11話 いまのはいたかった…いたかったぞーーーーーっ!!!!!
私が出した危険信号を読み取った脳は、この一瞬で解を出した。扉を閉める。無かったことにしよう。
扉を閉めきると同時に足音が大きくなる。足が扉を突き破って私に直撃。
あまりの衝撃に後ろの壁に激突。更に壁を突き破って別の部屋に這いつくばった。この時、違和感を感じた。さっきの蹴りがあまり異常な威力である。
まず扉を突き破る。これはまだ理解の範疇、再現できなくない。次に私を後ろの壁に打ちつける。できなくないが、かなりの力を私に伝えないと厳しい。
そして蹴っただけで力を伝えたもので壁を壊す、かなり非現実的だ。既に扉と私という緩衝材で威力は減衰しているのに、レンガで作られた壁を壊すのはおかしな話だ。
やろうと思えばできなくないが、人間の蹴りがなせる技ではない。
「なんだ……ビビって損した。ただの女一人じゃねぇか」
一人の男が扉から出てきて、壁を隔てて愚痴を漏らした。
「こいつも人質にすっか?」
「ああ、あとこいつは身なりがいい。伸びてる間に剥ぎ取るぞ」
私が床に這いつくばってるのを見て男たちは、次の行動を企てる。大丈夫。シールドのおかげで身体的ダメージはない。
でも、さっきのシーンは網膜に鮮明に焼き付いた。身体が怖がってる。
「てめぇら、動くんじゃねぇぞ!」
一人の男が私に近づいてくる。壁の残骸を押しのけてやってくる。
すぐに立って応戦。インベントリから拳銃を出して威嚇。
「立てるのか……? さっきの魔力を使った蹴りを食らって。普通骨折れてるのによぉ」
あの蹴りが異常な威力だったのは、魔力が関係しているらしい。ヒンベルが魔力がどうたらこうたら言ってたけど、あまりピンと来なかった。
私は拳銃を男の頭に照準を定める。だが、さっきから身体が震えている。私を見て男は笑みを浮かべる。
「強がりめ、震えてるじゃねぇか。そもそもなんだそのパイプ」
どうやら拳銃を知らない様子、様子……? まずい。拳銃を知らないと言うことは、私が打とうが打たまいが脅しが聞かないということ。
男はこちらへ歩みを進めてくる。油断しているのか丸腰で拳を握っている。
「く、来るな! 撃つぞ!」
「撃つ? 嘘つくな銃はそんな形じゃない」
そうかわかった、これが銃であることを証明すればいい。
射線を壁に反らして引き金を引く。
マズルフラッシュと共に乾いた破裂音が響き、男を静止。反動はあまりなく、ある程度狙った場所に着弾。
煙が立ちのぼる拳銃を再度男に向ける。
「さては何発も撃てるタイプか、来いお前ら!」
洞察力がいい。私が一発打っただけでリロードしないのを見て援軍を呼ぶ。
男たちが扉の奥からぞろぞろと出てくる。目の前の男も剣を腰から取り出す。
私があいつらが来る前にアクションを起こさないとまずい。シールドがあるためワープで逃げたとしても貴婦人たちの身の保証はできない。
まだスマグロの扱いにも慣れていない。だから応援を呼ぼうにも時間がかかる。その間に私がリンチに合う。
覚悟は決めた。
目の前の男の右脚に向けてフロントサイトとリアサイトを合わせる。そして引き金を引いた。
銃弾は見事男に命中。男はその場でうずくまって脚を抑える。
発砲音は全員の行動を止め、身を縮めさせた。
「なっ、やりあがったな!」
部屋のドアを開け、二階の吹き抜けのエントランスへ走る。すかさず男たちも追いかけてくる。
後ろを向いて撃つことはできない。反動が少ないとはいえ、しっかり持たないと私の手から離れる。
エントランスの柵が見えた。もうすぐ。
いい塩梅で減速、その勢いのまま柵から身を乗り出す。
「逃さねぇぞ!!」
「これくらいへでもねぇわ!」
男たちも勢いのまま柵を突き破り、大胆に一階へ落ちる。
男たちは膝で落下の衝撃を逃がし、四方を見る。しかし、私はいない。
「どこ行った!?」
すると男たちに一つの球体が落ちてきた。一人がそれをキャッチ。
灰色の球体、グレネード。ピンが抜かれ、既にレバーはない。
そう、私は二階の床の端に掴まり、男たちが下に落ちるのを見ていた。
男たちはアホ面でグレネードを見ていた、それが彼らの最後の顔だ。
次の瞬間、屋敷全体の窓が揺れるほどの破裂音が轟いた。
「ありがとうございます。トヨカワ外交官様」
私に礼を仰ったのは手を縄で縛られた貴婦人にしてここの主、マドレーヌ夫人。解かれた手で私の手を握り、微笑んでくれている。
嗜みのある淑女で凛とした顔立ち。
男たちがグレネードで爆発四散後、大使館に通報。
リバタール駐屯のベセトア軍と最寄り街の衛兵が駆けつけ、後処理している。加えて本部から派遣された人たちが、死体処理に事情聴取、現場検証などを行なっている。勿論その対象は私も含まれる。
ここに駐留する衛兵や男使用人は残念だったが、女使用人は無事だ。無論失ったものは大きい。
「私は書類を届けにきただけです。あとエントランスは……」
あの時、グレネードが爆発した後、手が耐えきれず私も一階に落下。肉塊や血、瓦礫が飛散して凄惨な状況になっていた。あれは血の気が引いた。
「いいんですよ、そんなこと。むしろ謝りたいのは私です。外交官様のお手を煩わせてしまいごめんなさい」
私たちが話しているとベセトアのスーツを着た男性がマドレーヌ夫人に語りかける。黒スーツの上下に白ワイシャツを着ている。階級を表す肩章が付いてること以外、よくいるサラリーマンと変わらない。
「夫人、賊共は裏の勝手口から邸内に侵入したようです。二階の窓が空いていたのでそこから建物に忍び込んだかと」
「わかりました、警備を強化します」
そう言って本部の人間は去っていった。
「そうです、トヨカワ様。是非、今月末に行われる懇親会に来てください。弊国の貴族が集うパーティとなっておりますのでいい体験になりましょう」
「いいんですか? こんな平の外交官が……?」
「私から話はつけときますのでお越しください。ぜひ、ヒンベル総統も誘ってください」
「ではお言葉に甘えて……」
これは棚からぼた餅。私あんまそういう人の集まる場所好きじゃないけど、ここまで猛プッシュされるなら仕方がない。
マドレーヌ夫人は満面の笑みで快諾した。




