14話 繰り返す時を刻む悲劇を
エマさんは金属の手すりを伝いながら階段を下る。下を覗くと整備室で大型コンピュータを操作している。
整備室は研究室よりも大がかりな機械が至る所にある。高圧気体タンクや溶接機など知ってるものもあれば、あまり見慣れない機材もある。
「ワープ承認、いつでもどうぞ」
エマさんがマイクで喋ると、整備室の中央にある四角い白線の内側から複数のオレンジ色の帯が現れた。
帯は枠内の一点から膨張し、あっという間に白線より大きくなる。帯には「DANGER」や複数言語で何か書かれている。恐らく意味合いとしては危険とかそういう類。
帯の膨張から数秒経つと、帯が現れた一点から青い球体が膨張。帯と同じくらい膨れ上がると、帯は消え、萎んだ。
何気なくワープ使ってたけど、ワープ地点で他者から見たらこうなってたのだろう。
青い球体が萎縮すると黒色のバンが現れた。ぴったり四角い白線の内側に収まっている。
すると中から四人、人が降りてきた。二人は女性でラフで軽やかな服装。もう二人は男性の軍人でしっかりとした服装。
「助かったよ〜二人共、二人でルミディ地方の動物調査しろって絶対おかしいよね?」
ニット帽を被ってセーターを腰に巻いてる女性は、デニムのジャケットに黒ズボンを履いてる女性に愚痴った。
「わかる、人手不足なのは承知だけど……本部は何考えてんのやら」
二人は本部にご不満な様子。
「ヴィーイン、この角どこに持ってけばいい?」
一人の軍人がニット帽の女性に尋ねる。
ヴィーイン、ニット帽の女性に視点を合わせると、名前が表示された。
「とりあえず私の研究室に置いといてくれない?」
「わかった、行くぞ」
軍人はもう一人と一緒にサンプルを運び始めた。
「あ、エマさん、ただいま」
「おかえり、調査どうだった?」
デニムジャケットの女性に視点を合わせると「ルル」と名前が表示された。
「文献通りだったかな、絶滅種は十分なデータないからまた行くと思う」
「そう、無理しないでね」
「ところで、この子は?」
ルルさんは私を見つめた。ルルさんは私と同じで女性の中で長身、目線は同じくらい。
「この子は豊川琴音、ここの外交官だよ」
私は会釈した。
「……どうも、初めまして」
「この子が噂の……」
「……?」
ルルさんは私を伝聞で知ってる様子。
「あいつ……なんの意図があって……」
ルルさんはブツブツ一人ごとを喋る。
「どうかしたんですか?」
「いや、何でもない。外交官ね、頑張って」
ルルさんは何か隠すように話を終わらせた。
「その子外交官なの?」
遅れて私に興味を示したのはヴィーインさん。こちらに近づいてきた。
「そーいえばあれだよね、マドレーヌ邸襲撃に巻き込まれたとか」
私、あの件でちょっと有名になっている様子。あんま目立ちたくないんだけどなぁ……。伝聞が知れ渡るということは悪評が広がりかねない。
「はい、まあなんとか」
「確か今代の当主は、結構くせ者らしいよ」
「えぇ……? くせ者?」
マドレーヌ夫人の第一印象は、くせ者とは真逆で恩を尽くす人だと思っていたが、違うのか。にわかには信じがたい。
「気をつけた方がいいよ」
ヴィーインさんは悪戯な笑みを浮かべて、バンへサンプルの搬出に向かった。
あの後ヴィーインさんたちは嵐のように襲来しては去っていった。
エマさんが言ったようにここにいるほとんどの人は、源氏名らしい。もはや本名はエマさんだけ。
そこまで隠したいことがあるのだろうか、現実の異なる血統やベレウゼ人は特別なのだろうか。
考えうるは、それはら本来あり得ない血筋だということ。でも、純血のベレウゼ人はどうなのか。
逆を考えればそうでない人たちは、彼らにとって本名は不都合なのか。真相は闇の中。
正直考えても仕方がないからちゃんと仕事に向き合う。
後日から本格的に外交官として仕事が始まった。
最初は本部から貰った中央政府や地方周辺貴族宛ての書類や手紙の中継。コントーレは郵便は普及しているが、安全性が担保されていない。
特に最近は盗賊が多くなって治安悪化の一途を辿っている。
もう一つは穀倉地帯の視察。ベセトアがコントーレに来てから農耕を中央政府と協定を結び、食糧の増大を行なっている。なんでもちょうど去年の収穫祭では例年より四倍の穀物の収穫を記録したとか。青々とした田園風景が広がっていた。
最後に他現実との会合の通訳。万能なスマグロとかこのイヤーピースを配ればいいんだけど、上層部は嫌がってるとかで、外交官が通訳を行なっている。私はマドレーヌ家と地球のアメリカの一企業の通訳を行った。
なんでもマドレーヌ家の領地に港を開き、そこの建設に企業が出資するとか。
とりあえずそんなこんなで一ヶ月はあっという間に過ぎた。年取ると過ぎる時間が早くなる。
一ヶ月も過ぎた訳だからマドレーヌ夫人が招待してくれた懇親会がもうすぐ開かれる。
平日だから普通に外交官としての業務はあったけど、前々から懇親会があると申告していたから業務の一環としてベルーケ大使から参加の許可を貰った。外交官はベルーケ大使以外は行かないらしい。ていうか呼ばれてない。
まあ、あの人たちが来たら何かやらかすのが目に見えるから、賢明な判断である。
そして懇親会に参加する上層部の人たちがリバタールの大使館のエントランスに集まっている。ヒンベルもその中にいる。
人数としては十数人と言ったところで、多くも少なくもなく。やっぱりみんな若い。
会社の代表やその一味って言ったら色あせて老成した雰囲気が漂っているはず。それなのに見た目は若い一方で、どこかただならぬ雰囲気を醸し出している。
私は少々怖気付いた。その不釣り合いが気味悪く見える。
怖気付いているとヒンベルが見えた、話しかけてみる。彼は私に全く気付いていない。
「久しぶり、ヒンベル」
話しかけてやっと気づいたのかこちらをやっとこちらを向いた。
「……君誰?」
ヒンベルは怪訝な表情を浮かべた。




