キーテ少年の冒険② モグラの森
夕暮れが訪れる頃、私たちはアパートメントの小さな部屋に着きました。
部屋の壁にはランタンが掛けられており、その明かりが部屋の中を照らしていました。
部屋に案内されると、窓際にある椅子に座っていました。
小さな木製のテーブルには作成途中であるパッチワークの布が置いてありました。その布に触らないように、窓の外を見つめていました。窓際には綺麗な花の植木鉢が置かれてあり、その向こうには暗くなってきた町の景色が見えました。
「あなたが勇者なんてね……」
少年の祖母が料理をしながら、私の顔をマジマジと見つめていました。
しばらくすると、夕食の時間になっていました。
テーブルのランタンに火が付けられ、山羊の肉が置かれると、キーテ少年がその肉を嚙り付いていました。
食事をしながら、モグラの森には行きたくない、と少年の祖母が言いました。
何故かと聞くと、『モグラの森』の話をしていました。
それは50年程前のことでした。
祖母が小さい頃の話です。
その頃、モグラの森には多くの蛇が生息していました。蛇の皮はよく売れ、結果、たくさんの猟師たちが森に集まるようになっていました。
猟師たちは地主に雇われ、この町に出稼ぎに来ている人たちばかり、大半は森の中で生活をしていました。毎夜、川辺で食事をしながら古風な歌と踊りをしていました。段々と彼らの踊りに誘われるように、近くに住んでいる下民たちが集まるようになると、毎日のように宴が行われていたということでした。
ただ、森は主であるモグラが管理していました。多くの蛇もモグラのエサであったのです。しかし、多くの人々がモグラのことを忘れていました。
冷たい風が吹き始める頃、森の中で異変が起きていました。早朝、近くに住む村人がの森を訪れると、たくさんの頭部のない猟師たちの死体が放置されていました。
森の主であるモグラが激怒していると気が付きました。
その日から、森はひっそりと静まり返り、猟師たちの笑い声が聞こえなくなりました。しばらくして、大きな石塚が建てられたというのです。小さかった頃の祖母は恐怖でしかなく、1度も森に入ることはなかったということでした。
モグラの森の話を聞いていると、次第に、部屋のランタンの灯が小さくなりました。
キーテ少年が灯油を取りに部屋の外に出ていきました。
「あれから、どのぐらいの月日が過ぎたのかしら。まだ、あの森に入るのは怖い気がするわ……」
と、少年の祖母は言いました。
「それなら、どうして森に行くのですか?」
と、私は尋ねました。
祖母は笑っていました。
「あの子が行くというなら仕方がないんです。だって、あの子は私にとっての最後の宝なんですよ」
祖母は腰が痛くて子育ては大変だ、と陽気に笑っていました。
それでも、キーテ少年だけは守らなくてはならない、と話していました。
「おばあちゃんは心配しなくていいんだよ。ぼくはスチュアート君と一緒にモグラの森には何度も行っているんだ!!」
キーテ少年の声が聞こえてきました。
ランタンに灯油を入れると、急いで、少年は自分の椅子に座りました。
「そういえば、昨日の話だけど、スチュアート少年は他に何か君に話をしていなかった?」
と、キーテ少年に聞いてみました。
「うーん、何だっけな…、えーと、騙されていたとか、逃げた方が良いとか、そんな話をしていた気がするけど、よくわからないや。ただ、スチュアート君はすっごい急いでいる感じでした。すぐにいなくなっちゃったし……」
そう言うと、キーテ少年は腕組みをしていました。
少年は思い出そうと必死になっていました。
トントン
その時、ドアを叩く音が聞こえてきました。
「突然、申し訳ございません。そこに勇者様はいますでしょうか?」
「はい、何でしょうかね?」
と、祖母が返事をしました。
「いま、この国ではクーデターが起きようとしています。勇者様、私たちに力を貸しては頂けないでしょうか!!」
切実な声が聞こえてきました。
ドアを開けると、近衛師団長、バレットが立っていました。
ありがとうございます!!




