18話 同業者って引かれ合うのかな
「何?ヒンベル?」
メッセージを送り返した。
「ここからうずくまってるの見えるから大丈夫かなーって」
「疲れた色々と」
「戦略的撤退か」
よくわかったじゃないか。
「てかあんたどこにいるの見当たんないんだけど」
私が大広間の真ん中方向を向いてもそれらしき人物はいない。
「四隅見てみ」
?
大広間の隅を遠目から見た。
一番近い角には誰もいない。
二番目に近い角を見ると誰かが隅で座ってる。
スマレンでズームするとヒンベルだ。
「何してんだよ」
「そりゃ戦略的撤退だよ」
部屋の隅から隅まで部屋を隔てて向き合う。
「なんか、『自分をゴミ箱に入れて』って言われたからゴミ箱に投げ捨てやったらバカ怒られた」
あっやべ。
そういえば私が飲食している間なんか大広間の遠いところで騒ぎがあったけど、そういうことだったか。
「ボイスレコーダーあるから言われた通りにやったってのは証明できたけど同僚にどっか行けって言われた」
私より酷い。私は自らこの隅に来たのに、あいつは隅に追いやられた。
「私のこと咎めないの?」
私だって自覚はしてる。はたから見たら隅にいる異常者だってことくらい。でもやめようにもやめれない。
「いや?」
そこは組織のトップとして然るべき対応して欲しかったけどな。
「私だって昔はそうだったし」
「慰めのつもり?」
同情のつもりだったら聞きたくない。女は同情する生き物って言われるけど、私は好きじゃない。
「同じことやってから何も言えんし大体どういう気持ちか察してる」
……。
「やりたいようにやっていいけどそれで精神を維持できるんだったらそうしてた方がいい、世の中は社不にとって辛い」
ヒンベルはあくまで「怖いねよちよち」ではなく、今後の方針を助言してくれた。
「あんたどうやって治したの?」
「先生の荒療治」
「先生?」
「大学院時代の教授でファータロスでもお世話になった私の師匠」
そんな人がいたのか、ベセトアにいるか知らないけど。
「無理やり宴会に行かされたしプレゼンでとんでもないアドリブやらされたよ」
「それは…お気の毒に」
今だったらなかなかのブラック教師。その治療をもって常人に矯正したのだろう。多分その治療に耐えるのにめっちゃ忍耐がいると思う。
「酒入れた状態なら喋れるからずっと酔ってろって言われた」
多分、私は絶対に耐えれない。
私たちが雑談していると、私に降り注ぐ光が消え、影に覆われた。ヒンベルあそこからここまで来たんか?
私が見上げるとヒンベルとは全く違う初老の老人が立っていた。
「大丈夫ですか?」
わずかに頭に輝く金色の王冠が私を照らした。もしかしてコントーレの王様?
「大丈夫です……」
まあ心配されるのも無理はない。ヒンベルとメッセージやりとりしてる時、隅で座って下向いてたから。
「ベセトアのお方ですよね? お口に合いませんでしたか?」
「あー、ちょっと味が濃かったですね」
そう言って私は立つ。
「申し訳ございません、今後はお口に合うよう申し付けますので……!」
陛下は私の言葉に慌てふためく。
「いえいえ、お気になさらず」
目と目が合った。
シワの深い顔に貫禄があるが、ほのかに優しい雰囲気を感じる。
「おや……その目と髪色……勇者に似てますね」
「勇者……?」
「おーい、その人陛下だから無礼しないでね」
ヒンベルも陛下が私に寄ってきたのを見てこちらにやって来た。
陛下が先にヒンベルの方に行かなかったのは、多分ヒンベルが光学迷彩でステルスしてたからだ。とことん気配を消してた様子。
「ヒンベル閣下……あなた様もこの人と似てますね」
「?」
「勇者ってのは……?」
「知らぬのも無理はない、勇者ショウタこそこの世界から魔王を退けた稀代の人間。彼はこの世界では見慣れない顔や髪、目の特徴をしてまして、ちょうどあなた方も同じような特徴を持っているのです」
魔王、そんなやついたんだ。もう口ぶりからして死んでいるだろうけど。
「特徴というのは?」
ヒンベルが陛下に尋ねた。
「黒髪に黒目、顔はのっぺりとしていて少々日焼けしたような肌をしてました」
陛下が言う特徴は、おおむね東アジア系に当てはまる特徴だ。
「そうか……その人がここで功績をあげてるってのは同族として誇らしいですよ」
まあ悪い気はしない。
「ええ、まあただ……」
「?」
陛下の言葉はまだ続く様子。
「勇者様は少し……いやだいぶ浮ついた行動が多く……度々女性が被害に遭っておられるのですよ」
えぇ……。そんな奴いるんか。
「その人と同族ってのはちょっと……」
陛下は少し迷惑そうな顔をこちらに向けた。どうやらそいつのせいで私たちが風評被害にあっているようだ。
「なあ、ショウタだっけ? 日本人みたいな名前だな」
「……そうだね。認めたくないけど」
「もしかしてだが……」
「うん……」
認めたくないけど、どうやらその可能性がある。




