シーズン1 9話 入社(?)日
遂に入社当日。入社と言ってもベセトアって会社なのかわからない。法人ではあるとは思うけど、会社ではない。
外交官を保有しているからと言って国と呼んでいいかもわからない。国家承認とされる四つの要件を満たしているのかもわからない。
まあそんなことは置いといて白山神社に行く。ヒンベルが待ち合わせ場所として選んだからだ。
出発は午後四時前。なんでも時差、私の配属先となる現実の国との時差の都合で出発は遅い。
服装はとりあえずフォーマルな服装にしといてって言われたからスーツ姿。あと寝間着とか部屋着などの一式をスーツケースに入れて運ぶ。
荻窪駅の目の前にある商店街を通って駅に入る。
待ち合わせ場所は駅の西にある白山神社。怪しいけど、人目を憂いてのことだろう。
線路の下を通って駅を出てデパートの自転車置き場を通り過ぎる。
色んなゲーセンや居酒屋を通り過ぎて神社の参道に着いた。
鳥居をくぐったこの先にヒンベルはいると思う。
平日の四時前、イベントも特にない神社では人は全くいない。
おそらくワープで別現実に行くのだから多分神隠しでも演出していくのかな。そう考えているうちに神社本殿の前に着く。
「来たか」
「!?」
急に声をかけられたからびっくりした。
ヒンベルは木の陰から姿を現し、私の前にやってきた。はたから見たら不審者。
「えっと……名前は何だったかな……?」
ヒンベルは手を額に当て、困った表情をしている。
覚えてないんか。少なくとも書類とか目ぇ通してから声かけろよ。
「豊川琴音」
「ああそうだ。豊川、ちゃんと来てくれたこと感謝するよ」
表情はさっきより割と穏やかになった。
「んで、こっからどうやって別現実に行くの? 神隠し?」
「まあ焦るな。今ワープするから待ってね」
ヒンベルは右手を出し、ワープを起動。
青い光が放たれ、光の束は彼の手のひらで毛糸の球を形成。私たちを包み込むまで大きくなった。
周囲が青一色になり、包みこんでいた球が収縮すると私たちは洞窟のような地下にいた。
「!?」
ワープできることは知っているが、未だ驚きを隠せない。私は周囲をキョロキョロと見渡す。
床は工事現場でよくある鉄板が敷かれ、壁や天井にはパイプがつけられている。加えて照明が壁の縁、天井の中央など至るところにつけられている。
そしてヒンベルの後ろにはどうやら大穴があるようで下が見えない。
「どこなのここ?」
「ベセトア本拠地の予定地」
通りで建設中です感が強かったわけだ。外交官と称して建設現場労働させられるかと思った。
「まあまずは入社おめでとう。これは仕事するにあたって必要な備品」
ヒンベルは何処からともなく、虚空からスーツケースを取り出して私の前に置く。
スーツケースを取り出した時、ガラスのように割れた空間は何事もなかったかのように元通りになる。
私はスーツケースのロックを開けて開いてみる。
中にあったのはスパイがつけてそうなイヤーピース、古代エジプトの王族がつけてそうな首周り、ウセクって言うやつ、グローブ、ベルト、その他四角い箱。全体的にモノクロで特に色に特徴はない。
「大きい箱の中は下着、他より少し大きのはコンタクトレンズ。まあ、スマートレンズって言うやつ」
スマートレンズ、コンタクトレンズにスマホみたいな機能を付けたやつだ。
「下着って指定だったの?」
「あとで説明する。とりあえずあそこで一式つけて」
近くに試着室サイズの個室があったからそこで全て身につけてみる。
ヒンベルには一旦どっか行ってもらった。
いったん上半身を脱いで指定の下着を着る。
めちゃくちゃ薄くて伸縮自在。スースーするけど大丈夫なんかな……。
幅広の首飾りみたいなやつもつけてから服を着る。
首飾りも通気性抜群で首周りにフィットする感じ。
下も脱いで下着を履く。
まじで履いてないかのような通気性だけど大丈夫か。騙されてる感じがする。
ヒンベルはそんな下心あるって感じもしないから大丈夫だとは思いたいけど、人は見た目によらない。
ズボンを履いてシャツの裾をしまう。ベルトは指定のやつに変える。
コンタクトを入れてから最後にイヤーピースとグローブを装着して個室を出る。
こちらも装備してないように思えるほど軽く、ジャストフィットかつ通気性がある。
「着けてみたけど……」
「ああ、着けたんだね」
ヒンベルは奥の大穴をずっと覗き込んでたようで、足をぶらぶらしながら座っていた。
私が出てきたと同時に座るのをやめ、こちらに向かってきた。
「それは別現実で生きてゆく上で必要不可欠。壊れたり不備があったらすぐに言ってね」
「わかった」
「じゃあまず右手を数秒握って起動して」
言われた通り右手を握る。
するとグローブは振動してスマートレンズ、略してスマレンにベセトアのマークが表示される。
「スマレンは手をマウスの要領で動かしたり、目線とか脳波でカーソル移動できる。最初は手で動かす方がいいよ」
スマレンが完全に起動し、右上に地図や時計が表示され左下に緑色のバーが映る。
四角い地図の上には複数種類のマークがある。
そう言うヒンベルの頭にはタグが表示され、カーソルを合わせると詳細が表示された。
ベセトア総統:ヒンベル
詳細↓
「設定から『テクスチャ』で装備一式非表示を押して」
地図の上にあるアイコンを押して複数のアプリのようなものが表示された、
言われた通り、歯車マークの設定から非表示を押す。ちなみにカーソルをマークに合わせると、親切に日本語で名称が出る。
非表示にすると灰色のグローブが青い光と共に消え、本来の私の肌が映し出された。
「えっ!?」
「まあ肌を投影してる感じかな。ずっとそれだと見栄え悪いでしょ」
おそらくだがヒンベルもこういうのをつけてるのだろう。
「次に君の荷物とそのスーツケースをインベントリに入れて。掴んで親指を上げると円形メニューが出るから選んでしまう」
言われた通り私の荷物掴んで親指をあげる。
すると何もないインベントリが表示されてそこにしまう。スーツケースも同じ。
「わっ……」
不意に言葉が出た。
空間から突如青い亀裂と共にスーツケースは消えた。
「じゃあシールドを展開しようか。外現実は本当の意味で空気が違う。正直な話、未知の病原菌が漂ってるんだよ。怪我したら抗体のない豊川は、重症化するリスクがある。だからシールドは私たちの生命線だよ」
確かに病気になるのは嫌だ。私の身体の抗体はあくまで地球由来のものに対してであり、外現実のものに通用するとは限らない。
するとヒンベルは小さな青い電池のようなものを摘んでいる。
「これがシールドの電源。基本交換不要だけど消耗が激しいと交換が必要。悪いけどネクタイと第二ボタンまで外して」
私はネクタイを緩めてボタンを外す。
ヒンベルは首飾りの中央部分にある出っ張りにシールドの電源を付けた。
すると身体全体の表面に四角いブロック状の青いパネルが胸から覆われる。
加えて画面左下の緑バーの上に青いバーが追加された。
ヒンベルは私のお腹をノックするように三回叩く。
「ちょっと!? ……あれ?」
まったく痛くない。というか何も感じない。これがシールド。
「一応これが予備電源。それが機能しなくなったら変えてね」
そう言って私の手にもう一つのシールドの電源を差し出した。
これもインベントリに入れる。
「最後に制服に着替えてもらうよ。ポータブルクローゼットってアイコン押して」
またアプリ欄を表示させてポータブルクローゼットと出るマークを押す。
すると複数メニューが表示される。左には新規登録欄、真ん中には今の服装、右には既存衣装登録欄があり、そこに登録されたメニューがある。
「まずその服装を新規登録」
左にスライドして登録ボタンを押す。
しばらくロードを挟んで登録完了した。
そして今の服装が既存衣装登録欄に追加された。
「次に既に右にある春秋用制服を選択して。押すだけで着替えれる」
春秋用外交官制服ってものを選択。
するとグローブの指先から青い光が発せられ、身体のラインに沿って広がる。青い光が通ったところはさっき選択した制服に変わっていた。
僅か五秒程度で完全に着替えが終わった。
モノクロを基調として下は黒のスーツスカートと指定のベルトに黒タイツ。上は黒のジャケットに金色のボタン。
一見日本でよく見るOLとあまり違いはないが、特徴的なのは肩章やベセトアのマークのワッペンが二の腕の袖部分にある。
「なんか未来の服装ってぴっちり一体スーツっての想像してたけど違うんだね」
「えっ全身蛍光ブルータイツの外交官……?」
「キッショ変態じゃん」
変態と言うより地域の変わり者。しかも蛍光ブルーはめっちゃ目ぇ覚める色だし、視認性抜群。周りから白い目で見られるだろう。
「まあこれで一通り説明終わり。次は君の配属先の現実、リバタールに行ってから説明するよ」
どうやら、私が配属される現実はリバタールというところ。その前に、一つ疑問がある。
「ねえ一ついい? さっきからこの下着スースーするだけど大丈夫なの?」
「えっ、さっきまで着てた下着は?」
「しまったけど……」
私のスーツケースにしまった。
「……それノーパンと同じだよ?」
ヒンベルは動じず困惑の目で私を見つめる。
「は?」
「それ普段の下着の上に着る見せ下着みたいなやつ」
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次回、シーズン2 take offとなります
10話は7月22日の午前7時
11話は同日午後5時
12話は同日午後8時
更新となります
そこから13話から18話までそれぞれ1時間後にズラす形で3日間公開されます
その後は午前3時更新に一旦戻しますが、時間帯変更の可能性もあります




