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狐の恩返しは余命宣告でした【2nd Single MV公開中】  作者: Echo&Ink
包まれるの赤か、それとも赫か
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炎の中でも確かに伝わる温もり


「紬……本当に良かった……」


 新は炎の中で紬を見つけるや否や、その小さな身体を抱き締めた。

 灼熱の中でも、妹の温もりが肌に伝ってくる。

 それが泣き出しそうなほどの安堵を覚えさせた。


 一方の紬は、この状況が信じられないのか、新の顔をじっと見つめている。

 しかしそれも束の間、彼女は顔をくしゃりと歪めた。


「お兄ちゃん……お兄ちゃあん」


 紬が新の背に腕を回すと、新の存在を確かめるかのように服の生地をぎゅっと握った。


「怖かったな紬。もう大丈夫だからな」

「うぅ……もう会えないかと思ったよぉ!」

「よしよし、さぁ早く出よう。歩けるか?」

「うん……でも、あの人が……」


 紬は新から離れて背後を見る。

 そこには、ここの職員と思われる男性が倒れていた。

 

「わかった。俺があの職員を運ぶ。紬は離れるなよ」

「うん」


 紬が涙の溢れる目を擦りながら大きく頷く。

 倒れている男性職員のもとまで駆け寄ったその時、新達の頭上で瓦礫が崩れた。


「なっ!?」


 避ける暇はない。

 新はせめて紬だけはと、小さな身体を庇うように覆い被さった。


「お兄ちゃんっ!」


 瓦礫が落ちてくるまでの僅かな間、紬の叫び声が腕の中から聞こえる。

 その直後、落下してきた瓦礫が突如横から弾かれるように吹き飛んだ。


「新早く! 火の回りが早すぎる!」


 入り口から女性の声が聞こえる。

 御言がこちらへ駆けて来ていた。


「御言! 助かった!」

「い、稲荷坂先輩?」


 新の腕の中から離れた紬が驚きの瞳で、御言を見つめる。

 その小さな身体を御言も抱き締めた。


「良かった……紬……もう大丈夫だからね」

「稲荷坂先輩まで……どうして」

「紬が大切だからに決まってるでしょ? さ、早く逃げましょ――」


 ドォンッ!


 御言の言葉を、爆音が遮った。

 次の瞬間、炎を巻き込んだ爆風が三人めがけて押し寄せる。


 御言は咄嗟に新と紬の前へ飛び出す。二人を背後に庇うと、両手を爆炎へ向ける。

 すると御言の眼前に、半透明の壁のような障壁が展開された。


 炎と爆風が、凄まじい勢いで障壁へと叩きつけられる。

 轟音と共に視界が真っ赤に染まった。

 

 しかし、新達のもとには熱も衝撃も一切届かない。

 目の前では、燃え盛る炎が半透明の障壁に完全に遮られている。荒れ狂う爆風も、その向こう側で左右へと弾かれていた。


 炎の嵐を防ぎ切った御言の前から障壁が消える。そして、彼女は新へ振り返った。


「さぁ早く!」

「あ、あぁ!」


 新が倒れていた職員を背負い上げる。

 一方の紬は先程の御言の所業に、呆気に取られていた。


「稲荷坂先輩……今何を?」


 無理もない。

 紬にとって御言は、突如現れた転入生。

 その正体が神様だと知らない彼女には、到底信じられない光景だったに違いない。

 しかし説明する暇はないと、新は口を挟んだ。


「話は後だ! 行くぞ!」


 新の言葉に紬と御言の二人が続こうとした時、御言だけが足を止めた。

 

「御言! 何やってんだ! 早く行くぞ!」


 新が声を張り上げる。

 だが御言は動かない。

 ただじっと、出口とは別の方向を見つめていた。


「……御言?」


 先程までとは明らかに様子が違う。

 御言の表情には鋭い警戒の色が浮かんでいた。


「新」

「なんだよ?」

「紬ちゃんを連れて、先に行ってて」

「はぁ!?」

「いいから」


 御言は視線を廊下の奥から外さない。

 その金色の瞳が、炎の向こうにある何かを睨みつけていた。


「お願い、私を信じて」

「御言……」


 きっと彼女が警戒するほどの何かがあるのだろう。

 そして、そこに自分が入り込むことはできないと、新は悟った。


「……わかった」


 新がそう言うと、紬が慌てた様子で新の袖を引っ張った。


「お兄ちゃん! 一緒に出なきゃ駄目だよ!」

「安心しろ紬。御言は凄いやつなんだぜ?」


 新は男性職員を背負い直して、出口へ半身を向けた。


「御言! 後でな!」

「うん!」


 御言はいつもの笑顔で頷く。

 それを見届けてから新は、紬と共に出口へ向かった。

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