第二話
暗闇をどれだけ凝視していても、何も見えてこない。
そう悟ると、僕はすぐに探知魔法を発動しようとした。
同時に鼻を上げ、周囲の匂いを探る。
息を吸った瞬間、肺が凍りつくほどの冷たい空気が身体の中へ流れ込んできた。
それでも構わず、今度は四方へと耳を向ける。
わずかな物音も聞き逃さないよう神経を研ぎ澄ましていく。
その時だった。
すぐ近くで、布が擦れるような音が聞こえてきた。
かすかに伝わってくる体温。
そして、よく知っている香り。
「……これも、駄目だわ」
「システルなの?」
僕は声のした方へ呼びかけた。
返事はない。
布が擦れる音だけが続く。
「システルなんでしょ? 一体、何があったの?」
それでも答えは返ってこない。
まるで何かを手探りで探しているように、衣擦れの音だけが静寂に響いていた。
僕は少しずつ不安になってきた。
……本当にシステルなんだろうか。
知らない誰かに話しかけているだけじゃないのか。
目を凝らすと、暗闇よりわずかに色の違う影が見える。
その影がゆっくり動いた。
誰かがいる。
それだけは確かだった。
「ね――」
言い終える前に、聞き慣れた声が暗闇を切り裂いた。
「はぁぁぁぁぁ!? そんなの、私の方が知りたいわよ!」
その声を聞いた瞬間、胸の力が抜けた。
「ああ、よかった。システルだ」
「よくないわよ!」
怒気を含んだ声が返ってくる。
「あんた、さっきから何わけわかんないこと言ってるの?」
「わけわかんないって言われても……僕も何が起きてるのかさっぱりなんだけど。ここ、どこなの?」
「それを説明するのは、あんたでしょう!」
「僕が!? なんで?」
「あんたが私を起こしたんじゃない!」
「えっ? 僕が?」
「そうよ。あんたの声、夢の中まで聞こえてきたんだから」
僕がシステルを起こした?
記憶を探ってみても、そんな覚えはどこにもない。
「いや……僕も今、目を覚ましたばかりなんだけど」
「私が嘘をついてるって言いたいの?」
その声だけで、システルが暗闇で頬を赤くして睨んでいる姿が目に浮かぶ。
「そういうつもりじゃないけど」
彼女は、僕がまだ疑っていると思ったのか、言葉をひとつずつ噛みしめるようにして返してきた。
「絶対に……あ、ん、た、の、声、で、し、たっ!」
「いや……」
返す言葉が見つからない。
「だいたい、なんで起こした本人が寝ぼけてるのよ」
深いため息が聞こえてきた。
「……じゃあ、早くやって」
「何を?」
「そんなの、探知に決まってるじゃない」
その言葉に、僕は黙り込んだ。
視線の先、システルの足元らしき場所で、小さな灰色の影がもぞもぞと動いている。
たぶん、あれはニケだ。
どうやら彼女も今、目を覚ましたばかりらしい。
僕はその様子を見つめ、それからシステルの顔があると思われる方を向いた。
「システル」
「なによ」
「……魔法が発動しない」




