クリスマスデート②
「お待たせしました! こちら、お客様が作られた指輪になります!」
店員が差し出した小さなトレーの上には、二つの銀色の指輪が並んでいる。
先程まで金属の棒だったのに、今は綺麗に磨かれた表面が店内の照明を柔らかく反射していた。
「わぁ!」
叶の表情がぱっと明るくなった。
「すっごく可愛い!」
「どちらもとても綺麗に仕上がっていますよ。手作りならではの風合いも出ていますし……まずはつけてみてください!」
「じゃあ……」
叶が自分の指輪へ手を伸ばそうとした、その時だった。
「あ、叶、待った」
傍にいた新が先に叶の指輪を手に取った。
「俺がつけるよ」
「えっ?」
突然の提案に、叶は固まる。
その様子に新も、動きを止めた。
「嫌だったか?」
「い、嫌じゃない! 全然嫌じゃないけど……!」
むしろ、その逆だ。好きな人に指輪を通してもらう。
それがたとえ婚約指輪でなくても、叶にとっては一大イベントだ。
「じゃあ……お願いします」
「なんで急にかしこまってるんだよ」
「いいから!」
新は苦笑しながら叶の手を取った。
指先が触れた瞬間、叶の心臓がどくんと跳ねる。
新が摘まんだ銀色のリングが、ゆっくりと右手の薬指へ通されていった。
「……よし。ぴったり」
新は指輪がきちんとはまったのを確かめると、叶の手を離す。
叶はすぐに右手を持ち上げ、薬指にはまった指輪を眺めた。
新が私に作ってくれた指輪……。
そう思うだけで鼓動がうるさくなる。
宝物がまた一つ増えたと、胸の奥がじんわりと温かくなった。
「そんなに気に入ったのか?」
「うん。すっごく」
叶は嬉しそうに右手を胸元へ寄せる。
それからトレーに残されたもう一つの指輪へ視線を向けた。
「じゃ、じゃあ次は私がつけてあげる」
新の返事も待たずに叶は指輪を手に取った。
「ほら、手」
「……あ、あぁ」
新が差し出した右手をそっと取り、その薬指へ銀色のリングを通した。
「……よし。こっちもぴったり!」
「おお、本当だ」
二人の右手には、互いに作った銀色の指輪。
叶は自分と新の手を交互に見比べる。
お揃いというだけでも嬉しいのに、互いのために自分達で作ったものだと思うと、特別という言葉だけでは足りない気がした。
「それじゃあ、行こうか」
新が出口へ身体を向ける。
しかし叶は慌てて鞄を開けた。
「あ、新! まだお会計してないよ!」
財布を取り出した叶の横で女性店員が口を挟んだ。
「すでにお連れ様からいただいてますよ。素敵な方ですね」
「え、えぇ!?」
驚く叶に新は満足気な表情を浮かべた。
「叶が指輪に見惚れている間にな。さぁ、行こう」
「私の分も払っちゃったの? ならその分は返すよ!」
「何言ってんだよ。これはデートだろ? カッコつけさせてくれよ」
叶が困ったように財布を握りしめていると、女性店員が新に聞こえないよう、叶の耳元へ顔を寄せた。
「ふふ。いいんじゃないですか? 今日は甘えちゃっても」
「で、でも……」
「いいんですよ。それよりも、あんな素敵な方、うかうかしてたら誰かに取られちゃいますよ?」
「なっ!?」
叶の顔が一瞬で真っ赤になる。
ただ否定する気にはなれず、財布を胸元へ引き寄せながらこくりと頷くと、女性店員は耳元で囁いた。
「今度は婚約指輪と結婚指輪を作りにきてくださいね」
「……頑張ります」
小さく答え、叶は新と共に店を出た。




