10話 ジュネーブ条約では外交官の武装について書かれてないらしい
「とりあえず大至急この封筒マドレーヌ邸に届けてきて」
そう言ってラーゼさんは、封筒を渡した。
「これなんか上から貰って十日前も過ぎてるから」
「えぇ……はい……」
マジでさぁ……。ヒンベルが呆れ倒すのも頷ける。だってこの類の不手際が、ベセトアの前、ファータロス時代から続いてるってことでしょ? 酷すぎ。
「あ、あとこれ持ってって」
加えてラーゼさんが渡してきたのは、灰色で球状の物。
「なんこれ」
「グレネード」
ラーゼさんは真剣な眼差しで答えた。
「なんで一端の外交官がグレネード持つんですか!?」
外交官って基本非武装の民間人で構成されるはずなのに、グレネードを持つ必要があるのか。
「この時代のコントーレは、盗賊が跋扈してるし、襲撃を受けることが多いの。だから襲われたらグレネードで自決して攻撃を受けたってことにするの。そしたら上が大義名分で盗賊壊滅させれるから」
ラーゼさんは淡々と語った。当たり屋じゃん。そもそもグレネードで自決なんて旧日本軍ぐらいしかやらんぞ。
「あと普通に拳銃の携帯も許可されてるからこれ」
そう言って漆黒の拳銃を渡してきた。本当にボロボロと武器が出てくる。
「じゃ、よろしく」
ラーゼさんは敬礼して笑顔で私を送り出す。痴呆は楽しそうだな。
私は拳銃とグレネードの扱いに関するデータを書き込みした後、大使館を出た。
拳銃はなんでも実弾と電子弾、プライマル弾と言われるものを発砲できるらしい。プライマル弾、通称p弾はよくわからないけど、なんでも魔力を帯びたものに対して絶大な威力を誇るとか。
拳銃はインベントリにしまって、ショートカットを作っていつでも出せるようにする。ラーゼさんの話が本当なら自己防衛する権利は、外交官にだってある。相手を死傷させる覚悟があるかは別として。
ひとまず、ワープデバイスを起動してマップを確認。大使館より南西へ行くと、マドレーヌ家邸宅がワープ先に登録されている。
マドレーヌ邸を選択し、出てきた「ワープしますか?」って表示に「はい」を押す。
すると右の掌から青い光の糸が現れ、球体を作り、膨張して私を包み込んだ。
その球体はすぐに収縮、手のひらサイズに戻って砕ける。そして灰のように跡形もなく消えた。
私は青い球体に見惚れていたばかりに前をみていなかった。
視点を前に向ける、すると視界を埋め尽くすほどの優雅なお屋敷が鎮座していた。
大使館とは違って材質は、私からしては古臭いながらも気品を感じさせる色白の石造り。二階建てだが、たった一階でも八メートル、ビルの二階分に相当する高さがある。
人三人分の高さがある両開き扉の右側をよそよそしく開けた。自分が入れる程開いたら入る。
すぐに私の目に飛び込んできたのは大使館よりも豪華で荘厳な色とりどりの内装。床は真紅のカーペットで覆われ、汚れ一つない白色の壁紙に質素ながらも威厳ある色の深い木の手すり、天井から垂れ下がるは、金色のシャンデリア。
中央には左右に広がる二階の部屋にアクセスするための階段が構え、踊り場には肖像画が飾られている。
その光景に思わず見惚れて言葉がでなかった。しかし、違和感がある。
「すみませーん!!」
人一人いない豪邸に大声を響かせる。数秒待ったが、返事はない。
「あのー、誰かいますかー?」
また返事はない。この豪邸はただの屍のようだ。
扉の直ぐ側から離れ、左右を見渡す。誰もいない。かくれんぼでもしてるかってくらい静か。これにはドッキリを疑わずおえない。
巨大なエントランスから向かって、すぐ近くの左側の部屋をノックしてから入る。
いない。誰かの部屋。ベットやクローゼットなどがあって何の変哲もない。
横の部屋を見ても物置なのか物が山積み。とてもじゃないが人がいられるところじゃない。
「……?」
嫌だなぁ……。たまにホラゲーで西洋風豪邸が、舞台になってて主人公が中をほっつき歩いてると正面玄関が閉まってるみたいな。そういう感じがする。
そして化け物から追い回されながら面倒な手順踏んで裏の出口から出るまでがセット。一応正面玄関は空いている。ちゃんと開け閉めして確認。
その後、一階をしらみ潰しに見回ってもいない。二階の左側も。
そしてエントランスより右側にある二階の部屋の奥と手前のうち、奥から見てみる。
金色のドアノブを捻り、白のドアを開ける、その時、異様なものが目に飛び込んできた。
部屋の奥で貴婦人が、手を縄で縛られ、左隅には衛兵や男性使用人と思われる人の死体の山。右側には女性使用人がうずくまっている。
それもそのはず、貴婦人を取り囲むように厳つい屈強な男たちがのさばっていた。女使用人を脅すように剣を持った男も点在。




