キーテ少年の冒険⑤ 牛の蹄鉄
「これから先には行かせない。勇者だったら、あなたはこちらの人間であるはずよね。なぜ、私たちの邪魔をしようとしているの……」
鬼人の声が聞こえてきました。スターレンという名前だと思いました。
しかし、私は黙っていました。
幻想でしかないものと語る言葉などありませんでした。
鬼人は腕に付ける鉄の塊を召喚させました。
すると、キーテ少年の声がします。
「ねえ、君たち、僕の仲間にならない!? 僕たちは勇者なんだ!!! 魔王を倒しに行くんだよ!!!」
キーテ少年は鬼人たちに語り掛けていました。
仲間にしたいと思っているようです。
しかし、2人の鬼人はまったく耳を貸しませんでした。右腕に付いた武器を構えると、真っ赤な炎が放出されていきました。
放出された炎が辺りを覆いつくしていきました。
真っ赤な炎を見ると、子供の頃のことを思い出していました。村で蹄鉄を作る時の真っ赤な鉄のことを思い出しました。
私は村の景色を見つめていました。
子供の頃の風景でした。
村には馬の蹄鉄を作る装蹄師が1人いました。
蹄鉄とは馬のひづめを保護するものであると聞いたことがあります替える。
数カ月に一度、馬たちはひづめを整え、蹄鉄を替えることになっていました。
毎朝、装蹄師が熱した鉄を叩いています。
子供の頃、私は鉄を叩く音で目を覚ましました。
朝起きると、装蹄師の近くには女の子が座っていました。
彼の一人娘でした。
私と同い年の明るい子です。
「私は父ちゃんが大好きなんだよ!!」
装蹄師の娘は明るく笑っていました。
ただ、そんな彼女も不安になる日がありました。
父親が牛のトサツの手伝いをする日でした。
その日になると、彼女は私の小さな家に入り込んで、ボロボロの布団の中に隠れてしまうのでした。
「牛が泣いている声を聞いたことがるの……」
装蹄師の娘の声がしました。
布団の中に隠れると、絶対に外に出ようとはしませんでした。
もちろん、そんな話を信じていませんでした。彼女が臆病なだけだと思ったのです。
確かめるため、私は家を飛び出しました。
養鶏をしている家の前を通り抜け、トサツ場から大人たちが出ていくのを確認すると、牛の様子を確認することにしました。
しばらくの間、私は吊るされている牛を見つめていました。
やはり、泣いていません。
頭は撃ち抜かれ、血抜きが始まっていました。
意識を無くしている牛の顔に触れてみました。
大きな舌が口からはみ出ています。
目のあたりに触れようとすると、突然、牛の目がぎょろぎょろと動きました。痙攣しているように体が震えていました。
びっくりして、私は尻もちをついてしまいます。
きっと、魔物が牛に化けていたに違いないと思いました。
装蹄師の娘が、牛が泣いた、と言ったのは魔物が牛に化けていたからだと思いました。
近くにあった木の棒を掴んでいました。
木の棒を使って、何度となく、牛の頭を叩きつけていました。
「悪い奴らなんてみんなやっつけちゃえ!!!」
突然、キーテ少年の声が聞こえてきました。
その声に従い、私は吊るされた牛を殴り続けていたのでした。
すると、牛の顔が、段々、鬼人の顔に変わっていきました。
私の攻撃で鬼人が召喚した武器が砕け散りました。真っ赤な鉄を叩いている音が頭の中に響いていました。
懐かしい音が聞こえていました。
小さい頃、鉄を叩く音を聞きながら、私は装蹄師の娘と過ごしていました。
村の外れに住んでいたせいで、私たちはいつも一緒にいたのです。
牛を殴り続けていると、2人の鬼人はいなくなりました。
キーテ少年に手を引っ張られ、私は魔法学院の廊下を歩いていました。
泥沼にでも入ったように頭が働かなくなっていました。
青い石の欠片は一段と光を増しているようでした。
装飾された大きなドアを開けます。
すると、そこには傷だらけのギルド長が立っていました。
ギルド長が笑っています。
「ああ、勇者様待っていましたよ。もう、ここで終わりにしましょうか……」
ありがとうございます!!




