夕食、防衛本能
課題を終え、新達は交流センターを後にして宿泊先の施設へと移動した。
それぞれ割り当てられた部屋に荷物を置き、しばらくして夕食の時間を迎える。
この研修会の目的は他校との親睦を深めること。
当然この時間も、水瀬と白石と同じ卓を囲むことになっていた。
「まじ! あの銀髪の子、藤宮の婚約者なの!?」
会場に水瀬の声が響き渡る。その隣で慎ましく咀嚼をしていた白石も、口元に手を添えて驚きの表情を浮かべていた。
「今時、学生のうちに婚約なんてあるんですね……」
「はい、ですから誤解されるような行動は控えてもらえると助かります」
新が小さくため息をつきながら汁物を啜る。
すると、白石は少し離れたところで給仕をする御言と叶へ視線を移した。
「では、あの青い髪の方は?」
「幼馴染だ」
「幼馴染……」
白石が呟きながら、叶を見続ける。
その視線に気付いたのか、叶がこちらを見た。
叶の視線はすぐに新へ向く。
昼間のことを根に持っているのか、ぷくっと頬を膨らませる。それを見ていた白石は再び口を開いた。
「あの幼馴染の方は、どうしてあそこまで藤宮先輩に怒っていたのですか?」
言われてみれば、なんでだろうな?
言葉に詰まった新の代わりに、ニヤリと笑った水瀬が口を開いた。
「あれはどう見たって、妬いてんじゃないの? 目の前で私や凜が藤宮に色目使ったから」
「ひ、陽菜さん! 私は色目なんて使ってません!」
「凜、いつも言ってるけど、初対面の男相手に素であーんするのは気を付けなさいな。あれが一番男子に効くんだから」
「どういうことですか?」
「そういうところよ……あ、藤宮、私トマト食べられないから食べて」
水瀬がミニトマトを箸で摘む。
そして新の口元へ運んだ。
「はい、どーぞ」
「水瀬先輩!? 食べるのは構いませんが、自分が今なに話してたか忘れたんですか――ひっ!?」
新が反射的に体を反らせて、ミニトマトから距離を取った時だ。
背筋にとてつもない悪寒が走った。
出所は叶と御言ではない。幸い彼女達は給仕の作業で、こちらを見ていない。
だが確かに禍々しく、刺すように鋭い気配はすぐそばにある。
身体の奥底にある防衛本能が、全力で警鐘を鳴らしていた。
新は恐る恐る振り返る。
少し離れた卓で、紬がこちらを見ていた。
左手に茶碗、右手に箸を持ったまま固まり、笑みはない。
ただ恐ろしいほど冷たい目で、隠す気すらない明確な殺意を一直線にこちらへ向けていた。
あ、まずい。
これ以上はほんとにまずい。
このままだとこの交流会も、第一回目にして血が流れるかもしれない。
本気でそう感じた新は、すぐ立ち上がった。
「お、俺! ちょっとトイレに!」
咄嗟に絞り出した言葉に水瀬がやんわりと不快な表情を浮かべた。
「ちょっと〜食事中にやめてよ」
「ははは……すいません」
軽蔑されようが構わない。
今は一刻も早く、水瀬が箸で摘んだミニトマトから逃げなければならないのだから。
「ト、トマトは俺の皿に置いておいてください! じゃ、行ってきます!」
新は逃げ出すようにその場を離れた。




