15話 頭にレイド仕込んどけ
「……君誰?」
「え……?」
ヒンベルが言った言葉は信じ難かった。
一応私は去年の七月と今年の四月に会って面識あるはずだけど、向こうは知らないらしい。考えうるは二つ、一つはこのヒンベルは偽物。もう一つは私が知らんうちに死に戻りした。
一番あり得そうなラインは偽物、最初会った時も大事な会談に代役を立てたって言ってたし、なくはない話。
死に戻りは多分ない。私の記憶上では日付は順当に進んだし、そもそも時系列に齟齬がある。ヒンベルが私を知らなければ、私はここにいない。
「知らない……? 本当に……?」
「……?」
全く覚えのない様子。首を傾げている。
「ちょっと君、この子誰か知ってる?」
ヒンベルは他の懇親会に参加する本部の人に尋ねた。
「知らないなぁ……誰が呼んだの?」
「マドレーヌ夫人ですけど……? ベルーケ大使に言ったはずです」
「ベルーケ? 誰だっけ……」
まさかの本部の人も大使のことを知らない様子。
「どこの大使だっけ?」
ヒンベルもベルーケという人名に覚えがない様子。
「ここだけど……」
「ボルドーじゃない? ベルトラン ボルドー」
本部の人は思い当たる節があったようだ。
「あっそうだ! ボルドーだ、聞いてみるか」
二人はベルーケの正体がわかった時、アハ体験をしたよに笑った。
「なあボルドー、この子誰?」
「総統、ここで本名言わないでくれるか?」
ベルーケ大使は心底嫌そうに答えた。
てか、こんな雑に本名割れたけどいいのか。源氏名にこだわってたらしいけど。
「ごめんって、源氏名覚えきれなくって……」
ヒンベルは悪びれた態度を示す。
「総統が連れてきた子だろ? 来る前に『外の人手欲しくない?』って提案してきたじゃないか」
「あー……」
ヒンベルはしばらく脳のロードを挟んだ。表情が固まっている。
「あ、あの子か! 荻窪にいたやつ!」
やっと思い出したらしい。どうやら私は忘れられていたようだ。
「で、名前なんだっけ?」
これには流石の私も呆れる。
「そこはせめてスマレンで確認しろよ」
「普段スマートレンズかけないんだよなぁ……」
「この子は豊川、豊川琴音」
ベルーケ大使がヒンベルに教えた。
「ああ……そんな人もいたね……」
そういいながら私を見つめる。
「こんな顔だったっけ……?」
「太ったって言いたいわけ?」
ヒンベルは私の顔にも心当たりがない様子。
というか、これでわかった。ヒンベルはこの一ヶ月で、私という個人のデータは、頭から吹っ飛んでたらしい。
顔という画像データは容量食って消したとしても、文字列である私の名前さえ覚えていない。
「すまんな豊川、総統は記憶力には自信がなくてだな、総統になる前、ベセトアの人間覚えるのに五十年はかかってた」
「……?? 五十……?」
ツッコミどころが満載だ。まずヒンベルは組織の人間を覚えるのに五十年「も」かかっていた。そして「総統になる前から五十年」つまりヒンベルの年齢は五十歳以上、二十歳で組織に入ったとしても七十代以上が確定した。
それこそベルーケ大使もそのエピソード知っているってことは大使も同じく……?
にしても、七十代にしてその美貌はすごい、これが話に聞くアンチエイジング……?
☆
「すっげぇ~。ここが懇親会会場か〜」
「爆破フラグやめてくれない?」
ヒンベルら本部の人たちとコントーレの懇親会に来て、彼が言った第一声はこれだ。
会場はコントーレ随一の宮殿で行われている。普段はコントーレの王族が住んでるとかで、基本、用がなければ出入りできない。
建物は大使館やマドレーヌ邸とは別格。汚れ一つない純白の石壁に金銀フレームの窓。正面玄関には白い石柱の上に石像が鎮座している。特に目を引くのは高貴を表す青い屋根、青い染料と言うは安々と手にはいらないのは知っている。
そして宮殿の前にはここでは珍しい全面タイル張り。ゲートから玄関まで四角い模様が連なっている。それらを金色の柵と門がが守っている。
本部の人が門番と話をつけて黄金の扉が開く。
「ねえヒンベル、こういうの全く行かないから知らないんだけど、どう振る舞えばいいの?」
「その前に」
スマレンに映し出される画面右下からチャットが流れた。
「こういうところでは私語は慎んだ方がいい」
ヒンベルからメッセージを貰った。
チャット欄に視点を合わせて私もメッセージを返す。
「わかった」
私はチャットをしながら宮殿内へと入る。タキシード姿の案内係が私たちを先導する。
宮殿の廊下は白を基調とし、床白と黒の市松模様、白の大理石の壁で構成されている。
「ここではベセトアは神みたいなもんだから変なことしなきゃ問題ないよ」
続けてメッセージが送られてくる。
「頭垂れまくって敷居下げるより受け身で威厳保て」
「それでいいの?」
それって社会人的にどうなのかってのが私の中にある。
「奴らにとって不可侵の空から現れたベセトアってのは神と同義」
ここでも空から現れたんか。やろうと思えば普通に地上から邂逅できるのに。
「変な諍い起こさないために絶対的な立場があった方がいい」
なんというか、やり慣れてる気がする。ヒンベルの言葉には経験則のようなものが感じ取れた。当事者が経験してなくとも、誰かがテンプレ化したようなやり口。
そうして広間に着いた。
案内係が両開き扉を開けると輝かしいものが私の視界を埋め尽くす。
視聴頂きありがとうございます
16話は7月25日の午後1時10分
17話は同日午後3時10分
18、19話はそれぞれ1時間後ろ倒しにする形で更新となります
面白そう、続きが気になる、と思って頂ければ
ぜひとも作品フォローをお願いします
最新話から評価できるので星をつけていただけると作品更新の励みとなります
よろしくお願いします




