偽の勇者⑤ 1つの願い
何が起こったのか、私には把握することができませんでした。
肉の塊がモグラの内部を侵食しているようです。
モグラの悲鳴が聞こえてきました。
腹の中ではパチリパチリと魔力の音が聞こえて、肉の塊が段々とモグラの内部を覆い尽くしているようでした。
その時、私はモグラの感情に触れました。私は戸惑います。モグラの感情には寂しさが溢れており、その気持ちの中には嫉妬や怒りのような感情が渦巻いていたからです。
負の感情が肉の塊に入り込んできました。
誰かの声が聞こえました。
――なるほど……次はあなたの番なのですね………
視線を向けました。
1人の男性が立っています。
こんな場所にいるなんて驚きでしかありませんでした。
男性の声がしました。
彼は自分が勇者であると言っていました。
――私は勇者です。呪いのせいで、私はモグラの姿に変えられていました。やっと、あなたのおかげで理性を取り戻すことができたようです……
その時、肉の塊が人間の姿に変わりました。
それは私の姿でした。
男性の声がしました。
――地龍の呪いのせいで、ずっと、私はモグラの姿に変えられていました。騙されていたのです。魔族たちは、地龍を封印するために『封印の石』を生成したと言いました。しかし、本当は私を呪いに掛けるための道具だったのだと思います……今のあなたのように、私も地龍に飲み込まれて、ずっと、モグラの姿に変えられてしまったのです……
それを聞いて、私は声を出そうとしました。
しかし、私は言葉を発することができず、勇者である男性を見つめていることしかできませんでした。すると、男性は笑っているようでした。
――本当に、あなたのおかげです。やっと、私は呪いから解放されることができたのですから……ただ、もう時間がないようです……長い間、呪いの中にいて負の感情に操られてきました。その時、気が付いたんです。勇者なんて何の意味もなかったんだなと……だから、このまま消えても仕方がないとは思っています。でも、1つだけ心残りがあるんです。私が呪いをかけてしまった魔族の王女を助けてほしいのです。こんなことをあなたに頼んでいいのかわからないのですが……彼女を助けてほしいのです。ただ、そのためにはあなたが……………
そう言うと、勇者の姿が消えていきました。
消えていく姿を見つめていました。
気が付くと、私は元の世界に戻っていました。
傷だらけの妻が倒れています。
ずっと、モグラと戦っていたのだと思いました。
私は声が出ませんでした。
私の内部が地龍の呪いに侵食されていたからです。
強い力であり、その呪いに抗うことはできそうにありませんでした。
体がおかしくなってしまいそうでした。
妻が私を見つめました。
意識を失わないようにと思いながら、妻の所まで歩いて行くことにしました。
彼女に私を殺すように頼むことにしました。
妻に声をかけました。
「どうか、私を封印してください。そうすれば、きっと、あなたが捜していた魔族の王女を助けることができるのですから……」
そう、私は言いました。
ありがとうございます!!




