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パスファインダー  作者: イガゴヨウ
第四章
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第三話

「さっきから何度も試してるんだけど……まったく反応がないんだ」


僕はシステルと話している間でも、何度も探知魔法の発動を試みていた。


けれど、まるで手応えがない。


探知波が返ってこないわけじゃない。


そもそも、探知波そのものが発生していない。


そんな感覚だった。


僕の言葉のあと、闇の中に短い沈黙が落ちる。


だけど、返ってきたシステルの声は驚くほど落ち着いていた。


「そう。そんなことだと思ってたわ」


まるで、僕がそう答えることを最初から知っていたような口ぶり。


「実は、私のブレスレットも魔法具も同じなのよ」


布が擦れる音がする。


ポケットに手を入れたのだろう。


「スマホすら駄目」


今の音は、スマホを取り出した音か。


なるほど、そういうことか。


魔法の動力は魔力だ。そしてブレスレットも魔法具も同じ。


スマホは電気で動くのが昔は主流だったらしい。


だけど、魔力を取り出し、繰り返し充填できる素材が実用化されてからは、一気に魔力式へ置き換わった。


電気式を見かけることなんて、今はほとんどない。


この状況って――。


魔力で動くものは、すべて機能しないということなんじゃないのか。


……待って。


それなら。


僕たちがいるのは、第84層世界なのか。


いや。


そういえば校長先生が言っていた。


第43層世界でも、魔法が使えなくなったと。


「システル。ここ、第84層世界か……それとも、第43層世界なのかもしれない」


返事はない。


それでも僕は続けた。


「魔法が使えないのが、その証拠だよ。あの二つの世界、そんな現象が起きるって、システルも知っているよね」


そう言ってから、僕は自分の考えに足りないものがあることに気付いた。


正確には、使えなくなったのは魔女以外が発動する魔法だったはずだ。


つまり――。


魔女なら使える。


目の前に立っているはずの僕のご主人様なら。


そのことを伝えようとした、その瞬間だった。


ゴゴゴゴゴ……。


遠くから地鳴りのような轟音が響き、次の瞬間、地面が大きく揺れた。


足元が左右へ激しくうねる。


僕はとっさに足を踏ん張った。


小さな悲鳴。


続いて、何かが床へ倒れる鈍い音。


システルだ。


「システル!」


声をかけようとした、そのとき。


「痛っ……」


聞こえてきた声には深刻さはない。


それを聞いて僕は小さく胸を撫で下ろした。


その間にも、四方から石と石が圧し合い、擦れ合うような重い音が絶え間なく響き続けていた。


あまりにも音が入り乱れ、どこから鳴っているのかさえ判別できない。


それでも、魔法の使えない僕には耳しかない。


これはチャンスだ。


揺れに耐えながら、音だけを頼りに周囲を探っていく。


音は、全方向から返ってくる。


反響も長い。


四方は壁に囲まれている。


建物の中――いや、それも相当大きな建物だ。


ここは……たぶん、かなり広い空間だ。


上から返ってくる反響も遅い。


天井も、かなり高い。


いったい、ここはどこなんだろう。


少なくとも、次光船の中じゃない。


それだけは断言できる。


なのに、ここへ来た記憶がない。


眠っている間に、誰かが僕たちを運んだのか。


でも、どうして。


揺れに少しずつ身体が慣れてきた。


耳にさらに意識を集中させると、石が擦れ合う音の中に、紙のようなものが擦れる乾いた音が混じっていることに気づいた。


さらに、ときどき、ドスン、と重いものが床へ落ちる音も聞こえる。


……この空間は、ただ広いだけじゃない。


何かがある。


そう考えた矢先、揺れは急速に弱まり、やがてぴたりと止まった。


「いったい、なんなのよ」


システルが立ち上がる気配がした。


打った腰でもさすっているのだろう。


静かな衣擦れの音が闇に響く。


僕はその音を聞きながら言った。


「もし今のが地震だったとしたら、ここは第84層世界じゃなかったかも。あそこは島が一つしかない世界だし、その島も浮島だから、地震は起こりにくいはずなんだ」


言葉にしながら、頭の中で散らばっていた情報が一つにつながっていく。


答えが、ゆっくりと形になっていった。


「ここは……たぶん、第43層世界だよ」


なぜ完全な暗闇なのか。


あの異常な地震は何だったのか。


疑問は残る。


だけど、あの世界では未曾有の災害が起きている。


僕たちの知らない現象が起きていても、不思議じゃない。


そう考えるのが、一番自然だった。


だけど。


「それは、どうかしらね」


システルは静かに言った。


低く、重い声だった。


僕の推測を否定するというより、すでに真実を知っている者のような響き。


その一言で、胸の奥が冷たくなった。


闇が、ゆっくりと僕たちを押し潰そうとしてくる。


息が詰まる。


目を覚ましてから初めて、僕は恐怖を感じていた。


どこなのかもわからない。


何も見えない。


魔法も使えない。


ずっとこのままの状態だったら、僕たちはどうなる。


……いや。


まずは生き延びることを考えよう。


水と食料だ。


そう思った瞬間、背中の重みに気づいた。


マジックバッグ。


次光船に乗るため学校を出る際に、システルが僕に背負わせてくれたものだ。


中身があのままなら、水も食料も数日分はある。


今回は、いつものボランティア活動に比べて危険度が高そうだったから、いつもより多めに準備していた。


システルも、ニケも同じだったはずだ。


節約すれば一週間。


いや、何も見つからなくても二週間くらいは持ちこたえられるかもしれない。


だけど――。


この闇から出られなければ。


助けも来なければ。


僕たちは、この暗闇をさまよい続け、静かに朽ちていく。


そんな想像が、胸の奥へ冷たい石のように沈んでいった。


そのとき。


闇を切り裂くように、システルの声が響いた。


「詠唱なら、魔法が発動できないか試してみるわ」

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