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魔王城にて② 戦場

 大地は人間と魔族の戦いの傷跡を刻みこんでいました。戦いで使用された魔法は小さな結晶になり浮遊しています。



 どれだけの魔族と人間が死んでいったのか、激しい戦いの傷跡は時間の経過すら拒んでいるかのようで、途方もない長いこと、戦いの傷を大地にまで浸み込ませてしまったようでした。


 地面にはたくさんのガイコツの頭があって、ひび割れたガイコツはカタカタと揺れながら、顔の向きを変えようとしていました。

 魔族の力が消失しているため、スケルトンになることもできず、ずっと、このような状態で生きているに違いありませんでした。




 その光景を見ると、妻は立ち尽くしていました。

 しばらく、私たちは時間から取り残された戦いの残痕を見つめていました。




 突然、ユウマがたくさんのガイコツの頭を大剣で粉々にしていきます。

 彼は曇りがかった空を見上げていました。



「こういうのを見ると不快な気持ちになるんだよ……オレは魔族が嫌いってわけじゃないからな……。人間は何でこんなことをしたんだって思うよ。いや、違うな。だからこそ、人間は幸せにならなきゃならねーんだと思うんだよ……」


「別に、人間も同じように苦しんだっていいのよ」と妻が言いました。


「オレは人間のために闘ってきたんだ……。それは無理だ。ただ、オレは魔族にだって良い奴がいるのを知っているだけ。ああ、まったく、くそったれだよ!!」と言い、ユウマが大剣を振り回していました。


「たまには良いこと言うじゃない……」

 

「うるせーよ。さあ、行こうぜ!! こんなところにいても意味なんてねーんだからな……」



 ユウマが私たちの先を歩いていきました。

 その姿を見て、彼のことが少しだけ理解できたような気がしていました。



 魔王城がある高台まで来ると、私たちは周りを見渡しました。人の姿はなく、錆びついている防具の破片が落ちているだけでした。



 歩道は整備されておらず、ところどころで道が欠落しているようなありさまでした。

 さらに城門はツタで覆われており、錆びついて斜めに傾いています。


 城には大きな内庭があり、数台の馬車が通ることができそうでした。ただ、門衛のための塔が崩れ落ち、大きな道を半分ほど埋め尽くしています。



 残骸の隙間から冷たい風が吹いてきました。


 妻が小さな声で言いました。



「何だか悲しくなる。世界から隔離されていた場所。数百年の時間、取り残されてしまっていた場所。まるで私たちが住んでいた村みたいに……」


「ねえ、ぼくたちの住んでいた村で何があったの?」


「あの村は魔王様の結界に閉じ込められていたの、あなたが結界を解かなければ、きっと、ここと同じだったと思う」


「ぼくが結界を解いたの……」


「そう、予期していないことだった。記憶がないとあなたは言ってなかった?」


 その時の記憶、私は思い出そうとしました。

 ただ、何も思い出せません。


「ダメだ。わからない。それ、本当にぼくだったんだろうか。別に勇者がいたということはないのかな」


「わからない。結界が解かれると、村の人たちは元の世界に戻るだけの余力はなくなっていたみたい。変化する環境に耐えられなくて、自分の意識を保つことができなくなっていたの。話ができる村の人を探して、何があったのかを確認したかった。だけど、全員、あなたの名前を告げるだけだった。それ以外、何も話すことができなくなっていた……」




 それを聞いて、私は返事ができませんでした。

 妻も黙っていました。





 その時、ユウマの声が聞こえました。



「なあ、城の中に入ろうぜ! 早く来いよ!!!」



「この話はあとでしましょう……」


 妻が言うと、私たちは城に入ることにしました。

 城の中には何も残っていません。装飾品が奪われ、物が押し倒され、全ての物が散乱していました。





 崩れそうな階段を上っていきます。

 2階には教会がありました。



 教会のステンドガラスはなくなり、椅子などの家具は風化して木の破片が残っているだけでした。歩くたびに腐りかかった木の板がギシギシと音をたて、今にも倒壊しそうになっていました。




 教会の中央付近まで歩いていきます。

 先まで来ると、前を歩いている妻が振り返りました。




「もう1度、ここで結婚式を挙げない?」

 と妻の声がしました。


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