ」
そんな会話を続けていると、歩いている先から木々がぶつかるような物音がした。
何かいる。動物か何か。あの爆音を聞きつけたのだろうか。
茂みから姿を現すと、見るからにワイルドな男が四人出てきた。
「なんだ……すごい音がしたもんだから張り詰めて損した、弱々しい男に女だけ」
「しかも何も持ってないし、身なりがいい」
「ここ来たのが悪かったな、俺たち金がねぇんだ」
「金目の物を渡してくれりゃ見逃すが、どうする?」
やばい、盗賊だ。ナイフも持っている。やはり最近盗賊が増えてるってのは本当らしい。
でも、シールドあるから一応大丈夫だけど、私は逃げ切れない。このままフィゼナまで付きまとわれる可能性がある。
その衝撃あってか震えは止まる。するとヒンベルが囁く。
「おい、『戦闘力たったの5か……ゴミめ』って言うチャンスだぞ」
そう言ってヒンベルは私に耳打ちした。そのネタこすんな。
「そんなん言ってる場合じゃないでしょ、どうすんの」
「悪いけど金目の物はないよ、ほら」
ヒンベルは数回ジャンプすると金属同士が当たる音はせず、布同士が擦れ合う音しかしなかった。
「行こ」
ヒンベルは手招きして盗賊を避け、歩こうとすると逃げ道を塞がれる。
「お前たちが紙の金持ってることくらい知ってるぞ!」
「ここじゃ使えんが外国では価値があるんだろ?」
よく知ってる。現金紙幣は絶対に常備されてるからそれはカツアゲされる。
ヒンベルはため息をついた。
「……原住民銃撃事件起こしたくないんだけど」
まあ大事にはしたくないのはわかる。
「君、いけ、主君を守りなさい」
「はぁ!? ざけんな、人使い上がって」
「えー、私はとにかく手を汚したくないんだよ。常に汚すことなく被害者面して物事を動かしたい。だからいけ」
「ゴミめ」
私はゴミを見るような目でヒンベルを見つめた。
「……何? 金が欲しいの? だったら新しく港が建設されるからそこで働く?」
「俺たちゃ今、金を手に入れたいんだ」
「お前らこいつら剥ぎ取るぞ!」
「ギャァァァ!!」
チンピラはヒンベルに覆いかぶさるように飛びかかって持っていたナイフや拳を振るった。
ナイフの刃はヒンベルの首筋に触れる。
シールドがあったがためにことなきを得たが、シールドにはダメージが入る。
「へっ、口ほどにもない」
「あ? やったな?」
すると目の色を変えてヒンベルは、素早い手つきで懐から拳銃を取り出した。
ヒンベルは全員の胸に発砲し、全弾命中。
さっきの悲鳴が嘘のように、何事もなかったようなスンとした表情をしていた。
拳銃の銃口からは白い煙が上がる。
盗賊は何一言言わず、血を流して倒れていた。
盗賊はヒンベルを中心に転がっており、次第に目の光が消えていく。
ヒンベルは右手を死体にかざすと、ワープ用の青い光の束が手のひらで球体を形成。膨張して死体を包み込む。
収縮すると血痕もなく、何事もなかったかのように現場は静寂を保っていた。
「……何もなかった。いいね?」
相変わらず目の合わない視線が私に向けられる。
目が合わないのはプレッシャー感じなくていいけど、ヒンベルの言葉づかい的に逆に裏がありそうで怖い。
「…えぇ……」
「何もなかった、いいね?」
次は初めて見た微笑むような表情でこちら見てくる。
「あっ…はい……」




