今年は四人で
「「「「メリークリスマース!」」」」
キンッ! と飲み物の入った四つのグラスが重なる。
叶の誕生日を前日に控えたクリスマスイブ。
例年のように父の真と母の愛海は仕事で不在。
そのためいつもクリスマスイブは新と紬と叶の三人で過ごしていたが、今年はそれに加えて御言が場を賑やかにしていた。
テーブルの中央にはローストチキンやピザ、サラダといった料理が所狭しと並び、その端には苺の乗ったホールケーキも置かれている。
元々食べることが大好きな御言は、それらを次々と口に運んで至福の表情を浮かべていた。
「んー! おいしー!」
「御言、そんなに急いで食わなくても沢山あるから」
「そうだけど、私クリスマスって初めてだからさ、なんかいつもより美味しく感じちゃって!」
まぁ日本の神様が西洋文化の代表ともいえるクリスマスを祝うというのも、なかなか妙な話ではある。
もちろん叶と紬は、その言葉を別の意味で捉えているだろうが。
「クリスマスが初めて……なら、思い出になるようにぱぁっと盛り上げないといけませんね」
「ありがと紬」
それからしばらく、四人は料理を囲みながら他愛もない話に花を咲かせた。
御言が必要以上にチキンを頬張って叶に注意されたり、紬が新の皿へ勝手に料理を取り分けたり。
いつもより豪華な食卓は、賑やかな声が途切れることなく続いていた。
やがて料理も大方なくなり、満足したところで、紬がパンッと両手を叩いた。
「さてと……そろそろメインイベントに移りましょうか」
紬がそう言うと、御言が目を輝かせながら立ち上がった。
「待ってました! プレゼント交換!」
「はい。それじゃあ皆さんプレゼントを用意してください」
その言葉を合図に、それぞれが椅子の下に置いていた紙袋を手に取る。
まずは紬がプレゼントを取り出した。
「じゃあ私から。お二人にはこれを」
紬が叶と御言に丁寧に包装された箱を渡す。
受け取った二人は、やや浮き立つ気持ちを抑えられないように箱を見つめていた。
そんな二人に紬が「どうぞ開けてください」と告げる。
紬に促された二人は、丁寧に包装紙を解いていく。
「わぁ……可愛い!」
先に声を上げたのは叶だった。
箱の中に入っていたのは、花飾りの付いたヘアゴムとハンドクリームだ。
「叶お姉様、いつも髪をまとめてますよね? なので普段から使えるものがいいかなって」
「ありがとう、紬ちゃん。ちょうど新しいヘアゴム欲しかったんだ」
叶はヘアゴムを手に取ると、飾りを指先でそっと撫でる。
その隣では御言が金の瞳を子供のように輝かせていた。
「狐だー!」
御言が取り出したのは狐を模した小さな飾りの付いたヘアピン。そして彼女の箱にも叶と同じハンドクリームが入っていた。
「すっごく可愛い! ありがと紬!」
「気に入ってもらえてよかったです」
御言は早速ヘアピンを髪に付けると、叶の方へ顔を向けた。
「どう? 似合う?」
「うん、可愛い」
「えへへー」
喜ぶ二人の姿に、紬は満足そうに頬を緩めると席を立ち上がった。
「次はお兄様ですね。ちょっと待っててください」
そう言うと、紬は一度リビングを出て行く。
新が首を傾げていると、彼女は廊下の向こうから何やら大きなものを抱えて戻ってきた。
「お待たせしました」
「つ、紬……それって……」
新は絶句する。
紬が抱えていたのは、彼女とほとんど同じ大きさで、一目で紬だとわかるほどそっくりの人形だった。
「じゃーん! 等身大の私です! どうぞ、お兄様!」
人形を渡され、新は反射的に両腕で抱きかかえる。
近くで見れば見るほど、その完成度の高さに紬の本気度が垣間見えた。
「あ、ありがとう紬……」
「いえいえ! 部屋に飾ってくださいね! 出来るだけお兄様の部屋が一望できる場所に!」
何故か鼻息の荒い紬の傍で、叶と御言は何とも言えない表情で人形を見つめている。
この状況をなんとかしようと、新は席を立って人形をソファに座らせた。
「じゃ、じゃあ次は俺から!」
新は用意した紙袋から三つの箱を取り出し、三人に渡す。
受け取った三人の表情は一斉に明るくなった。
「開けていい!?」
御言が尋ね、新は「もちろん」と返す。
三人が同時に包装を解き、中身を取り出した。
「マフラー!」
叶は自分の髪色を思わせる藍色のマフラーを持ち上げ、さっそく首元へ当てる。
御言のは柔らかな白色。紬は深い緑だ。
「三人とも色違いにしたんだ。冬はこれからが本番だし、使えるかなって」
「ありがと新!」
「大切にします、お兄様!」
「ありがとう。すごく嬉しい」
三人は早速それぞれのマフラーを首に巻き、嬉しそうに顔を見合わせた。
「じゃあ次は私」
叶も三人へプレゼントを渡した。
それぞれが包装を解くと、まずは紬が声を上げた。
「まぁ! 素敵な瓶のヘアオイル!」
「紬ちゃん、毎日髪の手入れ頑張ってるでしょ?」
「ありがとうございます! お姉様!」
次に御言が声を上げた。
「私は湯呑みだ!」
「御言は日本茶が好きだからさ、どうかな?」
「めっちゃ嬉しいよ叶! これで毎日十杯飲む!」
「それは飲み過ぎ」
叶が苦笑いを浮かべると、最後に新が箱を開けた。
「俺は……あっ!」
新は目を見開く。
箱の中には、落ち着いた色合いの細身のシャープペンが入っている。
初めて見たものではない。少し前に文房具店で見つけて、長い時間かけて買おうかどうか迷った限定デザインのものだ。
「叶、これ!」
「新、今使ってるの結構古いでしょ? よく芯詰まってるし。それに前、それをじっと見つめてたから丁度いいかなって」
「ありがとな。大事に使うよ」
叶が「うん!」と頷くと、最後に御言がプレゼントを取り出した。
「残るは私だね! はい! 三人ともどーぞ!」
御言が三人へ差し出したのは、それぞれ色の違う小さなお守りだった。
「わぁ……綺麗な柄……」
叶が手のひらに乗せたお守りを眺める。
細かな花や葉を思わせる模様が金糸で縫い込まれ、市販のものとはどこか違う、不思議な趣があった。
「でしょ? 私が作ったんだよ」
「御言が?」
「うん! しかもただのお守りじゃないよ。とびっきりのおまじないを込めた……じゃなくて、込めてもらったから!」
御言は得意げに胸を張る。
いかにも御言らしい。
彼女の正体を知る新だけは、この御守りがどれだけ貴重な物なのかを理解した。
「確かに、とてもご利益がありそうだ」
「すっごいよ! だから絶対なくさないでね!」
「あぁ……ありがとう御言」
三人がそれぞれお守りを手にする姿を見て、御言は満足そうに笑みを深めた。




