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17話 英才教育

「すみません! お怪我は……!?」


振り返ると好青年が立っていた。少々私より幼く見えるが、身長は私よりちょっと小さいくらい。


「いえ……お気になさらず」


そう言って私はそそくさとその場から離れる。どついた人間といるのは空気が悪くなる。


「待って待って! 君ベセトアの人だよね!? ねえ話しない!?」


めっちゃぐいぐい来る。気持ち悪い、大学の陽キャ系もこんな感じだったかな。俗に言えばナンパ。


こいつも多分親の傀儡にさせられてベセトアに寄り付こうとしているのだろう。


「空って綺麗だよね! 僕は好きだよ、神聖で神の使いっていうか、天使っていうか!」


要約、「君かわいいね」。ナンパの常套手段。


そういえばコントーレではベセトアは、空から来たとか言ってたか。地球と若干違えど大体は一緒。


「君名前なんて言うの!? 住所どこ!?」


平安時代でもこういうことあったんかな、男が女性宅に夜這いして三日くらい成功したら結婚とか。そういう類を感じる。


「あーバカデス ワタシだよ〜」(倒置法)


日本語で「バカデス ワタシ」を言った。もちろん相手には「私は馬鹿」って意味は伝わらない。


「バカデス ワタシ! どこ住み!?」


「う〜ん、オレヨウってところ」


「オレヨウ」も日本語で発音。


「オレヨウ住みなんだ! ワタシ!」


「バカデスでいいよ」


「バカデス……いい名前だ! 僕はジャン ティエール!」


キラキラとした目でこちらを見てくる。


「あ――、君の名前私の国だと言いにくいから訳してあげると『クズ ニオニアーイ』って言うんだよ」


「そうか、君が言いやすいなら僕をそう言っていいよ!」


「あと挨拶の言葉も教えてあげるよ、『ゴミバコニイレテ』ってのが『こんにちは』って意味」


「ゴミバコニイレテ……いい響きだ、この言葉で相手と仲良くなるんだね!」


「そうそう(適当)」


我ながらにして傑作。こいつが日本に解き放たれる時が楽しみだ。


こいつは貴族、しかも子供ときた。つまり地球かどっかのところに留学する可能性は高い。ちょうどコントーレ貴族子女に対する留学の企画も聞いている。


「ちょうどあそこに総統が居るから話しかけてごらん、あの人私と同郷だから通じるよ」


「わかりました……! 行ってきます!」


死んだな、あいつ。


あいつはきっと「ゴミバコニイレテ、僕はクズ ニオニアーイ。オレヨウ住みのバカデス ワタシと友達なんだ!」って言うんだろうな。


さて、そろそろ食事を楽しみたいところ。


食事はビュッフェ方式。


長テーブルに置かれているのは豚や牛などの家畜の丸焼きや煮込み料理、家畜に問わず鹿などのジビエが多く並べられている。そしてパイや煮込みスープなども連なっている。


割と豪華なホテルやレストランでありそうな光景。でも、一つだけ相違点を上げるとするなら、料理の匂いだ。


シールドは鼻に匂いを届けてかつ、空気を遮断できる。また、毒や神経ガスなど有害物質を除去してくれる優れもの。


しかし、強烈な香辛料の匂いは防いでくれないみたい。


余談だが、目から見える光もシールドが吟味してくれている。可視光はそのまま、有害な電磁波は吸収ないしは跳ね返してくれる。


この時代の香辛料は高価であり、それをふんだんに使用できるってのは権威の現れだ。


私あんまり辛いものは好きじゃないから菓子で我慢しようと思う。果物もあるけどちょっと食中毒が怖い。


クッキーを一つかじる。


あっっま。


気持ち悪いくらい甘い。この一口で食べる気力は挫かれた。


もういいや、ワインでも飲む。


そこそこ酒は強いから問題はないはず。


手始めに杯を回し、ちょびっと飲む。


なんか……ブドウジュース……? みたい。


次にゆっくりと飲み干し、吟味する。


お酒ではあるけど、なんか弱い。


そういえば中世ヨーロッパでの宴ってお酒は薄めて飲むらしい。長時間の宴会で泥酔を防ぐためとか。


どうやら懇親会というのは私が楽しめる場所じゃないようだ。


私は会場の隅にあるベンチに腰を下ろす。


「はぁ……」


なんか疲れた。ずっと昔に捨てた舞踏会の夢を拾い上げたのに、期待を裏切られた感じ。


会場の隅というのは教育がなってない下級貴族の子供が同程度の子供と遊んでる。


無邪気でいい、幼い子供ってのはこうあるべきだ。


すると一人がこちらに来た。


「おばさん大丈夫? こーねんき?」


ぶち殺すぞクソガキ。


「コケにしたなゴミ共」


百歩譲って彼らからして私はおばさんに見えても、更年期は許さんぞ。


私が立ち上がって威圧をかけると、子供たちは一目散に逃げ出した。私ってそんなに老け顔で怖いか?


大学だと「人格捨てて身体だけくれれば百点」って言われるくらいにはルックスはいい方。言うなれば確定シックハウス症候群になる一等地新築物件。


なんかこういうこと考えてると段々私の精神的防御陣形が崩れてく。


立て直そう。隅でうずくまって……あっ。


今ならヒンベルの気持ちわかるわ……。こういうことだったのか。


消耗したくないし、傷つきたくない。こうやって回復してたんだな……。


陰のものにとって行動力や勇気ってのはほとんどない。そのエネルギー源であるやる気が慢性的に枯渇している。一気に励起しようものなら採算が合わない。


あー、どうしようかこれから。懇親会はまだ続く、日が落ちるまでやるとか。昼からいるので大体七時間は催される予定。


「何やってるの?」


メッセージ来たヒンベルだ。

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