21話 まさか水切りの石になるとは思わなかった
「留学生としてベレウゼに来て、二年大学院で学んで戻る予定だったけど、卒業前に災厄が来て帰れなかったんだよ。その後、先生の指折りでファータロスに入って無限に思えるくらい働いてた。それで、なんか、プライマルが『手ぇ組まね?』みたいなこと言ってきたから協定者になって三千年前のこの時間軸に来た」
「あんたって何歳なの……?」
「ん~、三千……? いや三千いってないか……?」
約三千歳。おそらく単純計算でをするとこうだ。ヒンベルはだいたいこの時間軸のちょっと前にベレウゼに行った。それで私の現実で2019年の時間軸で災厄に遭った。そこからファータロスの職員として新天地に行き、三千年働いた。その時にプライマルから協力を打診されて、訳あって災厄直後の時間軸に来た。
そして今に至るということらしい。
「でも、なんで三千年も生きてるの?」
「あ〜、実は前までみんな不老不死の状態でね。ここや地球に来る時、色々と不都合だったから解除したんだよ。今は君と同じ人間」
にわかには信じがたい。実際、脳の寿命は人間の命の寿命より、はるかに延命できると言われている。だが、どれだけ医療技術が進歩しても、完全な不老不死が実現するのだろうか。
現在、彼らが不老不死ではないってことは、不老不死になるための欠かせないアプローチがあったが、それを止めたという感じか。真相はわからない。
「年と言えば、スマホ買おうと思ったけど、契約書に実年齢換算して書いたら紀元前になっちゃうし、生まれた西暦そのまま書いたら未成年になっちゃって辞めたんだよね」
中々聞かない悩みというか、人外にしかわからない悩みだ。
「一応今原暦、ベレウゼの暦で20026年。生まれたのが20001年だから二十五ってやってもいいんだけど、すっごい年齢詐称になるんだよね」
「もう二十五でいいんじゃない? だから1995年生まれ?」
「多分? わかんない」
話を聞くに、原暦を基準にすれば、ヒンベルは私より多分三つ年上。
「あ、話してるうちに多分もうすぐだよ」
下を見ると、まだだだっ広い森林や大地が広がっている。
まあ今マッハ五だから音速の五倍でもうすぐ。つまり私たちの視界ではまだ見えないと言うことだ。
マップを見ると約百kmでフィゼナがあるらしい。
「そういえばさ、これどうやって降りるの? こんな悪路に着陸?」
率直に言って、あんな柔らかそうな青い地面や森林に着陸するのは無理がある。
「ああ……そうだね。どうやって降りるんだ?」
ええ……。ノープランだったのかよ。移動するまではよかったけど、移動手段の降り方までちゃんと考えてくれ。
今多分減速してるのか、視界のスクロールは若干遅くなっている気がする。
「ん~、一つは君がこっから落下して私がワープ合流する。もう一つは地面スレスレまで急降下して、飛行中のまま君を降ろして後で合流する。どうする?」
どっちもだいたい同じ。縦に叩きつけられるか、横に叩きつけられるか。
「どっちもやだ。なんで私が身体はんなきゃなんないんだよ」
「いやこれ、風雷戻さないと空軍に怒られる」
風雷、多分この戦闘機の名前のようだ。雷電や烈風みたいな日本風の名前。風雷を戻すのは、戦闘機のパイロットであるヒンベルにしかできない。
「落ちるのはもうこりごりだぞ」
「わかった。じゃあ後者だな」
「おいそんなこと言っ――」
風雷は地面と垂直に急降下し始めた。
「あああああ!!」
ジェットコースターに乗ったような浮遊感が全身を襲う。頭に血が昇る寸前。多分普通はGで死んでいる。
地面が目の前に見えた途端、風雷は水平に機体を上げた。
絶対縦Gが人間の耐えれるものではないと体感でわかる。
「行け! 行くんだ!」
「無理だって! マッハ一じゃん!」
画面に表示される私にかかっている速度は、マッハ一前後。
すると、ヒンベルはコックピットを上げて機体を反転させた。普通は空気抵抗で吹っ飛んでる。
「You can fly」
「飛べねぇよおぉ!!」
私の身体を締め付けていたシートベルトが外れて、機体から投げ出された。
すぐに地面に衝突。
止まることなく、私は水切りの要領で、地面に衝突を繰り返しながら森林へ入っていった。
木々の枝が速度を殺そうとしてくれるが、焼け石に水。意味がない。
私は約マッハ一で切り立った崖に衝突。身体は崖にのめり込んだ。
多分生きてはいる。生きてはいるのだ。でも生きた心地はしない。てか、いい加減死なせてくれ。こんな目に遭うために外現実に来たんじゃない。
「あ、いたいた」
ヒンベルが風雷をしまったのか私の近くにワープしてきた。
「何やってんの?」
「見りゃわかんだろ」
「てかこの構図……どこかで……」
ヒンベルは私が崖に身体をめり込ませてる構図に何か見覚えがあるようだ。
「あ、思い出した。『もう終わりか……?』」
そう言って右手を私の頭に当てた。
「ふざけてないで助けて」




