表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐の恩返しは余命宣告でした【テーマソングMV公開中】  作者: Echo&Ink
二度目の高校生活。ただし狐付き
PR
9/59

真の野望


 高校生になった妹との下校路はまさに地獄だった。

 紬は品の良い姿勢で、微笑みながら新の隣を歩いている。

 

 だが、言葉は一切ない。

 理由はわかっている。だから新からも迂闊に口を開けない。

 

 いつもより長く感じる学校から家までの十五分が無言で終わる。

 他の民家より少し存在感のある藤宮家は、多忙で両親が不在の新と紬だけでは大きすぎる。

 指紋認証のオートロックを紬が開き、中に入る。

 新もその後に続き、扉が閉まる。

 直後、紬は持っていた鞄を落とし、新に抱きついた。

 

「紬……」

「どういうことですか? 紬、頑張りました。受験も今日の挨拶も……またお兄様と一緒に登下校できるこの日を夢見て……なのに……」

 

 紬はバッと顔を上げ、新の目を見る。

 その表情は学校で浮かべていたあの完璧とも思える微笑みとは違う。

 瞳を潤ませ、駄々をこねる幼子のようだ。

 

「婚約者とはどういうことですか! 誰なのですかあの女は!」

「お、落ち着け紬!」

「落ち着いてなどいられますか! お兄様は紬のお兄様なのですよ! 私の夢……忘れたのですか!?」

 

 始業式でも話していたように、紬の夢はこの国のトップとなること。

 しかし、それだけではない。

 彼女の本当の夢はその先にある。

 

 二親等内の婚姻の実現。

 

 そう、この妹はこの国で前代未聞の法改正を成し遂げ、兄である新と正真正銘の夫婦になるつもりなのだ。

 

「お兄様のことを誰よりも知っているのは紬です! 誰よりも愛しているのも!」

「紬、そうは言ってもだな……」

 

 御言との婚約が明るみになった時点で、わかっていた。

 この常軌を逸した超絶ブラコンの妹が、黙っているはずないと。

 

「お兄様! 紬は絶対許しませんよ! お兄様と結婚するのは紬です! 絶対、絶対絶対絶対! お兄ちゃんは渡さないんだからぁ!」

 

 藤宮家の人間のうち、一人はこの街に残り縁を繋ぐ。

 本来ならこの国最難関の高校にも、容易に入学できる才能を持つ紬がこの街に残ったのも、兄への愛ゆえのものだ。

 

「つ、むぎ……苦しい……」

「離しません! 紬が今日、どれほどショックだったか……婚約の話を聞いてから記憶がありません!」

「だ、大丈夫だ! 立派な妹だったからぁ……」

 

 必死に紬を引き剥がそうとする。

 その時、玄関のインターフォンが来客を知らせた。

 

「紬、誰か来た……きっと叶だ」

「関係ありません!」

 

 こうなった紬は、話が通じない。

 再びインターフォンが鳴る。

 ……この手は使いたくないが、しょうがない。

 

「よし、じゃあ離してくれたら、今日は一緒に寝よ——」

 

 言い終わる前に、紬は手を離しインターフォンへ向かう。

 そして学校と同じ、清らかな微笑みでマイクに語りかけた。

 

「あら、叶お姉様。どうぞ、入ってください」

 

 すぐに玄関の扉が開き、薄手のパーカーとジーンズに着替えた叶と目が合った。

 

「新、お邪魔します」

「おう」

「どうして玄関に立ってるの?」

「今帰ってきたところなんだ」

 

 叶が「ふうん」と返すと、静かな足音が近づいてきた。

 

「叶お姉様」

 

 声の方を見ると、紬がこちらへ歩いてきていた。

 先程まで新に抱きつき、涙目で叫んでいた妹とは思えない。

 背筋はすっと伸び、歩幅も乱れず、表情には清らかな微笑みが浮かんでいる。

 完璧な藤宮紬だった。

 

「紬ちゃん、今日の挨拶、よかったよ」

「ありがとうございます。お姉様に褒められると私、自信が持てます」

 

 恥じらうように紬が微笑む。

 だが、その微笑みはすぐに消え、紬は目を細めた。

 

「ところで、叶お姉様」

「なに?」

「お姉様も、気になっていらっしゃいますよね?」

 

 紬が問いかけると、叶の目にも感情が現れる。

 元々切れ長の美しい目が、更に鋭さを増した。

 

「……まあね」

 

 短い返事に、新の背筋を嫌なものが走る。

 目を合わせる叶と紬の間に、言葉はない。だが、確実に何かが通じ合っていた。

 

 今年から再び同じ学び舎の先輩後輩となった二人だが、元々は新と同じ、物心つく前から一緒にいる存在だ。

 女性同士ということもあり、新とはまた違う連帯感がある。

 今だって、阿吽の呼吸で同時に新へ振り向いた。

 

「それじゃあ」

「それでは」

 

 二人の声が、ほとんど同時に重なった。


「「じっくりと、聞かせてもらいましょうね」」


 そりゃそうなりますよね……。

 心の中で呟いた新はごくりと喉を鳴らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ