↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐の恩返しは余命宣告でした【2nd Single MV公開中】  作者: Echo&Ink
包まれるの赤か、それとも赫か
PR
73/109

誤算


「どういうことだよ紬」

 

 帰宅して早々、新は紬を問い詰める。

 振り返った紬はわざとらしく首を傾げた。


「なにがですか?」

「とぼけるな。どうして知らないうちに俺も行くことになってるんだよ?」


 クスッと笑った紬は両手を合わせた。


「手段があるのに、私がお兄様を置いて家を空けるわけないじゃないですか」


 けろっと言い切った妹に、新は大きなため息をついた。


「お、お前なぁ……一言くらい言ってくれても……」

「ふふ、驚く顔が見たかったのでつい」


 紬はそう言って、新のそばに歩み寄る。

 そして両手を広げて抱きついた。


「つ、紬? いきなりどうしたんだよ?」

「あら、妹が兄に抱きつくのはおかしいですか?」

「そういう問題じゃない。一応紬は高校生なんだから、年相応の……」

「まぁ! ではお兄様は、紬が年相応に反抗期を迎えて、『お兄様なんて大嫌いです』とか、『こっち見ないで』とか言って、口も利かなくなってもよろしいのですか?」

「なんでそうなるんだよ?」

「ふふ、まぁ私がお兄様にそんな態度をとることなんて、ありえませんけど」


 紬は新から離れてキッチンに向かうと、慣れた手つきでケトルに水を注いでスイッチを入れた。


「お兄様、お茶を淹れますのでソファに座って待っていてください」


 言われるがまま、新はソファに腰を下ろす。

 すると、テーブルの上には交流研修の資料が置かれている。

 その資料を手に取った新は内容に目を通し始めた。


「そもそも、場所はどこなんだ?」

「安心してください。研修先はお兄様が宿泊研修で訪れた市内の施設です。ですので藤宮家のしきたりにも触れません」


 新は「そうか」と返して、再び資料に目を落とす。

 研修期間は二泊三日。

 参加するのは瑞穂学園を含めた三校で、それぞれ各学年から一名ずつ選出される。


 当日は学校や学年を混ぜた班に分かれ、共同で様々な研修を行うらしい。


 こうなったからには、学校の代表として無礼がないように取り組むべきだろう。


「ま、交流の輪を広げて損はないな。俺も楽しみになってきた」

「あぁっ!」


 突如キッチンの紬が叫ぶ。

 そして両手をキッチン台について愕然とした様子で俯いた。


「ど、どうした紬!?」

「私としたことが……なんたる失態を……」

「失態?」


 紬はキッチンから飛び出すと、新の両手を握った。


「どどど、どうしましょうお兄様!」

「だからどうしたんだよ!?」

「お、お兄様が交流研修会に参加すれば、他校の生徒とも繋がりができますよね?」

「当たり前だろ。それが目的なんだから」

「それが問題なのです!」


 普段は凛としていて何事にも動じない紬だが、この時は焦りを露わにし、新へ顔をぐっと近づけた。


「他校の女子生徒がお兄様の魅力に気づいてしまいます!」

「……は?」


 予想だにしない言葉に、間の抜けた声が漏れた。


「俺の魅力?」

「はい! この際ですからはっきりさせておきましょう! お兄様は、ご自分がどれほど無自覚に異性を惹きつけているのか、まるで理解しておりません!」

「いやいや、俺が? 異性を惹きつける?」

「その反応が何よりの証拠です!」


 紬は握った新の両手に、ぎゅっと力を込めた。


「誰に対しても分け隔てなく優しくして、困っている人を見れば放っておけない。頼られれば嫌な顔ひとつせず手を貸して、そのくせ相手から好意を向けられても全然気づかない!」

「最後のは知らないけど……それくらい普通じゃないか?」

「普通ではありません! いいですか、お兄様。例えば研修中、他校の女子生徒が重い荷物を持っていたらどうします?」

「そりゃ、手伝うけど」

「作業についていけず困っていたら?」

「教えるだろ」

「体調が悪そうだったら?」

「声をかける」

「あぁぁぁぁっ!」

「うわっ! なんだよ!」


 紬は新の手を離し、頭を抱えた。


「駄目です……駄目です駄目です!」

「なにが駄目なんだよ? どれも当然のことだろ?」

「その当然のことを、世界一魅力的なお兄様がしてしまっては駄目なのです!」


 抱えた頭をぶんぶんと横に振る紬に、新は溜め息をついた。

 

「お前なぁ……前から思ってたけど俺を買い被りすぎだぞ?」

「なにを言ってるのですか! お兄様以上に魅力的な男性などこの世にいません! 顔立ちは凛々しく、かっこいい! 勉学は優秀! 運動も人柄も文句のつけようがない!」

「やめてくれ……なんか恥ずかしくなってきた」

「まだ言えますよ! お兄様の長所ならあと一兆個は言えますとも!」


 変なスイッチが入った妹を、新が落ち着かせたのは日がとうに暮れた後だった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。