クリスマスデート①
叶が新と共に訪れたのは稲守駅前の繁華街だった。
田畑や山林も多く、のどかな風景が目立つ稲守市だが、その中心部にあたる駅前は別だ。
駅を囲むように商業施設や飲食店が立ち並び、大通りにはバスや車が絶えず行き交っている。
休日ともなれば買い物客や学生の姿も多く、地方都市ながら、それなりの賑わいを見せる場所だった。
ましてや今日はクリスマス。
あちこちに叶と新のように二人組の男女の姿が多く見えた。
「叶、どこか行きたいところはあるか?」
隣で新がそう尋ねる。
叶は「うーん」と少し考える素振りを見せながら、辺りを見回した。
文房具店に雑貨店、洋服店。
少し先には映画館の入った大型商業施設もある。
行きたい場所を挙げようと思えば、いくらでも浮かぶ。
けれど、その中でも前日から気になっていた場所があった。
「あのね、実は一箇所、新と行きたいお店があるの」
「じゃあそこに行こう。どこにあるんだ?」
幸いその店はすぐ目の前にあった。
叶が指をさすと、新はその先を視線で辿った。
「あれは……アクセサリーショップ?」
「うん、最近できたんだけど、オリジナルの指輪を作れるんだって……それでね」
叶は肩にかけていた鞄の紐をきゅっと握った。
「新に私の指輪を作って欲しいの」
「俺が?」
叶は口をつぐんで頷く。
すぐに新が柔らかな微笑みを浮かべた。
「もちろん。だけど、不恰好でも文句言うなよ?」
「い、言わないよ! あ、新のは私が作るからお相子だからね!」
「わかった。じゃあ行くか」
二人は並んでアクセサリーショップへ入っていく。
店内は木を基調とした暖かみのある内装で、ガラスケースの中には指輪やネックレス、ピアスなどが綺麗に並べられている。
クリスマスということもあり、店内には叶達と同じくらいの年頃の男女も何組か見えた。
「いらっしゃいませ」
叶と新が店に入った瞬間、笑顔で声をかけてきた女性店員に新が尋ねた。
「あの、指輪作りができるって聞いて来たんですけど」
「手作り体験ですね。こちらへどうぞ」
案内された先には、二人掛けの作業台がいくつか並んでいる。
すでに何組かの男女が、指輪を作っていた。
「まずはこちらから、お好きなリングの形をお選びください」
店員がいくつかの見本をトレーに並べる。
細身のものから幅のあるもの、表面が丸みを帯びたものまで様々だ。
せっかく新が作ってくれるのだ。嫌でも慎重になってしまう。
叶がじっくりと見本を見比べていると、横から店員が一つのモデルを指し示した。
「こちらはどうですか? お二人のようにカップルには人気のペアリングとなってます」
「か、カップル!?」
叶の顔が一気に赤く染まった。
「あれ? もしかして違いました!? 私てっきり……」
「い、いや、その……!」
叶が慌てて否定しようとする一方、新は特に気にした様子もなく口を開いた。
「ははは……そう見えてしまいますよね。でも俺達、ただの幼馴染なんです」
間違ってはいないが、随分とあっさり言うものだ。
それでも、なぜだか面白くない。
叶はむすっと頬を膨らませて、ペアリングを指差した。
「……じゃあ、ペアリングでお願いします」
「え?」
今度は新が固まった。
「いいのか? 叶?」
「もちろん。新は嫌?」
「嫌ではないけど……」
そう答えながら、新は僅かに視線を逸らした。
……あれ? 新、照れてる?
なんだか新鮮にも思える反応に、なんだか自分も恥ずかしくなってきた。
「それでは、サイズを測りましょうか。どの指につける予定ですか?」
「えっと……」
叶は自分の手を見つめる。
人差し指。
中指。
そして、ほんの一瞬だけ左手の薬指へ視線が向かった。
「……右の薬指で」
「かしこまりました」
店員は何事もなかったようにサイズゲージを用意する。
ここで勇気を振り絞って左の薬指を指定したら新はどんな顔をするだろう。
まぁ、それができたらとっくに告白できてるんだけどね。そう思い、叶は溜め息を漏らした。
「叶?」
「はひっ!?」
「どうした? 溜め息ついてたけど……」
「た、大した意味はないよ! 新に作るの失敗したらどうしようって考えちゃった!」
「俺は気にしないけど? なんたって叶が作ってくれるんだし」
ほんと! そういうところ!
叶の頬が再び赤みを増すと、店員がくすりと笑った。
「お二人は仲がよろしいんですね」
「まあ、付き合い長いんで」
「素敵なことだと思いますよ。サイズはこちらでよさそうですね。では早速、制作に移りましょう」
店員が作業台の下から取り出したのは、指輪とは似ても似つかない一本の細長い金属だった。
「まずはこちらを曲げて、指輪の形を作っていきます」
「これが指輪になるんですか?」
叶が興味深そうに覗き込む。
「はい。最初はこの棒状の金属を丸く曲げて、両端を繋ぎ合わせるんですよ。まずはこの木槌で叩いて綺麗な円に整えていきます。相手のことを想って、叩いてくださいね」
相手のことを想って。
叶はその言葉を胸の中で繰り返しながら、隣にいる新をちらりと見つめた。
「……よし」
叶は小さく息を吐き、木槌を握る。
新がこれから先も笑っていられますように。
ずっと、自分の隣にいてくれますように。
今日の告白が……成功しますように。
そんな願いを一つ一つ重ね、叶は指輪を叩いた。




