第一話
「システィール・パスファインダー……。
いいですね。決して、あなたの黒い使い魔に気づかれてはなりません。
もしも途中で気づかれることがあれば、あなたたちはもちろん、多くの者が戻って来られなくなるでしょう」
「私は、いつまでこれを秘めればいいのでしょうか」
「自然と時は、その使い魔から啓示されます」
「彼が……啓示を……?
それは……とても、おかしな言いよう。まさか、彼に何か災いが降りかかるということではありませんか」
「災いは、彼だけに降りかかるものではありません。
これから多くの者に災いは降りかかります。それは、誰にも避けることはできません」
「私は彼を一度失いかけました。
あの時、私は誓ったのです。二度と、このような思いはしないと。二度とこのようなことは起こさないと。
もし私の使い魔たちが危険に晒されるというのなら、この話を受けることはできません」
「もう始まっているのです。これは誰にも止めることはできません。私たちにできることは、備えることだけなのです」
「ならば、なおさら受けることはできません」
「決断を下すのは、あなたではありません。
あなたの使い魔たちなのです」
「そんなことはありません」
「システィール・パスファインダー……」
「たとえ、あの子たちが了承したとしても……
私は、決してそれを受け入れません」
「それでも、道は変わりません。
もう、道を変えることはできないのです」
「……私は、どんな手を使ってでも、その道だけは進みません」
うるさいなあ。
ああ、もっと眠っていたいのに。
なにを騒いでるんだ。
……誰だ。
うるさいのは。
この声――。
あ、わかった。
これ、システルだ。
そうか。
きっと、また寝坊して学校に遅れそうになっているんだな。
まあ、いつものことか。
しょうがないなあ。
目を開けようと思ったけど、やっぱ、やめた。
まだ眠い。
僕はもう少し寝ることにするよ。
今日はシステルとニケだけで学校へ行ってくれ。僕は学校を休む。
たまにはそんな日があってもいいでしょ。
使い魔にだって休養は必要だ。
もう一度深い眠りへと意識を沈めよう、と。
わずかに開きかけた目をぎゅっと閉じ、システルの声を、どこか遠くへ追いやった。
視界は真っ暗だ。
目を閉じているんだから、そんなの当たり前か。
……第84層世界も、きっとこんな感じなんだろうな。
永遠の闇の世界。
そういえば、図書室で読んだ歴史書にも、あの世界にある門から現れた魔物たちが、人の世界を滅ぼしたと書かれてあった。
でも、調べても、その歴史書を最初に書いた人物はわからない。残っているのは、ずっと後の時代に誰かが書き写した写本ばかり。
魔物が現れた世界は「人は全滅した」と記されていた。なのに、誰がその出来事を書き残したんだろう。
読んでいて不思議だったけど、たぶん「全滅」というのは少し大げさだったんじゃないのか。
ほんのわずかでも生き延びた人がいて、その人たちが後世へと伝えた。
そんなとこだろう。
第84層世界へ行ったら、もっと古い資料が残っていないか探してみよう。
……ん?
第84層世界?
そういえば学校……。
今日って、学校へ行く日だったっけ。
いや。
今日、何か特別な予定があった気がする。
……あ。
思い出した。
校長先生に頼まれた任務だ。
大災害が起きていて、僕たちも救援へ向かうことになっていたんだ。
一気に眠気が吹き飛んだ。
急速に意識がはっきりしていく。
体中に血が巡り、心臓が強く脈打つ。
そして僕は勢いよく目を開いた。
……暗い。
何も見えない。
猫の目を凝らしても、かろうじて微かな色の違いがわかる程度。
「……寒っ」
突然、寒さに全身の毛が逆立つ。
思わず頭を持ち上げ、辺りを見回す。
けれど、やはり何も見えない。
その時になって、ようやく気づいた。
僕が寝ている場所が何かおかしい。
ベッドじゃない。
絨毯でもない。
木の床でもない。
背中に伝わる感触は、凍りつくほど冷たく、硬かった。
これは……石?
僕は平らな石の上で眠っていたのか。
ゆっくりと体を起こし、前足を伸ばして座る。
冷え切った石の感触がお尻から伝わってきた。
少しだけ視線が高くなる。
もう一度、首を巡らせて周囲を見渡した。
やはり、何も見えない。
ここは――。
いったい、どこなんだ。




