↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐の恩返しは余命宣告でした【2nd Single MV公開中】  作者: Echo&Ink
包まれるの赤か、それとも赫か
PR
72/108

交流研修会



「なぁ叶、交流研修会ってなんだ?」


 放課後の理事長室。

 新が隣の叶に尋ねると、叶は口に運びかけていたビスケットを摘んだ手を止めた。


「複数の学校から、各学年一人ずつ選んで、他校との交流を目的に研修合宿をするらしいよ。始業式の日に学校掲示板に貼られてた」


 初耳、というよりも新が知っているこの時期にそんな話など無かった。

 この二度目の高校二年生は全く新の記憶とは違うものだと言えど、まさか学校行事が増えるとは……。


 新は向かい側に座って、ビスケットを口いっぱいに頬張る御言を見る。

 目が合う。

 御言は新の視線に込められた意図を察したように見えたが、「私もよくわからない」と言いたげに少し困った様子で首を傾げるだけだ。


 その時、理事長室の扉が開かれる。

 姿を見せたのは理事長の稲元朱美だった。


「あら、三人ともいらっしゃい」


 朱美が軽く微笑むと、御言がぶんぶんと手を振った。

 

「朱美ちゃーん、いいところに! 来月の交流研修のことで聞きたいことがあるの!」

「あら、なにが聞きたいのかしら?」


 理事長席に腰掛けた朱美に、新が問いかけた。


「今回の交流研修会って、今年初めてやるのに開催はもう来月ですよね? それにしては生徒に知らされるのが随分急だなと思いまして……」

「当然の疑問ね。最初の打診があったのは夏休み前だったの。それからとんとん拍子で話が進んで、今に至るってわけよ」

「だとしても、よく他校との折り合いがつきましたね」

「大きなスポンサーがついていたのよ。コネクション作りとして他校は是が非でもって感じだったわ」

 

 少し大人の事情が組み込まれていることを知った新は「へぇ」と相槌を打つ。

 すると、再び扉が開き紬が姿を現した。


「失礼します……皆様、お待たせしました」


 紬がそのまま中へ入ってくると、御言が自分の隣をぽんぽんと叩いた。


「紬! 紬も一緒に食べよう!」

「ありがとうございます。では、ご一緒させていただきます」


 紬がスカートに皺がつかないよう、上品に裾を整えながら腰を下ろすと、御言はテーブルの上に置かれていたビスケットが詰め込まれた箱を差し出した。

 

「今日はね、とっても美味しいビスケットがあるの!」

「まぁ、確かに美味しそうですね」

「でしょでしょ」


 御言はビスケットを一枚摘まむと、そのまま紬の口元へ差し出した。


「はい、あーん!」

「い、稲荷坂先輩……自分で食べられますよ?」

「いいからいいから! はい、あーん!」


 御言はにこにこと笑ったまま、ビスケットを引っ込める気配がない。

 紬は困ったようにそれを見つめていたが、やがて観念したのか、口をゆっくりと開く。

 そこにビスケットが運ばれた。


「どう? 美味しい?」

「……はい」


 口元に手を添えて咀嚼をする紬に、叶が声をかけた。


「そういえば紬ちゃんは、一年生の代表として交流研修会に行くんだよね?」

「はい、学年主任から直接お誘いを頂きましたので」


 当然と言えば当然だろう。

 

 この名門校である瑞穂学園においても、紬の生徒としての立ち位置は他の生徒に比べて上澄みにある。

 こういった学校の代表に選ばれるには申し分ない。

 叶も同じことを思ったらしく、感心したように紬を見ていた。


「流石だね紬ちゃん」

「ありがとうございます。瑞穂の名に恥じぬよう精一杯努めてまいります」

「頑張れよ、紬。せっかく選ばれたんだし、楽しんでこい」


 新も素直に応援の言葉を送る。

 すると、紬は口を僅かに開いてぽかんとした表情で新を見た。


「お兄様……何を仰っているのですか?」

「何って、交流研修会のことだけど」

「いえ、そうではなく……」


 紬は困惑したように眉を寄せる。

 その反応に新も首を傾げていると、理事長席から朱美の呆れた声が飛んできた。


「新君。あなたこそ何を言っているの?」

「え?」

「え? じゃないわよ」

 

 朱美は机の上に置かれていた書類を一枚持ち上げる。


「二年生の代表はあなたよ?」

「……はい?」


 今度は新がぽかんとする。

 直後、嫌な予感がした。


 新は紬へ視線を戻す。

 彼女の口元は、微かだが確かに歪んでいた。


 ——やられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。