13話 ベレウゼ連合王国第三王女
突如として仕事なしでフリーになった。大使館の探検でもしようと思う。WiFiは既に通ってるから、自室でネットサーフィンもいい。
案外ベルーケ大使はいい人だと思う。新人の私を慮ったのか評価してくれたし、休みを貰えた。
でも、あの事件、本部でも騒動になってるらしく、また事情聴取が来る可能性があるかもしれない。その時出払ってたら面倒でもある。それも視野に入れてたのかもしれない。真相は闇の中。
大使館の構造は既に脳に書き込みされているし、マップで見れる。でも、生で見るってものまた一つの楽しみ方。
大使館内は端的に言うとアリの巣だ。外から見れる部分より下にあるものの方が大きい。
まず、四階建なのに地下は地下五階まである。しかもその地下五階が地面より二百m下にあるとのこと。
地上はオフィスと居住空間を兼ねている。地下はこのコントーレがある惑星メリアンに敷かれたベセトアのデータセンターがあったり、ポータルハブや備蓄庫、緊急避難シェルターなどがあったり。
正直なところ地下は、ポータルハブ以外あまりお世話にならないと思う。最下層は基本立ち入り禁止。他には整備室や軍の駐留所もあるが、多分無縁。
しかし、私が特に気になっているのは地上にあるもの。
エントランスの階段前にある金色の像。
真鍮でできた女性の像で、三つの宝石がネックレスのように胸元にある。また、三又の槍を横に構えていて、顔は輪郭がわかるくらいで抽象的。それでも凛々しい顔つきであることがわかる。
像の下の床にはプレートがあった。
何が書かれてあるかわからない。コントーレ語をダウンロードしたものの、どうやらこの国の言語ではないみたい。
「これ気になる?」
後ろから声がした。
「この国の英雄……? みたいな人らしい」
そういうはローレさん、こちらに寄ってきた。
「知ってるんですか?」
「いや? コントーレって私の祖国だけど、上層部が祀り上げてるってことしか知らないよ?」
「ふーん、じゃあこれただの飾りなんですかね?」
ただの飾りと言っても、彼らが信仰する神の権威を表すシンボルとして。
「そりゃ……」
ローレさんは言葉に詰まったのか考えている。
「そんなわけないでしょ、きっとこれは体力上げる神像なんだよ!」
急にファンタジーになったな。
「どうした? ローレ?」
また後ろから声が聞こえた。
「あ、ヘルドゥ、これなんか機能あるの?」
外交官の制服を着た男性が腕を組んで登場。やはり私と同年代くらい若い。ショート系の髪形。
「何ってそりゃ……」
「いやないで――」
「周辺マップの解放だろ? 常識的に考えて」
ツッコミ不在。昨今のオープンワールドである各地に配置されたシンボル、それがこれだとのこと。
そうして二人は議論を始めた。
あれは冗談で言ったけど、こんな議論が始まるとは思っても見なかった。
「収集品を収めたらなにか貰えるとか」
「それにワープポイントにもなるやつ」
この建物がワープ地点であることは間違いないけど、この像の性質ではない。
「"ベレウゼ連合王国第三王女ミクリア、ルセンデント奪還戦において功績をあげたことをここに刻む"」
二階から声が聞こえた。
ルセンデントはこの惑星、メリアンの北極に位置する場所。そこは地球の北極と違って南極のように陸地があってコントーレのある大陸から地続き。
「それには特に機能はない。でも、ベレウゼ人にとって心の拠り所。最勝の冬将軍とも呼ばれた」
「エマさん……」
ローレさんが彼女の名を口にした。
長いブラウン色の髪に眼鏡をした白衣の女性。
視点をエマさんに合わせると詳細が表示される。
「エマ アスガ」
ベセトアリバタール駐留航宙機技師局長
ダウナー系で見た目の歳はアラサーほど、やはり見た目と実年齢は釣り合ってない様子。局長とあるが、恐らくアラサーで到達できる役職ではないと思う。
「変なことだべってないで『ちゃんと』仕事してね、お二方」
エマさんにそう言われると二人は、バツが悪い様子を見せる。「ちゃんと」を強調したようにやはりラーゼさんと同類なのだろうか。
☆
丁度エマさんも手が空いてたから彼女が常駐する大使館の研究室に案内してもらった。
研究室は整備室と接合しており、色々工具やら機材やらがある感じ。整備室にはロフトのように階段を下ると行ける。
エマさんの淹れたての紅茶をいただく。カップにソーサーがセットで白いテーブルに出された。
「……おいしい」
でもちょっと熱い。
「それはジョウォーレってとこのお茶。私の出身地、これはアルベニノが好んだとか」
急に知らん名前出てきた。誰それ。とりあえず置いとく。
「ここの現実の人じゃないんですね」
「いや、『一応』ここの出身でもあるよ」
「一応……?」
「ジョウォーレ系ベレウゼ人とリバタールのハーフ……」
ちょっとややこしい。リバタールの血統はハーフ、ベレウゼの血統は少なくともクウォータ、それにおいてジョウォーレ出身らしい。
ジョウォーレはベレウゼの旧植民地の現実。お茶や綿が特産品だとか。
「だから私は現実の異なる血が混ざってるから本名なの」
「え、本名?」
まるで他は本名ではないと言うような言い草。
「? 知らない? あの人たちみんな源氏名だよ」
「嘘でしょ……」
あの人たちというのは恐らく大使館の方々だろう。確かにエマさんの本名は「エマ アスガ」、でも「ラーゼ」、「ベルーケ」みたいに名 姓になってない。
「ってことは『ヒンベル』も……!?」
同じく名 姓になってない。
「あー……そうだね」
マジか、だったらヒンベルが東アジア系の顔なのに変わった名前しているのに合点がいく。
「ちょっと訳あってベレウゼ人とか現実が違う混血の人以外は、源氏名を名乗ってるの。本名だとややこしいからね」
「そうなんだ……」
なんか事情があるのだろう。
「それで、ここは慣れた?」
「いや……まだ二日目です」
「そうなんだ……まあ何かあったら言ってね」
何かあったらか……。既に何かあったんだよな、初日に。
「あと、一つ言わせて」
「?」
「総統には近づかないで、お互いのためにも」
「……?」
エマさんは真剣な顔だった。
私が熱い紅茶を冷ましながら、少しずつ口にしていると突如アラームが鳴った。耳をつんざくような高音が私たちを襲う。
「調査隊がワープしてくるみたい、ちょっと待ってて」




