12話 お呼び出し
マドレーヌ邸襲撃事件が一段落して私も地獄の事情聴取と現場検証から解放された。そう言えば、日本で自転車と自転車で事故起こした時も一、二時間は拘束された。今回は殺人も絡んでるからとっくに夜。
まあ、なんにせよああいうのは二度とごめんだ。男に追いかけられた時、シールドがあっても命の危機を感じた。それに、平穏にやっていきたい。一応終身雇用なのだから。
いくら安全とは言え、危険から逃げる本能はそう簡単に消すことはできない。それが視覚的脅威だったとしても。
ホラゲーやってて驚かないはずはない。
事件のことは既に大使館の方に通達が行ってるらしい。私も大使館にワープして戻った。
ハブポータルを出ると女性が通りすがった。ラーゼさんより若い……いや、幼い? 高校三年生くらいの子だ。濃い茶髪にセミロング。
でも同じ外交官の服を着ている。話に聞くローレって人?
スマレンで照準を合わせると「ローレ」と出た。
「すみません、あなたは……」
すると少女はすぐに振り向いた。
「ん? あっ君って新人の子? 初めまして」
ラーゼさんと違ってだいぶ礼儀正しい。
「……初めまして」
「大変だったらしいね。自室でゆっくりしてて」
どうやら事情を知ってる様子。
「ごゆっくり〜」
ローレさんは私に割り振られた部屋まで案内してくれた。そのまま扉を閉めて退出。
部屋は割とお高めのビジネスホテルみたいな内装。白いシングルベットにそのそばに机と椅子。そして一人かけソファにテレビ、クローゼットや収納がある。
一目見ただけで品質が良く、新品。なにより色合いは落ち着いていて素敵。
ラーゼさん曰く、書類渡したんだったら仕事は終わりだからもう寝ていいよとのこと。
まあもう遅いし寝る。ていうか時差のせいで結構の時間起きてる。眠い。
色々支度した後、あくびを噛み殺して寝た。
☆
普段より長い一日が終わってまた新しい一日が始まる。今日は昨日よりかは短いが、同等くらいに長くなりそう。
なんでもリバタール駐留の大使からお呼び出し。出社二日目にしてもう呼び出しは、多分そうそうない。
私は憂鬱な気持ちで自室を出て朝食を食べた。朝はあんまり食べれないけど、前日に設定しておいたメニューを食べるって方式だから少食にはやさしい。
そして沈んでるところを察したのかラーゼさんもついてきてくれることに。こういうところはありがたい。
「いくよ」
「……」
私はラーゼさんを追うようにとぼとぼついて行く。
「大丈夫、怒られるのは慣れてるから!」
「私は慣れてないんですよ……」
これはラーゼさんの問題じゃなくて私の問題。
ラーゼさんが先陣を切って大使執務室の扉を開けた。
部屋の奥にはデスクがあり、男性が座っている。
「来たか」
低くどっしりとした声が耳に届いた。
デスクにいる男性は、ヒンベルよりも少し歳をとっている男、と言ってもアラサーくらい。脚をかけて腕を組んでいる。黒髪ウルフカット。肩章の階級は大使。
スマレンには「ベルーケ」と表示された。
ベセトアは軒並み見た目年齢はかなり若い。年齢は聞いてないが、みんなもう少し歳上だろう。未来ではアンチエイジングでもあるのかな。
そう考えてるうちにデスクの目の前まで来た。
「豊川三等書記官、私の言いたいことがわかるか?」
初っ端から圧がすごい。睨まずとも目力があるというか、貫禄がにじみ出てる。
「えぇ……いや……」
言葉に詰まる。そもそも何言われるかわかったもんじゃない。お褒めの言葉か、お叱りの言葉か。
ここで私は二つの道を予測した。一つはお褒めの言葉、事件のことを自画自賛してもいいし、お叱り想定で謙遜してもいい。もう一つはお叱りの言葉、これは間違いなくお叱り想定で身構えるべき。自画自賛は死。
「えーと……、ちょっと邸宅内で銃撃したのは――夫人たちの身を守るためで――決して殺人のつもりじゃ――」
これが私の限界。圧を下げるため目をそらす。でなきゃメンタルが傷つく。
「そうだな、マドレーヌ邸での銃撃、爆発は許されたことじゃない。よく脳に刻んだか? 発砲が許されるのは上官の命のみであり、独断では許可されない」
私の弁明を遮って諭してくる。
「そして賊とは言え民間人の死傷は、断じて許されない。場合によっては接受国から追放される。知ってるか? 接受国の一言でお前の首は飛ぶ」
落ち着け、心を無にして平常を保つ。ていうかあの状況で発砲するなは無理がある。その武器はなんの為にあるんだよ。
「だが、命拾いしたな。マドレーヌ夫人はコントーレ随一の外交貴族だ。夫人を怒らせない限り、お前の首は飛ばない」
ひとまずは良かった。解雇通知ではないようだ。
「まあ、上は大事を嫌ってお前にキツく言えって言ってたが、本意ではない」
「……?」
「よくやった。一つ恩を売れた。それに懇親会へのチケットも。現場を鑑みるに合理的な判断だと私は思う」
ベルーケ大使の顔は緩んだ。
「事件はまだ消火しきれてない。今日は大使館で待機しててくれ、仕事はない。以上だ、下がっていい」
まあ、総じて愛の鞭だったってことがわかった。私に非はあったものの以降気をつければいいとのこと。
「よかったね、豊川さん!」
同伴してくれたラーゼさんも微笑みを見せる。
「ただしラーゼ、テメーはダメだ」
ベルーケ大使はラーゼさんの言葉を遮って言った。
ラーゼさんは身を震わせる。
「お前本部から貰った国王宛の書類無くしただろ?」
安定のラーゼクオリティー。今度は書類をなくしたとのこと。しかも国の首長宛なのがたち悪い。
「豊川さん……助けて……」
ラーゼさんはこっちを向いて弱々しく手を伸ばす。
「豊川、相手にするな」
ベルーケ大使はラーゼさんの救援要請をぶった切る。
ここは逃げる。まあ、怒られるのは慣れてるらしいから大丈夫でしょ。




