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狐の恩返しは余命宣告でした【テーマソングMV公開中】  作者: Echo&Ink
二度目の高校生活。ただし狐付き
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予想外の来客 前編


 叶と紬がL字ソファに座り、ローテーブルを挟んで正座をした新を見つめる。

 目を合わせる事が出来ない新に、まず紬が口を開いた。


「早速本題から……お兄様」

「はい」

「まず稲荷坂先輩は何者なのですか?」

「御言は……」


 狐の神様です。

 と言ったところで信じてもらえるはずがない。

 

 だが、安易な言葉を選べばボロが出るだろう。

 慎重に言葉を選ばなければならない。

 だからこそ、新はすぐには口を開けなかった。


「新、私達になにか隠してる?」


 少し心配した様子の叶が新の顔を覗き込んだ。


「な、なにも隠してない!」

「なら、教えてよ」

「それは……」


 視線を落とした新が必死に言葉を探す。

 その時、玄関のインターフォンが来客を知らせた。

 

 助かった。これで時間を少し稼げる。

 

 そんな言葉が、心の底から浮かび上がると紬がすっと立ち上がった。

 

「私が出ます。お兄様はそのままで」


 紬がインターフォンのモニターへ向かう。

 画面を確認した瞬間、その表情がわずかに変わった。


「……え?」

『突然ごめんなさい。ちょっと話があって来たのだけど、上がらせてもらえるかしら?』


 モニターのスピーカーから聞こえた声には聞き覚えがある。

 それもつい最近だ。


「は、はい! すぐ行きます!」


 慌てた様子の紬が玄関へ小走りで向かう。

 正座をしたままの新が叶と顔を見合わせていると、紬はすぐに客人を連れて来る。

 その姿が見えると、叶も驚いてソファから立ち上がった。

 

「あ、あなたは……理事長!?」


 そう、来客は片手に紙袋を下げた稲元だった。

 

「あら? 柚木さんまでいたのね?」

「新と紬ちゃんとは、家も隣で仲が良いので……」

「そうだったのね。丁度良かったわ」


 稲元がそう言うと、叶は空いたソファを掌で指し示した。


「どうぞ座ってください」

「ありがとう。でも、その前に……」


 稲元はソファに座ることなく、正座をしている新へ視線を落とした。


「藤宮……いや、新君はどうして正座をしているのかしら?」


 それに答えたのは、キッチンから戻り、コーヒーを淹れたマグカップを盆に乗せた紬だった。

 

「少々話し合いを」

「ふーん、それは新君と稲荷坂さんの婚約の話?」

「えぇ、急すぎて理解が追い付いていなかったので」

「そうよね」


 稲元はL字ソファの短い方に腰を下ろす。

 その前のローテーブルに紬がコーヒーを置くと、稲元は持っていた紙袋を差し出した。


「大した物じゃないけど」

「ありがとうございます」


 受け取った紬が頭を下げると、稲元は涼し気に微笑んだ。

 

「それじゃ、気になってるだろうから私が来た理由を話しましょうか。皆さんも座ってくださる?」


 稲元がL字ソファの長い方へ手を差し出すと、叶、紬が左から順に腰を下ろす。

 新も痺れた足を庇いながら、紬の隣に座ると稲元は再び口を開いた。


「まず、私が来たのは紬さんと柚木さんに説明する為なの」

「説明ですか?」


 叶が聞き返すと、稲元は「えぇ」と返して続けた。


「新君と稲荷坂さんは私を通して出会ったの」

「え?」


 小さく反応した新は目を見開く。

 一方で稲元は微かに新へ視線を向けている。

 話を合わせて。

 そう言われているような気がした。


「どうしてそんなことに?」


 紬が問い返した。


「まず稲荷坂さんは私の恩人の娘なの。そして偶然にもその一家は新君、紬さんの藤宮家とも縁がある」

「稲荷坂という名は、聞いたことありませんが……」


 表情を少し険しくした紬に稲元は淡々と続けた。


「かなり古い縁だもの。でも、事実よ。柚木さんも、稲荷坂さんから同じこと聞いてないかしら?」


 叶は少し戸惑った様子で「はい」と頷いた。


「学校の屋上で話した時、聞きました」

「なら話に置いてかれないわね。それである日、稲荷坂さんのご両親から私に連絡があったの。『娘をしばらく普通の学校に通わせたい。けれど、彼女は世間知らずなところがあるから、信頼できる人の近くに置きたい』とね」

「それで理事長がいる瑞穂学園へ?」


 稲元は「そうよ」と言って、コーヒーを一口飲んだ。


「そこで同い年で家同士の繋がりもある新君に、稲荷坂さんの面倒見を頼んだの」


 叶が続けて問いかけた。


「それがどうして婚約の話になるんですか?」

「それは私も予想外だったの。実は三人共、幼い頃に稲荷坂さんに会ったことがあるのを覚えてる?」


 稲元の言葉に、新達は顔を見合わせた。

 叶も紬も首を横に振る。

 御言の口からも、同じ事を聞いている。

 しかし、詳しい事は新もよく知らず、全く記憶に無い。

 

「実は誰も覚えてないんです」

「無理もないわ。会ったといってもごくわずかな時間、でも稲荷坂さんにとっては、とても大切な思い出だったみたい」

「そこまで大切になるほどの大事おおごとだったんですか?」

「そうでもないわ。それでも稲荷坂さんの中では忘れられない出来事なの……あの子の生い立ちを考えればおかしくないわ」

「そんなに特殊な生い立ちだったんですか?」

「特殊も特殊。簡単に言えば家の事情で、外の世界とはほとんど関わらずに過ごしていたわ。普通に友達を作ることも、同じ年頃の子と遊ぶことも、ほとんどなかった。代金を支払わずに購買から昼食を持ってくるとまでは思わなかったけどね」


 小さく笑って、稲元は再びコーヒーを挟んだ。


「話が少し逸れたわね。ともかく稲荷坂さんはずっと貴方達三人に会いたかったの。中でも新君への想いは際立って特別なもの。その記憶を宝物のように抱え、幾夜も再会を願ってきたのでしょうね」

「宝物……」


 叶が小さく呟く。

 その声には、少しだけ複雑な響きがあった。


「だからと言って婚約者を名乗るのは行き過ぎかと」


 紬がそう言うと、稲元は柔らかな微笑みのまま「その通りね」と答えた。


「紬さんの言う通りね。ここはしっかりと真相を話すわ」

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