クリスマスデート③
アクセサリーショップを出た後、二人は駅前の大型商業施設を歩く。
三分に一度は右手の薬指の指輪を眺める叶に、新が口を開いた。
「叶、そんな嬉しかったのか」
「うん。ありがと新!」
「どういたしまして……あっそうだ。何か欲しい物があったら言えよ? 今日は叶の誕生日なんだからな」
「いいよいいよ! 指輪代も出してもらっちゃったし、昨日このマフラーも貰ったのに!」
叶は首元に巻いたマフラーへ嬉しそうに触れた。
「十分すぎるくらい貰ってるよ」
「いいんだよ。今日くらいは」
なおも食い下がる新に、叶は首を横に振った。
「本当にいいの。これ以上貰ったら、私の方が申し訳なくなっちゃうよ」
「そうか?」
「うん。それに今日は新が一日付き合ってくれるんでしょ?」
「ああ。そのつもりだけど」
「じゃあ、それで十分」
「……それ、プレゼントになるのか?」
「なるよ」
むしろそれだけで最高の誕生日だよ。
とまでは言えず、誤魔化すように別の言葉を口にした。
「次はどこ行く?」
「そうだな……」
腕時計を眺めた新が辺りを見回した、その時だった。
「……ん?」
少し先から、やけにこちらを見つめている着ぐるみがいることに叶は気づいた。
クリスマス仕様の赤い帽子を被り、「クリスマスケーキセール中!」と書かれた看板を持った大きなトナカイの着ぐるみだ。
傍には白い箱が山積みになったテーブルがある。
看板の文字通り、クリスマスケーキの販売のための呼び込みだが、どうにも様子がおかしい。
着ぐるみは通行人に手を振るわけでもなく、ただじーっとこちらを見ている。
どこか不気味さを覚えた叶は着ぐるみの方へ指を差した。
「新、あれ見て」
「ん?」
新が叶の指先を視線で辿る。
その先の着ぐるみを瞳に映すと、その異様な雰囲気に不審そうに眉をひそめた。
「なんだあれ?」
新が呟くと、着ぐるみはこちらへ歩き始める。
一歩、一歩と距離を詰めるごとに叶の恐怖も次第に膨れ上がってきた。
「あ、新……私、怖い」
「叶、下がってろ」
新が一歩前に出て、叶を背中に庇う姿勢をとる。
そして着ぐるみは新達の目の前で足を止めた。
「なんですか?」
新が尋ねると、着ぐるみの内側から低い声が聞こえた。
「……買えよ」
「は?」
「ケーキ買えよ」
あまりにも唐突な要求に、新が間の抜けた声を漏らした。
「な、なんで俺達に?」
「いいから買えよ……お前らはクリスマスに幸せそうにデートして、どうして俺は汗だくになりながらケーキ売らなきゃいけないんだよ」
「……ん? 待てよ」
なにかに気がついた新は警戒を解いた。
「お前もしかして……智也か?」
新の口から語られた親友の名前に、叶は驚きの声を上げた。
「えっ!? 成瀬君?」
「流石だな親友……この姿でも俺だと見抜くとは」
呆れた新の目がジト目に変わった。
「こんなところで何やってんだよ」
「見りゃ分かんだろ。バイトだよ、バイト!」
「いや、それは分かるけど……」
「クリスマスだってのに朝からずーっとケーキ売ってんだぞ! しかもこのクソ暑い着ぐるみ着せられてよぉ!」
成瀬君は怒りをぶちまけるように地団駄を踏むと、叶は苦笑いを浮かべた。
「あはは……大変そうだね」
「叶ちゃん、聞いてくれよ! 俺なんて朝からカップルにケーキ売りつけてんだぞ!? この気持ちが分かるか!?」
「う、うん……お疲れ様」
「それなのによぉ! 親友は可愛い女の子とクリスマスデートですかぁ!? 羨ましいですねぇ!!」
「うるせぇな! 仕事しろよ!」
「仕事なんてしてられるかよぉ! 俺も紬ちゃんに会いてぇよぉ!」
智也はトナカイの着ぐるみのまま頭を抱えてもだえる。
それはそれで小さな子供なら恐怖を覚えてもおかしくないほど不気味だ。
「お前ら、あれだろ!? このあとも二人きりで楽しい楽しいクリスマスを過ごすんだろ!?」
「な、成瀬君! 声大きい!」
「あーいいないいな! ちゃんと、つけるもんはつけろよぉ!」
「と、智也君!?」
叶の表情が一瞬にして茹でだこのように真っ赤に染まった。
「お前っ! 何言ってんだよ!」
新も動揺を隠せず、慌てて着ぐるみの立派な角を掴んだ。
「変なこと言うな!」
「なんだよ! 親友としての忠告だろうが!」
その異様なやり取りはもちろん、多くの注目を集めている。
叶は恥ずかしさのあまり顔を覆った。
「いいからもう戻れ! ケーキなら後で買いに行くから!」
「絶対だぞ!」
「あぁ! 親友同士の約束だ! だから早く戻れ!」
「忘れんなよー!」
そう言い残し、智也はようやく売り場へと戻っていく。
新と叶は同時に大きく溜め息を漏らした。
「まったく、あいつ変なこと言いやがって」
「な、成瀬君らしいね……」
「だな。さぁ俺達もここから離れようか……」
「……そうだね」
二人はそそくさとその場を歩き出した。




